第47話 休憩所での一幕
台風一過。
ヘロイーゼとの出会いはまさに嵐のようであった。彼女が去った後の巨木の休憩所は
自然の演奏会を聞きながら、レーヴァは果実水を飲み嘆息する。
『それにしても騒がしい
「違うからね! またとか言わないで!」
笑みを含んだレーヴァのからかいをアランが慌てて否定する。しかし、そんなアランの態度にレーヴァは軽く首を傾げた。
『ん? ヘロイーゼが神殿で許可をもらい、意気揚々と『教皇様からOK出たので大丈夫です!』とやってきたら、お主は追い返すことができるのかぇ?』
「ぐっ! そ、それは……」
レーヴァの問いかけに、アランは満面の笑みで走り去ったヘロイーゼを思い出し困った顔になる。
「そこは穏便に――」
『
「レガリアは、お酒をあげたら許してくれそう」
『ああ、それはそうじゃろうがのぅ。もうちと言い方を考えてやれ。その言い方じゃと単なる飲んだくれじゃわぃ』
レガリアには蒸留酒入りの果物水を渡せば何とかなるとアランが伝えると、その通りだがもっと言い方はないのかと、レーヴァは苦笑しつつ会話を終わらせた。
『まあ、すぐには来んじゃろうからのぅ。待つしかないわい』
「そうだね。今は考えないようにしておこう。よし、後は片づけて今日は終わりかな」
『まあ、今から村に戻っても深夜になるじゃろぅ。ここで1泊するのもよかろうて』
アランとレーヴァは1泊することを決める。巨木の休憩所は旅人が野営出来るように地面がならされており、どこにでもテントが張れるよう整備されていた。
「テントを出してもらっていいかな?」
『おでアランにテントわたす』
アランは背負子から簡易テントを受け取り、手際よく組み立てていく。雨風さえしのげればいいのでタープ型であり、巨木を背後にして仕上げていく。
そのころには周囲は夕闇を迎えており、合わせて焚き火を作って明かりを確保したアランは大きく伸びをする。
「ふー。疲れたー。今日はもう寝るよ。ゴメンだけどレーヴァに火の番をお願いしていいかな。一瞬で寝ると思う」
『まあ、よいじゃろう。この数日はバタバタとしたからのぅ』
「ありがとう。じゃあお休みー」
レーヴァの言葉にアランは大きくあくびをすると、毛布にくるまって横になった。そして次の瞬間には寝息を立て始める。
『もう寝おったわぃ』
本当に一瞬で寝入ったアランに、レーヴァは苦笑を浮かべた。
『信頼してくれるのはありがたいのじゃが、もうちょっと緊張感を持って欲しいのぅ。もし、野生動物や魔物に襲われたらどうするんじゃ。まあよい。今日は儂がしっかりと夜番をしてやろうぞ」
幸せそうに寝ているアランの髪を優しくなでながら、レーヴァはここ最近の事を思い出す。目に浮かぶのはアーティファクト級の武器たちであった。
『エクスカリバーにユグドラシルの杖。それに聖女の錫杖か。まあよくもこの時代に集まったものじゃのぅ』
レーヴァはアーティファクトに想いを
『魔王は討伐された。じゃがなぜこうも具現化した奴らがアランを中心に集まっておるのじゃ?』
この世にアーティファクトと呼ばれる神話級の武具は5つあり、自分を含めて4つまでがアランを中心に集まっているようにしか見えなった。
『儂が具現化したのがきっかけになったのか? それとも物騒な何かが生まれようとしておるのか? まったく理解が出来んわい。ルーイーが回収した魔族の書物に何か書かれて? まさか――いや、口にすることすらよくないのぅ』
レーヴァはそう呟き、アランが用意した枝をへし折ると焚き火へ放り投げていく。火が回った枝が爆ぜる軽い音を聞きながらレーヴァは物思いに
◇□◇□◇□
『ほりゃ起きろアラン。もう朝じゃぞ』
「んー。分かったー。思った以上に熟睡できたよー」
『そりゃ良かったのぅ。じゃったら気分もスッキリしたじゃろうて。早う儂に朝食を作らんか』
レーヴァに起こされ目覚めたアランが大きく伸びをする。そして凝り固まった身体をほぐしながら、背負子から食材を取り出すと調理を始めた。
「えっと。厚切りベーコンを賽の目切りにしてスープに入れてっと。パンはユーファの所からもらったいいのがあるからそれを出してっと。もちろん果物がいるよね?」
『当然じゃ』
「だよね。まだブドウが残っているからそれを出すでしょ。あとの飲み物は紅茶でいい?」
『それは素晴らしいのぅ』
レーヴァに確認してアランは茶葉を取り出すとやかんに投入する。直接火にかけ小さな気泡を確認して取り出すと、しばらく煮出してコップへと注いでいく。
「あとはミルクをいれて渋みを軽減させ、はちみつを足せば完成だね」
『朝から豪勢じゃのぅ』
次々と用意される朝食にレーヴァが嬉しそうな顔になる。特に紅茶は高級品であり、ミルクやはちみつも貴重品であった。それを惜しみなく出すアランに感謝の視線を向ける。
「当然だよ。昨日は熟睡させてもらったからね。これくらいは出さないと」
『それは良い心がけじゃのぅ。これからもそのくらい
アランの率直な感想に、少し恥ずかしそうにしつつ、紅茶が入ったコップを手に取ると味わうようにゆっくりと飲むのレーヴァであった。
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