第46話 ヘロイーゼの決意。
「一旦、落ち着こうね。はい、レガリアさんもどうぞ」
ヘロイーゼとレガリアが鼻息荒くアランに詰めようとしていたが、飲み物を渡され少し落ち着くように言われる。
渡されたコップの中身を確認したヘロイーゼとレガリアは思ったよりも重量を感じ驚いていた。
「アラン様、これは? 先ほどのような牛乳入りの果実水ではないようですが?」
「うん。そうだよ。2人のテンションが高いようだから、冷えた飲み物がいいかなと思ってさ。これは最近完成させた飲み物なんだ。しっかりと凍らせた果物を細かく砕いて、そこに冷えた牛乳を入れて混ぜる。冷やしつつ砕いて混ぜる魔道具を作ったから、簡単に作れるんだよ、レガリアさんには蒸留酒を少し足しているよ」
『ほほぅ。蒸留酒とな。酒など飲むのはいつぶりかのう。具現化したのが久しぶりじゃじから覚えておらんわ』
ヘロイーゼの問いかけにアランが答える。そして自分のコップには蒸留酒が入っていると聞いたレガリアは
『うむ! これは美味い!』
レガリアはゆっくりと味合うように何度も口に含み目を細める。そして怒涛の如く食レポを始めた。
『先ほどの牛乳入りの果実水と同じのはずなのにこうも違うとは! まず果物が凍っておるのが驚きじゃ! それに喉を通る時の冷たさが一気に疲労を取ってくれる。まあ、我は疲労しないが。それにこの蒸留酒の力。冷え切った身体を一瞬で元に戻してくれる。いくらでも飲み続けられるのは間違いない! うむ、これはお代わりを頼もうかのう』
「もちろんいいよ。蒸留酒は?」
『さっきの倍で頼む。蒸留酒が喉に通る際の焼け付き感を多く味わいたいのじゃ』
アランからコップを受け取ったレガリアは嬉しそうに飲み、アルコールが喉を通る感触を楽しんでいた。それから何度もお代わりを要求し、顔が真っ赤になる。
「アーティファクトでも赤ら顔になるんだね」
『そのようになるまで飲むアーティファクトなど、
アランの素朴な発言にレーヴァが呆れ顔でレガリアに話しかける。コップ片手に楽しんでいたレガリアだったが、問いかけに答える。
『そんなもん気合いで何とでもなるわい!』
「魔道具が気合って……」
アランはレガリアの言葉に苦笑しつつも、周囲には敵が居ないのを確認しお代わりを作る。ヘロイーゼは味合うようにゆっくりと飲んでおり、レーヴァはいつもの果実水がいいと自分で背負子から取り出していた。
『それでアランよ。ヘロイーゼと結婚をするのかのぅ?』
「いやいや! ユーファとも式を挙げてないのに、別の女性と話を進められないよ」
「そうですよね……」
レーヴァの問いかけにアランが慌てて否定すると、ヘロイーゼが悲しそうな顔になる。レガリアが怒りだすかと思いきや、アルコールに負けたのか高いびきで幸せそうな表情を浮かべて眠っているのだった。
◇□◇□◇□
「分かりました」
ヘロイーゼが決意を込めた表情をする。そしてレガリアを手に取ると、勢いよく立ち上がった。
「まずは勇者様との結婚を先にとの事ですね! 私は一度聖都に戻って、教皇様と話をしてきます。駄目なんて言われるようでしたら、聖女の称号を返却してきますので。それと実績も積まないとですね」
「え? ヘロイーゼさん? ちょっと何を言って――」
「ご安心ください! 結婚の許可をもらいつつも民を救う事は続けます。そして誰からも祝福されるように身支度を整えて、あらためてアラン様に
握りこぶしを作って決意表明するヘロイーゼにアランが焦る。冷静になってもらおうと用意したクラッシュした果実を入れた特別ジュースでは駄目だったようだ。
むしろ一度、冷静になって改めて考えた結論をヘロイーゼは導き出していた。
そして何かを言おうとするアランを
「アラン様!」
「は、はい!」
「まっててくださいね。必ずやこのヘロイーゼはやり遂げて見せます! ではまた! さあ、行きますよレガリア!」
にっこりと笑い、ヘロイーゼはアランに告げると勢いよく走り出した。アランが止める間もなく、一気に姿が小さくなるほどの距離を取られる。どうやら身体強化の魔法を使って全力疾走をしたようであった。
『じょ、嬢ちゃん。我は酔っておる。そんな勢いよく動かさんでくれ!』
「これから忙しくなります。酔っている時間なんてありませんわよ!」
『分かった! 分かったから。それ以上振り回されたら吐いてしまうわい』
「気合でなんとかしてください!」
なぜか二人の会話が遠くからでも聞こえてくる。こちらの声は届かないのか、呼び止めようとアランが一所懸命手を振ると、それに気づいたヘロイーゼが大きく手を振り返した。
「あ! レガリアの修繕費用は後で神殿の者から送るようにしますので!」
「違うよ! ちょっと待って!」
「では、アラン様!」
『じゃから振り回さんで……うっぷ!』
そうじゃない! 結婚の話を止めたいのだ。そう必死に伝えようとするアランだが、声が届かないのか再度大きく手を振るとヘロイーゼは勢いよく走り去っていった。
『……ありゃ、絶対に聞こえないフリをしておったな』
「どうしよう。ユーファになんて言ったらいいのか」
『ふん。構わんじゃろう。勇者を正妻として、ヘロイーゼを側室にすれば問題ないわぃ。一人でも二人でも三人でも養ってやればよいのじゃ』
「よくないからね! それにしらっと三人とか言わないでよ!」
軽く笑うレーヴァに、アランが思わずツッコんだ。そして、大きくため息を吐くと、大量に用意をした食事を眺め、大盛にして勢いよく食べだす。
「とりあえず食べる」
『そうじゃのぅ。残った分は背負子に入れておけばいいじゃろう。後で近所に配れば問題ないわい。くっくく。それにしてもお主は実に面白いのぅ』
「なんか本当に疲れたよ」
疲れ切った表情で食事をしているアランを見ながら、レーヴァは果実水を一気に飲み干し、大笑いをするのであった。
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