第43話 アランはスキルを使う。

「修繕するのはいいけどさ。レガリアを見ないと、修繕素材が分からないし、それにそもそも修繕自体が出来るか判断しようがないよ? そんな大事にしている錫杖を初対面の僕に預ける事ができるの?」


 アランがそう声をかけると、修繕をしてもらえそうであると、嬉しそうな表情を浮かべるヘロイーゼ。


「もちろんです。はい、どうぞ」


 ヘロイーゼは軽く返事すると躊躇ためらいなくレガリアをアランへ手渡す。そんなあっさりと手渡すの!? アランはそう思い驚くが、当の本人であるヘロイーゼはいたって平然としていた。


「アラン様自身の行動が問題ないとすでに証明されております。それに私以外の者がガレリアを所有しようとしても無駄ですので大丈夫ですよ」


「へえ、僕とレーヴァみたいな感じかな?」


「? 私とレガリアと似た様な契約をアラン様もされているとの事でしょうか?」


「あー。それはどうだろう? ヘロイーゼさんとレガリアの契約が、僕とレーヴァの――」


 首を傾げ逆に質問するヘロイーゼにアランが答えようとすると、アランの肩に乗ったレーヴァが思い切り頭を引っぱたいた。


『こりゃアラン。余計な事を言わんでええ』


「痛ぃ! なんで急に叩くのさ!」


 あまりの衝撃に思わずうずくまったアランの目には涙が浮かんでいた。思わず抗議するアランにレーヴァが鋭い視線を送る。


『お主が契約内容を軽く話そうとするからじゃろうが!』


 レーヴァの剣幕にアランが黙る。誰にでも軽々しく話せる内容ではない。レーヴァとの契約内容が他の者にしられると、アランの身に危険がある。


 しばらく厳しい視線をアランに送っていたレーヴァだが、ふと目元を緩めるとアランの頭を優しくなでた。


『お主はもっと危機感を持った方がよい』


 されにレーヴァが続ける。勇者ユーファと賢者ルーイーは知っているが、それは自分が彼女たちを認めているからであり、アランに問題ないと伝えているからだ。


 そう話すレーヴァにアランは頭を下げた。


「そうだ。ごめん、レーヴァ」


『分かればいいのじゃ。お主《ヘロイーゼ》もこれ以上の話を聞くでない』


「かしこまりました。ここでの会話は全て胸の内に納めます。それにこれ以上の質問をしませんのでご安心ください」


 レーヴァの視線を受け、ヘロイーゼは笑顔で頷く。レガリアさえ直してくれさすれば問題ないと、彼女の表情は物語っていた。


「私はレガリアを直してもらえるならそれでいいのです。できれば、まずは見立てをお聞きかせ頂ければ。レガリアは壊れていないとアラン様がおっしゃられても問題ありません」


「え? 見立てだけでいいの?」


「もちろん、修繕可能であればお願いしたいですが、駄目だったとしても私の信仰が足りないだけですので」


 修繕できないのは自分の信仰が足りないからだ。そうヘロイーゼに言われ、アランは小さく頷くとレガリアを机に置き、そっと目を閉じるとスキルを発動させる。


 アランの手から淡い光が溢れレガリアを包み込む。しばらくするとアランの修繕スキルによって必要な素材が表示されるが、その情報だけでなくレガリアをくまなくアランは確認を続ける。


「あれ? そうなんだ。いや、でも……。ひょっとして」


 料理の際や、会話をする時とは違いレガリアを確認するアランの表情は真剣であり、スキルを発動し続けている姿は凛々りりしく、ヘロイーゼは思わず見惚れてしまう。


「なんて素敵な表情なんでしょうか」


 しばらくレガリアを確認していたアランだが、大きく頷くと笑顔でレガリアをヘロイーゼへ返してきた。


 そして驚きの発言をする。


「修繕スキルを使った結果だけど、やっぱりどこも壊れてないかも」


「え?」


 アランの言葉にヘロイーゼが驚いた顔になる。壊れていないとはどういう事なのか? そう言いたげな表情を浮かべるヘロイーゼ。アランはレガリアを指さすと契約が結ばれていないと伝える。


「うん。レガリアの真の能力を発動する条件が足りてないよ」


「発動条件が足りていないですか?」


 おうむ返しをするヘロイーゼにアランは頷く。そして診断結果を教えてくれた。前に使っていた者から譲渡はされており、レガリアはヘロイーゼにしか使うことは出来ない。


 それは間違いない。


 そこまで伝え、アランは黙る。急に沈黙が周囲を包み、ヘロイーゼが次の言葉を待っていたが、アランはレーヴァに視線を向けていた。


『ふん。まあ、いいじゃろう。こやつレガリアも望んで居るようじゃしのぅ。こ奴ヘロイーゼにじゃったら伝えてもよい』


 レーヴァが軽くため息を吐きながら了承してくれた。その言葉にアランは頷き返すとヘロイーゼに続きを話す。


「真の契約を結べてないんだ。レガリアと魂の繋がりを持つ必要があるよ。つまり魔力を込めながら全てをレガリアに捧げるんだ」


「えっと、それは神殿でやったと思うのですが?」


 あまりにも当然な内容を真剣な目で話すアランに、ヘロイーゼが答える。アランの発言は神殿ですでに継承の儀式で行っており、今更何を言っているのだと言いたげであった。


「儀式の内容は知らないけど、レガリアを見た限りでは、まだヘロイーゼさんを主人として認めていないよ」


 ヘロイーゼはアランの言葉に衝撃を受ける。みそぎで身体を清め、1週間に渡って祈りを捧げ、その間は聖水しか口にしていない苦行の末にレガリアを受け取ったのだ。


 そこまでしているのに認めてもらっていないとは。愕然とするヘロイーゼに、レーヴァがレガリアに近付くと語り掛ける。


『お主が心配するのは理解しておる。じゃが、真の繋がりを持たなんだら、いつまで経ってもこ奴は悩み続けるのじゃぞ』


 レーヴァの言葉に突然、レガリアが鈍く光り出す。


「え? レガリアがこのような光を発するなんて今までなかったのに!」


 ヘロイーゼの驚きの声を上げるが、思わず手落としそうになる。なんとレガリアから声が聞こえてくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る