第41話 名乗りを上げる聖女
「へ?」
食事を提供してくれた少年が持つ魔剣。彼女が悔しそうな顔で、どう頑張るかを眺め食事をしよう。そんな考えを持っていた少女であったが、展開していた結界がひび割れ砕け散っていく
「え? へ? なんで!?」
結界の外でなにやら会話をしていたのは見ていた。そして納刀すると居合のポーズを取った。そこまでは分かる。
どれだけ力を込めても壊れない。
そう思っていたのが、アランは特に力を入れたような
絶句。
全く理解できない目の前の光景に、少女は無意識に食事を再開させる。まるで現実
「なんで一撃で壊しちゃうんですか。聖女失格なんて言っちゃいましたよ――」
少女はぐったりとして、静かに納刀するアランの姿を呆然と眺めていた。同じくレーヴァも呆然としている。
『――おい。アランよ』
納刀された際に鳴る金属音で我に返ったレーヴァが呆然としたままアランに話しかける。
「なに? ばっちりだったと思うけど?」
『いや、ばっちりなのじゃが。どうやって結界を破壊した?』
「ああ、それはね」
レーヴァの問いかけにアランは答える。結界の一部にほころびがあった事。そこをレーヴァで突けば壊れると分かった事。
「いやー。ほころびがあったから思った以上に簡単に壊れてくれたから良かったよ。あ! ちなみに狼たちは遠くに行ったんだよね?」
『ああ、それは問題ないわい。周囲に気になる気配はありゃせん』
無邪気に「よかった。これで料理の続きが出来るね」そう喜ぶアランにレーヴァは真剣に考え始める。
『どうやったらほころびが見えるんじゃ? 儂は結界の姿すら見えんかったのに』
「ん? スキルを使ったんだよ。ほら、修繕する時って、手元に素材が無くてもなにが必要か分かるでしょ? だから、修繕スキルを使ってみたら弱点が分かるかなーって」
『修繕スキルをそのように
それほど少女が作った結界は完璧であるように見えた。現に結界が破壊された少女は
『アラン。ちょっとあの少女と会話がしたい』
「いいよ。僕はデザートでも作っておくね」
レーヴァの言葉にアランは頷くと、背負子が置かれている場所に移動し、中から果物や牛乳を取り出し始めた。
◇□◇□◇□
『お主。ちょっとよいかのぅ』
「へ? な、なんですか?」
レーヴァの問いかけに少女の焦点が合い、少し怯えた態度になっている。それはそうであろう。あれほど自信満々に張った結界が一撃で破壊されたのだ。それも轟音届くような一撃でもなく、破滅的な魔術でもない。
何気ない滑るような。言い換えれば素振りでもするような一撃で破壊されたのである。今まで経験した事はなかったであろう。そんな相手が自分に話しかけているのである。
『そんな恐れんでもよい。儂も驚いておるのじゃ』
「え? 魔剣さんも?」
レーヴァの言葉に少女がキョトンとした顔になる。あれほど啖呵を切って
『ああ。確かに剣の力は儂の力じゃ。じゃが、結界にほころびを見つけたのはアランの力。あやつは『ほころびがあったから簡単だった』と抜かしておったが、あの結界にほころびなんてあったのかえ?』
レーヴァが気になる点はそこであった。通常の結界は強弱はあれどもほころびなんて存在しない。
それが常識であった。
そんな常識をアランはいともたやすくひっくり返したのである。そう確認してくるレーヴァに少女が驚いた顔になる。
「ほころびが出来る可能性はあったと思います。私の聖結界は
『なるほどのぅ。アランはそれに気づいたのか。ふははは。面白い! 実に面白いぞ』
少女の回答にレーヴァが高笑いをしだす。魔剣である自分を使えるアランは偶然の産物であり、もっと使いこなせるよう鍛えなければと考えていたのだが、アランの修繕スキルは
『これはもっと厳しめに鍛えても大丈夫そうじゃ。良きかな、良きかな』
ご機嫌で笑っているレーヴァを、少し離れた場所でデザートを作っているアランが見ていたが、なにか嫌な気配がしたのか身体をブルっと震わせていた。
そんなレーヴァの高笑いを気にすることなく、砕け散った結界がある場所を眺めながら少女が呟く。
「やっぱり、王都で噂になっている<田舎の修繕神>様に直してもらわないと」
『ん? なんじゃその<田舎の修繕神>とは?』
レーヴァが首を傾げながら問いかけると,少女は自分の呟きが思った以上に大きな声だったことに気付く。そしてレーヴァへ説明をする。
「ご存じありませんか? 聖剣を修繕し、魔王討伐に貢献した影の功労者。かなり気難しいお
きっとドワーフなのでしょう。勇者様に聞いても教えてくれませんでした。そう悔し気に発言している少女であるが、アランがなにやら一所懸命にかき混ぜている様子が気になるようで視線を向ける。
『くくっ。なるほどのぅ。ドワーフか。修繕する力なら
「え!? 魔剣さんは<田舎の修繕神>様をご存じなのですか? ぜひ紹介をしてください!」
『ああ、よいじゃろう。お主の名前すら知らんがのぅ』
レーヴァの言葉に少女はハッとすると、レガリアを片手に立ち上がると大きく頭を下げた。
「申し訳ありません。私は聖クルード教の聖女であるヘロイーゼ・ヴェリンガー=アンハルトと申します」
『うむ。儂はアランからレーヴァと呼ばれておる。では、紹介の件は受けたまろう。おい! アランにお客様じゃ!』
「は?」
名乗りを上げた少女ヘロイーゼにレーヴァはニヤリと笑うとアランに大声で話しかけるのだった。
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