第40話 少女の結界
「違いますからね! 決して食べ物で
『なにを言っておるのじゃ? 狙いなんてある訳なかろうが。要らんなら食わんでよい』
「要らないなんて一言もいってないですよね! こんなに美味しい匂いをまき散らしておいて、食べないなんて選択肢を私が選べる訳ないじゃないですか!」
『騒がしい奴じゃのぅ。ほらアラン、儂はお代わりを所望するのじゃ』
「私もお願いします!」
少女とレーヴァのやり取りをアランは笑いながら聞いていた。そして同時に突き出された空の皿に焼けた肉を大量に置き、2人の食べっぷりを見て、アランは追加で料理を作ろうと考える。
「うーん。何を作ろうかな。前に作ったスープが少し残っていたから、そこに堅パンを入れて、その上にチーズを乗せてみるのもいいかも」
『ほう。それは美味そうじゃのぅ』
「あ! 私もお願いします!」
アランが調理をしているのを眺めつつ、食事をするレーヴァだったが、ため息を吐き皿を置くと周囲を見渡した。
どうやらアランの料理は周囲の肉食動物を集めてしまったようであった。
『アラン。匂いに釣られた狼が集まってきておるぞ』
「なんですって! それならば私に任せてください! <我は守護なる――」
レーヴァの言葉にアランでなく、右手にフォークを左手に大量の肉が乗った皿を持った少女が勢いよく立ち上がる。そして詠唱しようとして、自身の右手が錫杖ではなくフォークと気付き、恥ずかしそうにフォークと皿を机に置いた。
そして何事もなかったかのように錫杖を手に取ると詠唱を始める。
「<我は守護なる守りを
頬を染めた少女が詠唱と共に錫杖を振るうと、少女を中心として結界が傘が広がるように形成されていく。
「おおお。凄い」
アランはが感心した声をあげるが、匂いに釣られた5頭以上の狼達は、急に匂いが無くなり不思議そうにキョロキョロと周囲の匂いを嗅ぎだしていた。
『これが儂も気付かななんだ結界か。大したものじゃ』
レーヴァが面白そうに呟きながら結界を眺めている。
しばらく周囲に留まっていた狼たちであったが、ここには何もないと判断したのか残念そうに走り去っていった。そんな狼たちの後ろ姿を眺め少女は小さく頷くと、錫杖片手にドヤ顔をアランとレーヴァに向ける。
「ふふん。どうです。これが私の力です。感謝してくださいね。私の結解に入れるのは光栄なことなのですよ」
『なあ、これは外からの攻撃にどのくらい耐えられるのかのぅ?』
「ダメだよ、レーヴァ。壊そうとしてるでしょ。気にしなくていいよ。レーヴァの悪い癖が出てるだけだら」
錫杖片手に少女は固まる。
感謝の前に聞く内容か? この結界の神聖さを分からないのか? 聖魔法最高峰と言われ、世界でも数人しか使えない魔法ぞ?
思わず怒鳴りそうになる少女だが、グッと
「まあ、仕方ないですね。
『ほりゃアラン。許可が出たぞ』
「本気なの?」
『当然じゃ。この気に食わん結界をさっさと斬るのじゃ』
少女の言葉を聞いたレーヴァがニヤリと笑い、外へ出るようにアランを急かす。気が乗らないとの表情を浮かべ、アランは渋々レーヴァ片手に結界の外に出た。
『ほう。外に出た瞬間に結界が分からなくなるのか。この辺じゃな』
結界の中にいる少女は呆れた表情でアラン達を見ている。この結界は魔族の攻撃ですらも防いだ結界だ。魔王討伐には参加しなかったが、教会領に現れた魔族の襲撃を防いだ実績もある。
「そんな簡単に壊せる訳がないですよ。壊されたら聖女失格です」
少女は自信満々に呟きなつつも、錫杖に視線を送ると少し悲しそうな顔になった。
「まあ、
剣を納刀し、居合いの構えを見せるアランの姿を視線に入れ、少女は気を取り直したように肉を頬張りだした。
◇□◇□◇□◇□
『アラン。この結界はかなり強力じゃ。なので良い経験になる』
「え? それって僕が斬るの?」
レーヴァの言葉にアランが仰天した表情を浮かべる。てっきりレーヴァが自分の体を使って試し斬りをすると思ったからだ。
そんなアランの態度にレーヴァはニヤリと笑う。
『それとも魔物相手に戦うのが良いのかのぅ?』
「いやいや! この結界の試し斬りでいいよ。魔物と違って襲われなし、反撃されないみたいだから」
レーヴァの言葉にブンブンと音が鳴るほど首を振り、アランは改めて結界を見る。レーヴァは何も見えないと言っていたが、アランの眼には薄っすらとであったが結界が見えていた。
「これもスキルの恩恵だろうな」
修繕スキルは必要な素材を見ることができる。そして素材の形や重さも瞬時に分かるようになっている。つまりこの場にない物を見ることができるとも言えた。
普通は見えない結界もアランは見る事ができ、そして少し弱っている個所も分かってしまった。
「あれ? ここが緩んでいるように見えるね」
『なんじゃ?』
そんな呟きにレーヴァが問いかけたが、アランは気にすることなくレーヴァを納刀すると、静かに腰を落とした。
「さっさとこの特訓を終わらせて料理の続きをしないとね」
アランはレーヴァを滑らすように引き抜くと、唯一ほころんでいる個所に切先を滑るように差し込んだ。
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