第39話 謎の少女との出会い
ミングウィンの街を出たアランとレーヴァは自宅に向かって歩いていた。急げば1日程度で到着する村に自宅を構えており、ユーファが頻繁に会いに来るよう手紙を送る距離感であった。アランはユーファが忙しいと思い会いに行っていなかったが。
ユーファ達と別れてから見つけた村であり、気ままに暮らす予定を立てていたのだが、気付けばユーファとの婚約話になっていた。
「人生ってどうなるか分からないんだねー」
『なんじゃ急に? そんなもん当然じゃろうが』
何気に呟いたアランに、具現化したレーヴァが呆れた顔になっていた。そしてアランの肩に乗ると軽く耳を引っ張る。
『そもそも儂と出会ったんじゃ。お主の人生が普通になわけ無かろうが。古の魔剣を所持する者として自覚をしっかりと持たんか』
「いや、そうなんだけどさー。レーヴァと出会ってから波乱万丈すぎて現実感がなくてさー」
『こりゃ重症じゃのぅ』
レーヴァの言葉にアランはうわの空で答える。森で魔猪と出会ってからの数日は激動の日々であり、アランは精神的な疲れがここにきて一気に出たように感じていた。そんなアランの様子にレーヴァは苦笑する。
『仕方ないのぅ。儂が警戒しておいてやる。少しは脳みそを空っぽにするがよい』
「ふふ。レーヴァって優しいよね」
『当然じゃ、お主は儂の契約者じゃからのぅ』
レーヴァの言葉にアランは感謝すると何も考えずに景色を眺め始める。目の前には街道が広がっており、自分たち以外に旅人は見えなかった。静かな横風が吹いており、穏やかな気候を感じていると気分が晴れやかになっていく。
「そうだ。今日は野営して星でも見ようかなー」
『それもいいかもしれんのぅ。儂も一緒に見てやるわい』
自宅に戻るのも急ではなのでアランはゆっくり変える事を決める。そして大きく伸びをすると、背負子からリンゴを2つ取り出した。
1つはレーヴァに渡し、もう1つは勢いよくかじる。甘酸っぱい果汁が口の中に広がり、程よい噛み応えを感じながら、のんびりと歩くのだった。
『警戒しろアラン。何やらおるようじゃ』
数時間ほど歩き、街道の目印になっている巨木の下で休憩していたアランとレーヴァであったが、レーヴァは勢いよく立ち上がると鋭くアランに声をかる。
今の今までのんびりとしていたアランだが、レーヴァの言葉に自身も慌てて立ち上がって周囲を確認する。
「え? どうしたの? 魔物でも居た?」
『いや。姿は見えんし敵意や殺気もないが、気配がするのじゃ』
「え? でも誰もいないよ?」
『じゃから警戒しておるのじゃ』
休憩所の巨木は目印になるほど大きいが、人がいれば気づく程度の大きさである。
「ひょっとして上?」
巨木を見上げるが、青々とした葉っぱが広がっているだけであり、何も違和感はない。レーヴァの思い過ごしでは? そう言おうとしたが真剣な表情を浮かべているのを見て黙る。
『なんじゃ、この不愉快な感覚は。気になって仕方がない』
「敵意はないんでしょ?」
『まあ、そうじゃのぅ』
「だったらさ」
アランはそう言いながら背負子から調理道具や材料を取り出し切り始める。唐突なアランの行動にレーヴァは思わずツッコむ。
『アラン。儂が警戒しているというのに、流石に緊張感がなさすぎやせんか?』
「でも、見つけられないんだったら、気にしても仕方ないよね」
『お主は唐突に豪胆になるのぅ』
レーヴァは呆れたように脱力すると、近くにある野営用にと置かれた倒木に腰掛ける。そして警戒を解いたふりをしながらアランが調理をするのを眺めるのだった。
「よし、できたよー」
アランは皿に料理を盛ってレーヴァに渡す。ダンジョンで入手した肉を豪快に焼いており、それ以外は果物や野菜がをざく切りにして山のように皿に盛っていた。
『そんな大量に作ってどうするつもりじゃ?』
「ひょっとしたら料理に釣られて、誰か出てきてくれるかなーって」
『そんな単純……いや、出てきおったわい』
アランの回答を否定しようとしたレーヴァだが、濃厚になった気配に視線を向けると、そこにはみすぼらしい服を着た少女が、
◇□◇□◇□
「どうですか? 一緒に食べませんか?」
「はっ! なぜ私の姿が見えているのですか!」
穴が開くのではと思うほど料理をじっと見ている少女にアランが声をかける。自分を見ながら話された事に驚いた表情を浮かべる少女が
「え? 普通に見えてますけど? ねえ、レーヴァ」
『まあ丸見えじゃのぅ』
「そんな! 結界を張っているのに見えるなんて!」
「結界?」
少女の言葉にアランは首を傾げる。
結界と言っているが、どこにもそれらしいものはなく、錫杖を構えている少女がいるだけであった。
「結界なんてどこにもないけど?」
「かなりの使い手とみました! なにを企んでいるのです!」
「いや、なにも。村に帰るところだけど?」
「嘘おっしゃい!」
敵意剥き出しの少女とやり取りをするアランを眺めていたレーヴァが、相手の力量を見て問題ないと判断したのか話をぶった斬った。
『アラン。そのような礼儀知らずは放っておいて飯にせんか。せっかくのお主の料理が冷めてしまうわい』
「え? 妖精? いえ、妖精の気配じゃないですね。魔族ですか! なぜこのような平和な場所に魔族が!?」
『なんじゃ? 無礼な女じゃな。儂に敵意がないのも分からんのか?』
「まあまあ。いいじゃんレーヴァ。ところで僕たちは食事にするけど君はどうする?」
レーヴァを見て驚きの声を上げる少女に、レーヴァは面倒くさそうに鼻を鳴らしていたが、アランは気にすることなく少女に話しかける。
そんな言葉には惑わされない。そう言いたげに鋭い視線をアランに送る少女であったが、アランの料理から漂ってくる匂いにお腹の音が盛大に鳴るのであった。
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