第36話 アランは覚悟を決める
アランとユーファは野営地をさらに大騒動へと発展させた。ユーファ《勇者》へのプロポーズ。それを受けたユーファによる大胆な公開キスと周囲への宣言であった。
「ここにいる皆さんは、
ユーファの言葉に一瞬静まり返る野営地。<祝福>とは神官が使うスキルであり、結婚する二人に神が幸運を授ける。
結婚式をする際には神殿へお布施を払って授かり、金額によってスキルレベルの高い神官がスキルを発動してくれる。近くに神殿がない村や、お布施が払えない者は、仲のいい者たちが代わりに祝福をする。もちろんスキルによる恩恵はない。
祝福はそれほど重い言葉であった。
「神職でない私達の祝福でよろしいのですか? もちろん盛大に祝わせてもらいますが」
「エレサポさん、ありがとうございますー。むしろ私は神殿の上っ面祝福なんかよりも、皆さんが笑顔で祝福してくれる方が嬉しいですー」
ユーファの言葉にエレサポが引き
『はっはっは。盛大でいい事じゃのぅ』
「笑い事じゃないからね!」
レーヴァの笑いにアランは頭を抱えていた。ユーファのことが嫌いであるなんて事はもちろんなく、むしろ好ましいと思っている。だが、ユーファは救世の勇者であり、元は公爵令嬢であって王家に連ねる者でもある。
さらに今はミングウィンの領主で爵位も持っている。
そんな事を考えているアランに、ルーイーが話しかけてきた。
「ひょっとして自分は大した事ない。なんて事は思っていないだろうね?」
「え?」
心の中を読み取ったの? 驚くアランに、やはりそうかとルーイーは苦笑する。
「いいかいアラン。君は誰も出来なかった聖剣を修復したのだよ。そのお陰で魔王が討伐できた。それだけで大きく貢献している。それに私のユグドも直してくれようとしている。ああ、それだけじゃないな。アランが開発した魔道具たちのお陰でミングウィンは大きく成長しようとしている。その功績も大きいのだよ。だから、自身を大したことないなんて思わないで欲しい」
ルーイーの言葉にレーヴァも大きく頷いている。
『賢者の言葉に違和感はないのぅ。儂のアランは大した者じゃ。現に周りはそう思っておる。お主はそれをしっかりと認識するが良いわぃ』
当然とばかりに大きく胸を張るレーヴァ。アランがルーイーとレーヴァの言葉をかみしめていると、エレサポ達に祝われていたユーファがアランの元にやってきた。
そして困惑しているアランの様子を見て、ユーファは悲しそうな顔になる。
「やはりお嫌だったのでしょうか? 確かに強引だったとは思っておりますが、私の気持ちに嘘偽りはありませんよー」
「も、もちろん。ユーファの言葉に嘘があるなんて思ってないよ。気持ちは嬉しいよ――」」
目に涙が浮かんでいるユーファをみて、アランは考えがまとまらないまま話そうとしたが、周囲に集まっていたエレサポ達が「気持ちは嬉しいよ」との言葉に地面が揺れんばかりの大歓声を上げる。
「うぉぉ!」
「ここまで熱い両想いを見れるなんて!」
「素敵! 私も言われてみたいわ」
「え!? ちょっ! 待って!」
言葉尻を捕らえられたアランが慌てていたが、誰も反応してくれず、アランの肩を叩く者や、ユーファに近寄って感極まって泣いている老人も居た。
『なんじゃ? これほどの優良物件はないのじゃから、気にせずにもらえばいいじゃろうが』
『うちのユーファを物件扱いされるのは気に入りませんが、レーヴァさんの言う通りです。ユーファはお得ですよ。まず勇者である名声を持っております。あと公爵令嬢でしたので地位もあります。そしてなにより魔王を討伐したことで莫大な褒賞金を持ってますから』
レーヴァの発言にエクスも続く。ユーファを
「なにを言っているんだ!」
ざわめいていた周囲が一瞬で静まる。レーヴァとエクスも驚いた表情を浮かべている。そしてアランは大きく息を吸うと二人を睨みつける。
「ユーファの魅力はそんなのじゃないんだよ! 可愛いし、優しいし、自分をしっかり持っているし、領民のために頑張っているし! それにそれに――とにかく、そんなユーファに惹かれない訳がないだろう!」
『よくユーファの魅力を分かっているじゃありませんか。でしたらグダグダ言わないでくださいアラン様。これ以上、ユーファを悲しませたらちょん切りますよ』
「なにを!?」
『ですって。ユーファ良かったですわね』
静まり返った野営地にアランの声が響き渡る。それを聞いたエクスがニコリと笑いユーファに視線を向ける。
「アラン様……」
ユーファの顔は真っ赤になって涙を流しており、そこで初めてアランは自分の発言に気付く。アランも赤面しており、そんな二人を見てレーヴァが大笑いする。
『ほれ。もう口づけも交わしたんじゃからのぅ。もう腹をくくれアラン』
「……。そうだね。僕もユーファを愛しているよ」
アランは頬を膨らませレーヴァを睨んだが、ため息を吐くとユーファを優しく抱きしめ自分から唇を重ねるのだった。
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