第37話 一夜明けミングウィン騒動
ミングウィンの街が朝日を迎え激震が走る。領主であるユーファが婚約を発表したとの噂が流れたのだ。魔王討伐後、各国から求婚があったが全て断っており、それ以降は浮いた話もなく、領地経営に全力を注いでいると思われていた。
少しでも事情に詳しい者は、アランの存在を知っており、結婚するのではと言われていたが、身分が問題だと言われていた。
ユーファは公爵令嬢でミングウィンを治める子爵である。
「……だと思うだろ? だが、それは甘ちゃんの考えだった訳だ。実はそうじゃなかった。あ、エールを一杯くれ」
ミングウィンにある酒場は今朝から流れる噂で持ちきりであった。酒場の店主はユーファが婚約したとの話を聞き、前祝だと言わんばかりに店内の酒やつまみ全てwp半額で提供すると宣言し、店は大盛況となっていた。
そんな中、一人の客が貴重な情報を持ってきたと酒場に駆け込んできた。もったいぶった話し方で、しかもわざと区切りを入れ沈黙する。そしてエールを頼むと届けられるまで一言も喋らない。
そんな男性の態度に、客たちは
「さっさと言えー!」
「ニヤニヤしてんじゃねえよ!」
「これで追加情報が無かったらぶん殴るぞ!」
客たちの言葉に男性はニヤニヤと笑っており、手元に届いたエールを一気に飲むとテーブルの上に飛び乗った。
「いいか、よく聞け! 俺はユーファ様が告白した場所に居たんだ! 突然ユーファが野営地へやって来て、商会長であるエレサポと喋っていたアランと呼ばれる少年に告白し、勢いよく抱き付いてキスをした!」
「「「 おおおお! 」」」
盛り上がる一同に男性は続ける。
「だが、その少年アランはユーファ様に何と言ったと思う? 俺だったら喜んでお受けするね! だがアランは違った!」
実際に現場を見た者の情報である。酒場は静まり返っており、店主も含め皆が男性の言葉に聞き入る。男性は周囲を見渡し、視線が自分だけに集まり、続きを欲しがる様子に気分良くしながら続きを喋る。
「なんとアランは『貴族であるユーファ様と自分では釣り合いが取れない』と断りをいれたんだ」
「なんだって!」
「でも分かるわー」
「相手はユーファ様だからなー」
この場にアランが居れば『そんなセリフは言っていない!』と叫んだであろう。しかし男性はアランが言ったと思い込んでおり、それは貴族と庶民との身分差を考えるとおかしくはなかった。
「その時、聖剣エクス様が顕現され、アランに言った。何が不満なのか? と。魔王を討伐した救世の勇者に不満があるのか? そう仰った」
男性の言葉に一同は頷く。誰しもが
「するとアランは怒りだした! 『ユーファの魅力をそんな即物的なものと一緒にするな!』っとね」
「自分が断るのは身分差があるからだ! 勇者だとか、領主であるなんて関係ない! こんな可愛い女の子からのプロポーズを断らないといけない気持ちが分かるものか! と叫んだのさ!」
「おおお、なんてこった!」
「つまり駆け落ちしてでも結ばれたいと思ったのか!」
「一人の女の子として見ていたのね!」
噂はこのように広まっていくのだ。そうお手本を示すかのような男性の話が酒場で繰り広げられる。酒場大いに盛り上がり、店の外まで人が溢れていた。男性の話はクライマックスを迎えようとしている。
「そして聖剣エクス様が言った。『そこまで分かっているなら何を悩む必要があるのですか? 勇者ではなくユーファを貴方に託します』と。それを受けたアランは決意を込めた目でユーファ様に近付くと再び唇を重ねたのだ!」
興奮状態でテーブルの上で話していた男性は、残るエールを一気に飲み干すとジョッキを掲げる。
「これから幸多き
男性の言葉に一同は大歓声で賛同し、店主を含めてエールを持つと大きくジョッキを掲げた!
「ユーファ様と幸運の王子アランに!」
「幸多き若人に!」
「ちくしょー! アラン羨ましいぜー!」
その日。酒場の売り上げは過去類を見ないほどの金額になるのであった。
◇□◇□◇□
『はっはっは』
「笑い事じゃないからね!」
噂がミングウィンを駆け回り1日が経った。噂話を聞いたレーヴァは大笑いしており、アランは頬を膨らませている。
尾ひれはひれが付いたアランとユーファの馴れ初めは、ミングウィンの街だけでなく、周囲の街や村にも伝わり、距離が離れるほど噂の内容が激しくなっていくのをアランは知らない。
「だいたいさ。なんで僕が亡国の王子とか、謎の大富豪になってるんだよ!」
『そんなもん、儂に言われても分かりゃせんわ』
「そりゃそうだけどさ!」
アランは街で取り囲まれた際に色々と言われたようで憤慨していたが、レーヴァは内容を聞くたびに大笑いをしていた。
『そういえば
「王都に行くって言っていたよ。だから一旦、村に戻ろうと思っているんだ」
屋敷で朝食を食べた際に言われたようで、ユーファとルーイーは王都に向かうとの事であり、アランも村に帰る事を決めるのであった。
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