第34話 アランとユーファの距離がゼロになる

『つまり大伯爵は魔物を召喚するスキルを持っていたと?』


『ああ、そうじゃのぅ。大した魔物は呼べんようじゃったがのぅ』


「いやいや。最後に出てきたアンデット化したドラゴンは大した魔物だったからね!」


 エクスとレーヴァが話す内容を耳に挟んだルーイーが思わずツッコミを入れる。自分が戦ったアンデット化したドラゴンは、間違いなく討伐ランクが高い魔物であったし、アランがユグドを修繕してくれてなければ危なかった。


 実際、虎の子だった魔力回復ポーションを飲むほど追い詰められている。大したことないなんて言われると、漆黒の賢者の二つ名を持つ自分が情けない気分になってくる。


「いいかい。エクス。アンデット化したドラゴンは強かった。ユグドを持った私とユーファでも苦労しただろうね」


『ユグドを使った? アラン様に修繕してもらったのですか?』


 ルーイーの言葉にエクスが首を傾げたが、大きく頷いた。


 魔王との最終決戦で結界を張った際に限界を超えユグドが壊れたのを知っているからだ。直すには様々な素材が必要である。そう聞いていたが、アランが持つ修繕スキルであれば直せると思い出す。


『そうですね。私もアラン様に直してもらっているのだから、ユグドも直してもらうように言えば良かったですね』


「直ったのだからいいさ。あとは喋れるようになれば同窓会でもしようじゃないか」


 申し訳なさそうにしているエクスに、ルーイーは笑って答える。そしてルーイーからも情報をもらい、魔族が再び活発化した際の準備が必要だと考えた。


『ユーファをしっかりと鍛えないといけませんね』


『ああ、そうじゃのぅ。今回は魔族が1人じゃったから単独で討伐できたが、魔族が徒党を組んで現れたら苦労するじゃろうな』


「アンデット化したドラゴンは物理耐性があった。魔法特化の私が対応したから倒せたんだろう」


 ルーイーの言葉にエクスが考え込む。単に剣術を鍛え直しても対処できない場合がある。聖剣である自分の力も必要になる場合もあるだろう。


『ルーイーとの連携も再確認ですね。あと、久しく使っていない聖魔法もですね。単独の場合を考えないと』


 レーヴァの一言によって意識が変わったエクスは、今までより具現化する回数を増やして、ユーファとの時間を増やそうとの考えがまとまったようであった。


 そして軽くため息を吐く。


『魔王さえ倒せば平和な日々が訪れると思っていたのですが』


『ふん。四天王と魔王を倒しても魔族領を征服した訳でもあるまい。次代の魔王と四天王がそのうち現れるわい。儂がアランを鍛えているのはそのためじゃ。今のアランでは侯爵クラスの魔族には勝てんじゃろうからのぅ』


 ダンジョンで出会った大伯爵を名乗る魔族ロノウェは相性が良かっただけ。と、レーヴァは分析している。召喚術に秀でた魔族であったが、人間を見下していたので先制が取れ、終始自分のペースで戦えただけだ。


『どちらにせよ、魔族が勇者の近くで蠢動しゅんどうしておったのじゃ。用心するに越したことはないじゃろうさ』


 レーヴァの言葉にエクスとルーイーは頷くであった。


◇□ ◇□ ◇□

「アラン様ー。お代わりくださいですー」


「はい。もう三杯目だけど大丈夫?」


 レーヴァ達が真剣に話をしている場所からは少し離れている調理場でユーファは満面の笑みを浮かべてアランが作ったスープを食べている。領民達がその様子を驚きの表情を浮かべながら眺めていた。


 領主であるユーファが野営地で領民達と一緒に食事するのも驚いていたが、食べる量が尋常でなかったからだ。


「まだまだ大丈夫ですー。アラン様さえ良ければもっと作って欲しいですー。屋敷ではアランさんの食事が食べられませんでしたからねー」


「そりゃそうだよ。お手伝いはしたけど、料理長がいるんだから。僕の料理は旅する時には便利だけどさ」


「懐かしの味がするのですー。アラン様の料理は私の心をうるおしてくれますよー」


 苦笑するアラン。食材の提供はするし手伝いもするが、料理は専門の料理長がおり、とてもではないがプロには勝てない。あくまでも家庭の味であり、屋敷で提供していいものではない。


「一般庶民の家庭の味だからね」


「それがいいのですー。旅をしていた時を思い出しますー。焚き火を囲みながら食べるアラン様のスープは格別でした」


「ははっ。こんなのでいいのなら毎日でも作るよ」


 アランの何気ない発言に、周囲で一緒に食事をしていたエレサポ達からどよめきが起こる。ユーファも顔を赤らめてモジモジとしており、アランは今の発言がどうしてどよめきが起こったのか分からず首を傾げていた。


『相変わらずお主は無自覚の女たらしじゃのぅ』


『全くですよ。アラン様はもう少し発言を考えて欲しいです。ユーファも勘違いしてはダメですよ』


「いや、勘違いにはならないだろう」


 会話が終わったレーヴァ達がやってくるなりアランにツッコミを入れる。そして自分の発言を理解する。どう聞いてもプロポーズである。あわあわとしているアランだったが、ユーファはおずおずと近づくと優雅なカーテシーをする。


「アラン様。今のお発言嬉しいです! 末長くよろしくお願いします。まずは王に連絡して許可をもらいますね。もしダメなんて言われたら反乱――じゃなかったちゃんと説得しますので!」


「ダメだよ! 反乱なんてしたら! それに今のは――」


 物騒な発言にアランが慌てて止めようとするが、ユーファは一瞬で距離を詰めてアランに抱きつくと、唇を合わせた。それを見たエレサポ達から大歓声が起こる。レーヴァとエクスは苦笑を浮かべており、ルーイーは少し羨ましそうな顔をしていた。


「ちょっ!」


「もう逃しませんよアラン様。知ってますか? 勇者からは逃げられないのですー」


「それっておとぎ話に出てくる魔王のセリフだよね!」


 クスクスと笑うユーファにアランは全身を真っ赤にしながら答える。そこに野営地で起こる大歓声を疑問に思ったマルコ達門番が何事かと大急ぎで近づいてきた。


 そこでルーイーから一連の話を聞いて仰天するのであった。

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