第29話 ミングウィンの街に戻る最中

「ルーイー様! ご無事で何よりでした」


 魔道具の通信で連絡を受けた御者が森の入り口までやってきた。なかなか連絡がなかったので、ヤキモキしていたようだ。ルーイーを見るとホッとしたような表情をしている。


「すまなかったな。ちょっとダンジョン攻略をしていてな」


 ルーイーは軽く謝罪し、森の中でダンジョンを発見した後、そのまま攻略まで行ったと伝える。それを聞いて御者は今度は驚きの表情を浮かべた。


「なんと! たった半日でダンジョン攻略をされたので!?」


「ああ。幸い階層が1階だけのダンジョンだから問題なく攻略できたのさ。それにレーヴァさんが居たのも大きい。しかし緊急事態も発生した。この事をユーファに伝える必要がある。申し訳ないがミングウィンへ急いで戻ってくれるかい?」


 誰も入った事がないダンジョンは危険なものが多いのは常識である。放置されたダンジョンは魔物が溢れており、時にはスタンピードが発生して大被害が生じる事もあると御者は知っていた。


 ルーイー達によって攻略されたと聞いた御者は安堵するが、続けての発言に顔を青くする。魔王討伐したメンバーの1人でもある賢者ルーイーが緊急事態でミングウィンの領主であり勇者ユーファへの報告があると言っているのだ。


 御者は力強く頷くと、颯爽と御者台に乗った。


「かしこまりました。アラン様考案のこの馬車ならスピードを出しても問題ありません。すぐにでも街に戻ります」


「ああ、助かる。帰りは任せた。少し疲れたから一眠りしているよ。魔物などが襲ってきたらすぐに言ってくれ」


 ルーイーは疲れた顔で馬車へ乗り込む。アラン達も続いたのを確認した御者は馬にむちを入れると街へと向かった。限界ぎりぎりのスピードで街に戻っている馬車の中でルーイーがアランに話しかける。


「私は一眠りさせてもらよ。アランも疲れているなら休めばいい。彼は優秀な御者だ。何かあれば知らせてくれるし、魔物が襲ってきてもしばらくは時間稼ができる」


『アランに休憩は不要じゃ。儂が身体を動かしただけじゃからのぅ。お主は休んでよいぞ』


「実際に動ているのは僕だから疲れているけどね! でも、武器の仕分けの続きもしたいし、ダンジョンの中で拾ったアイテムの確認もしておきたいから起きてるよ」


「ああ、そういえば色々と拾っていたな」


 ダンジョン探索中にアランレーヴァとルーイーは、様々なアイテムや鉱石を手に入れ、それを背負子に放り込んでいた。話を聞いたアランは、誰も入ったことがないダンジョンで、どのようなアイテムや素材が手に入れたのか興味津々しんしんのようだ。


「ふふっ。アランらしいね。ではそっちは任せて私は寝るよ」


 ルーイーはアランに告げると目を閉じる。そしてすぐに寝息を立て始めた。アンデット化したドラゴンとの戦闘でかなり疲労が蓄積ちくせきしていたようである。

 

『すぐに寝れるのは優秀な冒険者のあかしじゃの』


「単独でドラゴンを倒したんだから凄いよね。さすがは勇者パーティーの賢者様だよ」


 アランとレーヴァは寝ているルーイーを起こさないよう、静かに背負子から入手したアイテムたちを取り出して確認していくのだった。


◇□◇□◇□

「ルーイー様。そろそろ街に到着します」


「ん。そうか。ありがとう」


 御者の声にルーイは目を覚ますと大きく伸びをする。思ったよりも寝入ったようであった。久しぶりにかなりの魔力を消費したからな。そう思いながらルーイーが馬車内に視線を向けると、そこには大量のアイテムや素材を並べてご満悦まんえつな表情を浮かべているアランが居た。


「あ、起きたんですね。ルーイーさん」


「ああ、ぐっすりと眠らせてもらったよ。どうだい? いい物はあったかい?」


 ルーイーが起きたことに気付いたアランが話しかけていた。今まで集中していたようで、馬車内に広がっている素材の多さに改めて気付き、少し恥ずかしそうにしながらアランが答える。


「それはもう! これなんてかなり珍しいよ。例えばヒカリゴケ。ダンジョンから持ち出したのに、まだ光ってるんだよ。増やしてからになるけど、地下部屋に置いたら便利だと思う」


『おでがんばってふやす』


「頼むよ背負子。納屋を拡張して栽培部屋を作るね。あと、こっちなんて魔鉄の塊だよ。これがあればマルコさんに槍の修理を頼まれてもすぐに作業できそう」


 目を輝かせ説明をするアランに微笑まし気な表情を向けつつ聞いていたルーイーだが、レーヴァが居ないことに気付く。

 そんなルーイーの視線に、アランは天井を指さして答えてくれた。


「レーヴァなら馬車の屋根上にいるよ。風に当たりながら周囲を警戒してくれるって」


『なんじゃ? もう起きたのか?』


 物理法則を無視するようにレーヴァが屋根からすり抜けて降りてきた。そしてルーイーにダンジョンコアを出すように伝える。


『少しダンジョンコアと話がしたいから貸すのじゃ』


「ん? もちろんいいが、何するんだい」


『いや、ちょっと釘を刺しておこうかと思っての』


 ルーイーから渡されたダンジョンコアを両手で受け取ったレーヴァは、顔を近づけると小さな声で話し掛けた。


『起きておるのじゃろぅ?』


『ひっ! は、はい。もちろんです。レーヴァテイン様。なにか御用でしょうか? 今の私では何の能力も発揮できませんが?』


 レーヴァは手の中で震えているダンジョンコアに少し圧をかけて話を続ける。


『それじゃ。儂の名前をフルネームで呼ぶ出ない。レーヴァと呼ぶのじゃ。あと聖剣と世界樹の杖もあるが、そやつらを呼ぶときもエクス、ユグドと呼ぶのじゃぞ』


『ええ!? なんで神に届くと言われるアーティファクトがこんなにも集まっているのですか!? エクスってエクスカリバー様で、ユグドはユグドラシルの杖様なのでしょう?』


 念を押されたダンジョンコアは驚愕する。レーヴァテイン、エクスカリバー、ユグドラシルの杖。どれも持ち手を自ら選び、気に入らなければ持ち主を破滅させるとまで言われる伝説の武器である。


 なぜそんな伝説級の武器が一か所に集まっているのか? そんな疑問が頭をよぎるダンジョンコアだが、それを聞く前にレーヴァに釘を刺された。


『理由は儂も知らん。知ってても教えん。消滅したくなければ、今の話はしっかりと覚えておくじゃぞ』


『もちろんです! 皆さんのフルネームは呼ばないように気を付けます。なのでゴリゴリ削るのは勘弁してくださいレーヴァ様』


『ああ、約束を破ったり、ルーイーを通して探らん限りはなにもせやせんから安心せい』


 ダンジョンコアが人型になるのであれば大きく何度も頷いていただろう。レーヴァはダンジョンコアからの返事を聞いて満足げに頷くのだった。

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