第28話 ダンジョンとの契約

『では移設に伴い契約をさせて頂ければと思います』


「契約?」


『はい。契約です』


 ダンジョンコアとルーイーとの間で話がまとまった。そして移設には契約が必要とダンジョンコアが伝えてくる。首をひねるルーイーに説明を始める。


『はい。前契約者はロノウェさんでしたが、すでにお亡くなりになられており未契約状態です。本来、その状態でしたら、私が管理者となって自由気ままにダンジョンを拡張していくのです』


「なるほどねー。そんな感じなんだね。ちなみに他のダンジョンも同じなのかい?」


『いえ、ルーイー様。ダンジョンは<自然発生型>と<契約型>の2種類があります』


 ルーイーの質問にダンジョンコアが答える。この世界にあるダンジョンの内、9割は<自然発生型>であり、濃い魔力が滞留たいりゅうする場所に発生するとの事。そして魔力を使って様々な者を引き寄せるという。


 動物が多い森などの場所では餌を豊富に用意しおびき寄せ、人間や魔族が多い場所では魔道具や金銀財宝を生みだすとの事であった。


「実に興味深い話だ。だが、なぜダンジョンに財宝があるかは納得がいく話だね。これって誰も知らん掛かった話になるね。学会で発表してもいいのかい?」


『いいのではないでしょうか? 今まで誰にも聞かれませんでしたし。私たちもなぜ<自然発生型>のダンジョンがそうなるのかは分っていませんが、生まれた瞬間に<こうあるべき>と知って、行動しているだけと聞いてます』


 ダンジョンコアの話はルーイーにとって興味が尽きないものばかりであった。話し込んでいるルーイーとダンジョンコアだが、アランはその辺は興味がないのか仕舞い込んだ武器を背負子から取り出して眺めていた。


 そんなアランを眺めながらダンジョンコアの話は続く。


『私達のような<契約型>は魔石と魔法陣が使われて召喚されます。そこで契約をする訳です』


「なるほど。そこで契約の話になるんだね」


 おおまかな話を聞いて納得しているルーイーの隣ではアランが剣をレーヴァに見せていた。


「これって結構業物わざものだよねー」


『ああ、そうじゃのう。魔力を多少含んで居る鉄を使っておる。まあ、アランには儂がおるから不要じゃがのぅ』


「ギルドに提供する?」


『その辺りはお主に任せるわい。じゃが売るなら高値でじゃぞ。果物をたっぷり買いたいでな』


 売ればお金になるとの話をしているアランとレーヴァの会話が耳に入ったダンジョンコアがため息を吐いた。


『頑張って生み出したんですけどねー。出来れば見つけた方に使って欲しかったですよ』


「まあ、アランが持っているのはレーヴァさんだからね。アーティファクトの魔剣と、ダンジョンコアが生み出した剣を比較されたらどうしようもないから諦めなさいな」


 ダンジョンコアの嘆きにルーイーが苦笑しながらフォローする。人型を具現化できる剣であり、さぞかし名のある剣だと思っていたダンジョンコアだが、まさか魔剣とは思っていなかったようだ。


『あの? レーヴァ様って魔剣なんですか?』


「さっき魔族と戦っているときにレーヴァテインと魔族が言っていたな。ダンジョンコア君は知っているのかい?」


『レ、レ、レ、レーヴァテインですって!』


 ルーイーの言葉にダンジョンコアが震えながら驚きの声を上げる。伝説の剣と呼ばれる魔剣であり、手に持つ者は世界を従えると聞いたことがある。ダンジョンコア界隈でも恐怖の対象となっていた。


『神にも届く剣じゃないですか! そんな物騒な剣を持っているアラン様って何者なんですか!?』


『なんじゃ? 儂に文句でもあるのかのぅ?』


『ぴっ!』


 焦っているダンジョンコアにレーヴァが絡む。特に威圧を放っているわけではないのだが、国を滅ぼした。最古のダンジョンコアを破壊した。など様々な逸話を聞いている身としては恐怖を覚えても仕方がない。


「こら、いじめちゃだめだよレーヴァ」


『いじめてなどおらん。余計な話をしておるからしゃくさわっただだけじゃ』


「ごめんね。レーヴァは昔話が嫌いだから」


『いえいえ。私が無神経でした。それよりもルーイー様。そろそろ契約をしてしまいましょう』


 アランがたしなめるとレーヴァは鼻息を鳴らしてそっぽを向いた。レーヴァを叱責しているアランにダンジョンコアが尊敬の視線を向けた。そして、話し込んで時間が経っているのを思い出し、ルーイーとの契約を進めようとする。


「具体的にはなにをしたらいいんだい?」


『契約者変更になりますから、魔力を手にまとわせて私に触れてください。後の手続きはやりますので』


 ダンジョンコアに説明に、ルーイーは右手に魔力を集めるとダンジョンコアに障る。アランとレーヴァも二人のやり取りをじっと見ていた。ルーイーがダンジョンコアに触れた瞬間、溢れるばかりの光が発せられる。


 思わず目を閉じたアランだが、光が収まったのを確認し、恐る恐る目を開ける。すると今まで部屋の中央に陣取っていたダンジョンコアはなくなっており、がらんとした空間しかなかった。


「ダンジョンコアはどこに?」


 アランの呟きにルーイーが手のひらを見せるてくれた。そこにはピンポン玉くらいの球体が乗っていた。


「これがダンジョンコア?」


「ああ、そうだ。契約したので私が管理者になっているな。それにしてもこれは凄い。色々と出来る事が頭の中に現れる。魔物を生み出したり、階層を増やしたりできる」


 ルーイーが静かに興奮をしていた。人類初の快挙である。古文書をどれだけ紐解ひもといても見つける事は出来ないだろう。


「ただ、残念な事に財宝を生み出したりは出来ないらしい。あと、ダンジョンのコントロールも出来ないようだね。例えば魔物を出せと指示したら一定数は必ず生み出される。止める事は出来ないようだ。しかもかなりの魔力を使う」


 契約者となっても意外と出来る事は少ないらしい。少し残念そうにしているルーイーだが、実際の所はそれが正解である。もし、好奇心に任せて魔物を呼び出そうとしたら、賢者ルーイーの魔力量をもってしても一瞬で枯渇して死んでいたであろう。


「屋敷の地下室に設置したら、また喋れるようになるらしい。それにしても成り行きで私が契約者になったがよかったのか?」


 ルーイーの問いかけにアランが笑う。


「もちろん。僕の魔力は少ししかないからね。ルーイーさんが持っててくれた方がいいよ」


「それは助かる。ではそろそろダンジョンから脱出しよう。御者が心配しているだろうし、なによりユーファが待っている」


 ルーイーの言葉にアランが頷く。もうダンジョンに突入してから半日は経過していた。回収する物はないかと、再度部屋を確認し、アラン達はダンジョンから脱出するのであった。

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