第27話 ダンジョンコアの取り扱い

 鈍く光りゆっくりと回転している球体。それがダンジョンコアであった。部屋の中を一通り家探ししたアラン達一行はやっとダンジョンコアへと視線を向ける。


「ダンジョンコアって破壊したらいいのかな?」


 実はダンジョン走破が初めてであり、コアを見る事もなかったアランが首を傾げていた。レーヴァはコアに興味はなく、背負子から次々と渡される果物を満喫している。


 3名の中で唯一の経験者である自分が語る必要があるとルーイーは感じた。そして、ダンジョンコアにユグドを向けつつアランに話す。


「ダンジョンコアは魔物の一種と考えられている。コアは主に魔物を生み出し、階層を増やし成長していく。そして放置を続けるとスタンピードが発生すると言われている」


「つまり壊さないと危険だって事?」


「ああ、それが主流な考え方だね。アーティファクトだと主張する学者も一部居るが、基本破壊するからね。過去に持ち帰ろうとして、コアが暴走して街の中で魔物があふれたとの逸話があってね。だから破壊が基本なんだよ」


 ルーイーの説明を聞いてアランは納得する。暴走して街の中で魔物が溢れるのはおそろしい。それは破壊するしかないよな。そう思っていたアランが、ルーイーに確認する。


「コアって破壊したら素材とかもらえるの?」


「んー。そんな話は聞いたことはないな。コアがある部屋は宝箱などがあって、それが素材代わりだと言われているね」


『もう壊してしまえばいいじゃろうが』


 アランとルーイーの話を聞き流していたレーヴァが面倒くさそうに会話に交じってきた。もう、敵は居らず完全にオフモードになっているレーヴァ。家に帰って休みたいとすら思っているようであった。


「じゃあ、破壊する前にちょっと削ってみるのはどう?」


『ひっ!』


「ん?」


 アランの発言に悲鳴が聞こえた。部屋が一瞬静まり返る。アランとルーイーが顔を見合わせ、そしてレーヴァへと視線を向ける。


『儂は何も言っておらんぞ』


『おでも』


 レーヴァだけでなく背負子からも否定される。じゃあ今の声は? そう思ったアランはダンジョンコアをじっと見る。しばらく見つめていたが、何も反応が無いので気のせいだと考える事にした。


 だが、やはり気になるアランは確認することにする。


「じゃあ、破壊する前にゴリゴリと削って――」


『ゴリゴリ!? 鬼ですか!』


 アランの言葉に反応するようにダンジョンコアが明滅めいめつしたかと思うと悲鳴が聞こえてきた。再び静まり返る一同。特にルーイーは驚愕の表情をしている。今までダンジョンコアが喋ったとの話を聞いたことが無いからだ。


 アランも同様に驚きつつも、アーティファクトであれば喋れる物がいてもおかしくないと思った。レーヴァやエクス、背負子も喋っている。なので目の前にあるダンジョンコアもアーティファクトだと思って話しかける事にした。


「やっぱり喋ったよね?」


『なんですか! ダンジョンコアが喋っちゃダメなんですか! それに削るって! コアを虐待して楽しいのですか!』


 アランを責めるようにダンジョンコアは怒りの声を上げるのだった。


◇□◇□◇□

『いいですか! 破壊するなら思い切って一撃でやってくださいよ! そしたら再生出来ますから。中途半端だと消滅しちゃうかもしれないんですよ。第一、削るなんてもってのほかです。なにがしたいんですか!』


「だって素材になるか興味があったんだもん。持って帰って調べようかと」


『そんな興味本位で削られたらたまりません! 今まで丸ごと持ち運ぼうとした人間がいるとダンジョンコア界隈かいわいで話題になりましたが、まさかそんな非人道的行為がおこなわれるなんて! 全ダンジョンコアが震えますよ!』


「ダンジョンコア界隈なんてあるの?」


『あるに決まってるでしょう。情報収集は大事なんですから』


「あるんだ」


 アランとダンジョンコアのやり取りを聞いていたルーイーが微妙な顔になっていた。コアが会話をしているのは世紀の大発見なのだが、アランとのやり取りを聞いていると今までの常識が破壊されていくのだ。


「なんだろう。すごい状況なのだが――なぜか馬鹿馬鹿しく思えてくるのだが?」


『アランじゃからのぅ。未知の者と普通に話しをするのがおかしいのじゃ』


 ルーイーの呟きにレーヴァが軽く首を振っている。そんな二人のやり取りに気付いていないアランはコアへ語りかけていた。


「破壊して再生されるのは困るから、確認するためにも削った方がいいと思うんだよ」


『そもそも再生したかどうやって確認するんですか!』


「たしかにそうだね。じゃあ気にせず削ってもいいって事?」


『ひっ! もうやだこの人間』


 素材の事になるとタガが外れるのか、アランが暴走気味になっている。今にもナイフで削ろうとしている様子に、レーヴァがアランの後頭部を叩いた。


『こりゃアラン。なにが起こるか分からんのに危ういことをするでない。もし、急にダンジョンが崩壊したらどうするのじゃ』


「たしかに!」


 レーヴァに叩かれた事で冷静さを取り戻したアランが頷いた。一瞬で場を掌握したレーヴァにダンジョンコアが感謝する。


『どこのどなたかは存じませんがありがとうございます』


『構わん。一撃で破壊して再生するのにどのくらいかかるのじゃ?』


 レーヴァの問いかけにダンジョンコアが軽く答える。


『そうですね。10年ほどあれば』


『思ったより短いのぅ。次に現れた時が危険かもしれん。さっさと削ってしまおう』


『いやいやいや! 勘弁してくださいよ! せっかく正直に答えましたのに!』


 ダンジョンコアが恐怖でおののく。そこにルーイーが質問をしてきた。


「ちなみに持ち運んだ際に魔物が大量発生するのかい?」


『そうですねー。先ほども言ったように界隈の話になりますが、強制的に持ち運ばれたダンジョンコアが腹いせに魔物を出したと聞いてますね。はっ、ひょっとして!』


「そう。合意の上で付いてきてくれるなら壊されない」


『名案です! あなたなら大事にしてくれそうです。付いていきますよ!』


 ルーイーの提案にダンジョンコアが喜ぶ。存在が無に戻るのは嫌だ。再生と消滅は全く違う。そう言いながらダンジョンコアはルーイーの提案に乗るのだった。

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