第26話 隠し部屋発見

 ルーイーから預かったユグドを机の上に乗せ、アランは目をつむっていた。普段の少年らしいあどけなく可愛い表情はなく、集中しりんとした顔で両手をユグドにかざしていた。


「必要な素材は世界樹の樹液と魔族の魔石だけでいけそうだね。これで8割までは修繕できると思う。完全修繕に必要な素材は僕のスキルでは分からないみたい。表示されない素材がありそうだった」


 目を開いたアランが疲れた顔でルーイーに告げる。素材確認をするだけでは疲れないのだが、先ほどレーヴァとルーイーに揶揄からかわれたのが原因であるようだった。


 自分が原因だと分かっていながらも、まるで関係な風によそおいつつ、ルーイーはアランに感謝を伝える。


「8割も直してくれるなら問題ないさ。アンデット化ドラゴンも、3割状態のユグドで倒せたからね」


「レーヴァもそうだけど、最後の2割を直すのがどうしても分からないんだよ。僕のスキルでは素材が分からないから」


 8割も直せるとアランから聞いてルーイーは感激している。元々、ユグド自身から元に戻るには長時間が必要だと聞いていたのだ。それがアランのスキルにかかれば、すぐに使える状態にしてくれ、さらには全盛期の力に近しい状態まで修理してくれる。


「これほど嬉しいことはない。そこまで修繕すれば、またユグドと喋れるのだろう?」


「うん。そうだね」


 自身の問いかけに頷いているアランを見ながら、気になる発言が一つあった。そしてルーイーの視線がアランの肩へと移動する。そこには背負子からりんごを渡され美味しそうにかじるレーヴァの姿があった。


 ルーイーの視線に気付いたレーヴァが取るに足らないと言わんばかりに鼻で笑う。


『ん? なんじゃ? 儂のことを気にするのか? まったく必要はないぞ。今の状態ですら敵なんぞおらんのじゃ。馬鹿勇者と聖剣コンビでも相手にならん。それよりもアラン。お主はもっと身体を鍛えんかい。なんじゃあの貧相な体力は。魔族相手に息切れするとは思わなんだぞ』


「いやいや! ルーイーさんの話だと大伯爵だったんでしょ? 一撃もらったら死んじゃうからね!」


 会話を流すようにレーヴァはアランを責め始める。アランとしては異議申し立てをせざるを得ない。レーヴァが相手をした魔族は大伯爵と言っていたらしく、魔族の階級で言えば上から数えた方が早い強さである。


 自分の身体を鍛えたところで、そんな魔族から一撃もらえば一瞬でぼろきれのようになって死んでいる。そう主張するアランにレーヴァが答えた。


『じゃから鍛えるんじゃろうが。それに攻撃なぞ、当たらなければどうということはないのじゃ』


「そんなのレーヴァしか出来ないからね! なんで剣と魔法の全方位攻撃をかわせるの!?」


『見ればなんとかなるわい。』


「なんともならないからね!」


 根性が足らん! そう切って捨てたレーヴァにアランが諦めたのか大きなため息をはく。そして背負子に自分の果物が食べたいと言い始めた。


『アランはこれをたべる』


「ありがとう。そうだルーイーさん。ここの所蔵された本はどうするの? ダンジョンでクリアしたならコアがあったんでしょ?」


「コアはないが本は大量だね。それも歴史的価値もあるものが多い」


 背負子からリンゴを渡され嬉しそうにかじるアランが確認してくる。ここがダンジョンだと忘れそうな風景なのだが、場所が書斎なのでそうなっても仕方がないとルーイーは思っていた。


 そしてアランの確認を吟味ぎんみする。どれも興味深い本ばかりであり、時限式のダンジョンの考察。魔術の研究推考。人間と魔族の戦いについての歴史や、邪心に関する資料など目白押しであった。


「出来れば回収して王都に送りたいね。どれも1級品の資料ばかりだよ」


「どう背負子? 全部入る?」


『ゆかにつみあげるでいいならだいじょうぶ』


 歴史的、知識的に貴重な資料を床に置けない。そう判断したルーイは、自身が持つアイテムボックスに収納することにする。ただ、かなりの物資がすでに入っており、ルーイーは自分の荷物を背負子に置いてもらうように頼むと、次々とアイテムボックスから物資を取り出していった。


◇□◇□◇□

「ふう。なんとか入ったね」


 全ての蔵書がアイテムボックスに入ったのでルーイーは満足げな表情を浮かべていた。だが、レーヴァは空っぽになった本棚に近付くと軽く叩く。


『アラン。ここ、怪しくないかのぅ』


「え? あ、本当だ。仕掛けになっているね。えっと押したらいいのかな? うわぁ、開いた」


 レーヴァに示された箇所をアランが押すと本棚が左に動き出した。どうやら隠し部屋へのスイッチになっていたようであった。


『生物の気配はありゃせん。魔力は感じるから、ここがコアがある部屋なのじゃろう』


「そうみたいだね。じゃあさっそく入ってみようじゃないか」


 ルーイーが先頭になって、部屋へと入っていく。中はそれほど広くなく、中央に赤く光るボールが浮かんでおり、宝箱もあった。壁には剣や槍などが5本ほど飾られており、どれを見ても魔力が付与されている逸品だと分かる。


「いいのがそろっているね」


『そうじゃのぅ。まあ、儂の足元にも及ばんが、そこそこの強さはありそうじゃの』


 レーヴァは軽くそう言っているが、冒険者が見れば垂涎すいぜんの品ばかりであった。アランは喜々して背負子へ入れていき、ルーイーは宝箱へ近付く。罠が無いのは魔法検知で分かっており、鍵もかかっていなかったので開けてみる。


「おお、これは――」


 宝箱の中には金銀財宝と言っていい物であった。金貨や銀貨、インゴットなどが無造作に詰め込まれていた。これはロノウェの活動資金であり、人間相手に交渉する際に使おうと用意していたものであった。


『どうせ、欲深い奴相手に使おうとしておったんじゃろぅ。全部もらってしまったらいいのじゃ』


「ああ、そうだね。アランが全部もらうよいいよ。私の取り分はいらない。と言うよりもユグドの修繕費用にして欲しい」


「え? でも」


「いいさ。ユグドの修理費用をもらわないつもりなのだろう? だったら、これはアランがもらって欲しい」


 かなりの金額だが、アーティファクトであるユグドを修理費用と比べると、目の前にある宝箱の金額では足りないとルーイーが受け取りを拒否する。


 基本、ギルドや国が関与していないダンジョンで見つかった物は発見者が全てもらえる事になっており問題なかった。


 アランはルーイーの言葉に甘えると、宝箱ごと背負子へ収納するのだった。


=====

ダンジョンコア「あれ? 俺は放置?」

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