第25話 目が覚めたアラン

「へー。そんな強い魔族と戦ったんだ。でも珍しいよね。レーヴァが最後まで僕を起こさないなんて」


『お主は儂をなんじゃと思っておるのじゃ。お主に最後まで言ったんじゃ。約束したならたがえるわけがなかろうが!』


「痛い!」


 ルーイーから一連の話を聞いたアランが呟くと、肩に乗っていたレーヴァが頬を膨らませアランの耳を思い切り引っ張った。


「痛いってば! レーヴァ!」


『ふん! くだらんことをさえずっとるアランが悪いじゃろうが。こんなことなら鍛えるために魔族かドラゴンと戦わせれば良かったわい!』


「ルーイーさんの話を聞いた限り、どっちも滅茶苦茶強かったんでしょ! 無理だって――痛たた! ちぎれるってば」


 アランが痛みで悲鳴を上げる横でルーイは笑っており、レーヴァは気にすることなくアランの耳を引っ張り続ける。しばらくして気が済んだのか、レーヴァは耳から手を離すと背負子を指差した。


『ああ、そうじゃった。アランが寝とる間に魔物は全て背負子に入れておるぞ。血抜きも完璧じゃ。ん? もちろん魔石はないぞ。軽い運動後に食する魔石は美味かったわい。ああ、それとアンデット化したドラゴンと魔族の魔石だけば食べておらん。賢者が持っておる』


『おで、がんばってせいとんちゅう』


「背負子はいつもありがとうね。本当に助かっているよ。それにしてもレーヴァが魔石を全部食べないなんて」


『ふん。そんな日もあるわい』


 レーヴァの説明に背負子もアピールをしている。納屋で一所懸命に整理整頓をしている背負子に感謝を告げつつ、アランがレーヴァへ問いかけるが、返事したのはルーいーであった。


「ユグドの素材に必要なのだろう? だからレーヴァさんには食べないようにお願いしたのさ。それにしてもアンデット化したドラゴンが高純度の魔石になるのは知られていたが、まさか魔族も高レベルの魔石になるとは思いもしなかったよ。魔王を倒した時にも本当はあったかもしれないね。これは冒険者ギルドへの報告が必要だね」


「魔石以外の素材はないんだね。ドラゴンの素材が手に入ると思ったんだけど」


 アランとしてはドラゴンの骨や爪も欲しかったのだが、ルーイーからは倒した後は魔石以外は煙のように消えたと聞き残念な表情を浮かべている。


『ふん。魔石だけで構わんわい。背負子の奴に腐ったドラゴンの肉なんぞを入れさせてたまるものか』


『おでもいや』


 レーヴァと背負子の声を聞いたアランが納得する。背負子は自宅にある納屋と繋いであり、管理は背負子に任せている。本人が嫌がることはできないとアランは思っている。

 得に納屋は仕切りなどはなく、棚が並んでいるだけなのである。


「そうだよね。ごめんごめん。僕も魔石だけでいいや」


 腐っているドラゴンの素材を置けば、他の素材にも臭いがついて大変なことになるとアランは考え直した。


 そしてアランはルーイーが持つ巨大な魔石へ視線を移す。


「ルーイーさん。ちょっと見せてもらっていい?」


「ああ、これほどの大きさがあればいいんじゃないかな? 2つとも必要かい?」


「うーん。スキルを発動したら分かるんだけど、多分1個で十分だと思うよ。後は世界樹の樹液だね」


 アランの言葉にルーイーの顔が曇る。世界樹の樹液はかなりの貴重品であり、そんな簡単に手に入れる事は出来ない。それを知っているルーイーだが、修繕するめどが立った事を喜ぶべきだと思った。


「私も頑張って探すことにするよ」


「え? なにを?」


 決意を込めたルーイだがアランがキョトンとした顔になっていることに違和感を覚える。


「ああ、ひょっとして世界樹の樹液?」


 ルーイーが浮かべる表情の理由を理解したアランは笑顔になる。そして、背負子に確認すると大きく頷いた。


「うん。大丈夫だよ。世界樹の樹液は別の納屋に保管してあるから。定期的に送られてくる分がちょうど背負子の納屋にあったから使ったけど、あっちにもいっぱいかるから」


「は? いっぱいある? 世界樹の樹液が?」


 アランの言葉を繰り返すように確認するルーイーだが、頭の中は疑問符でいっぱいになっていた。素材ランクで言えばSランクと付けられてもおかしくない。

 ワイン瓶一本分でも採取できれば、一般庶民なら向こう10年は遊んで暮らせると言われており、最近のオークションでは金貨200枚で取引された。


 そんな物が大量に?


 ルーイーがそう思っても仕方がなかった。アランは入手先は教えることは出来ないが、安心して欲しいと告げる。それを聞いたルーイーは思わずアランを抱きしめた。


「ありがとう。本当にありがとう。この気持ちをもっとセンス溢れる言い方で表現したいのだが、どうやら文才はないよう――」


「大丈夫! 十分に伝わっているから! 離れてルーイーさん!」


 身長差でちょうど顔がルーイーの胸辺りに埋もれており、アランは真っ赤な顔でなんとか離れようとする。そんな二人の様子を眺めていたレーヴァが呆れた表情を浮かべていた。


『おい賢者よ。アランが鼻の下を伸ばしておるわい。お主とアランが探索を放り投げて、イチャイチャしておったと馬鹿勇者へ伝えたらよいのか?』


「ふふっ。ユーファの嫉妬は恐ろしいから、報告するのは勘弁してもらいたいね。今日の事は二人だけの秘密だアラン」


「何を怪しい感じで言ってるんですかルーイーさん! それにレーヴァも変な事をユーファに伝えないでよ! それとそろそろ放してください!」


 ルーイは笑いながらアランを放さず、胸の中に頭をうずめさせたまま、片手を上げて降参すのポーズをしている。まだ解放されないとなったアランはジタバタとしなつつ、顔を真っ赤にしながらレーヴァのツッコミに焦った表情を浮かべるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る