第24話 ダンジョンの最奥

「片が付いたようだね」


『ああ、まあまあじゃったかのぅ。そっちも片が付いたようじゃのぅ』


 レーヴァの「まあまあ」との言葉にルーイーは苦笑する。横目で見ていた彼女の戦いはまさしく一騎当千であり、勇者であるユーファであったとしても、あのような圧倒する戦いにはならないであろう。


 それに先ほどは大したことではないと魔族のロノウェに言い放ったが、実は限界でありギリギリであった。最後は使い果たした魔力を切り札であるマジックポーションも飲んで、無理やり魔力を回復させ押し切ったのだ。

 1本しか持っていないマジックポーションを使ったのは、自分を信頼して任せると言ってくれたレーヴァに、情けない姿を見せられないと思ったからだ。


『なんじゃ? ひょっとしてギリギリじゃったか? 無理させたかの?』


「まあ、そうだね。ただアランがユグドを修繕してくれて助かったよ。そうじゃなかったら、もっと時間がかかっていたと思うよ」


『精進が足らんのぅ』


「言ってくれるね」


 ルーイーはとどめを刺され徐々に体が崩壊していく魔族ロノウェを眺めながら、レーヴァを見ていた。正確には魔剣レーヴァテインを眺めていた。エクスカリバーに匹敵するアーティファクトであり、古の魔神が所有していたと言われる伝説の剣。


 なぜアランが所有しているかは聞いた事はなかった。一緒に旅をしていた際は持っていなかったのは確実である。どこで手に入れたのだろうか。

 アランとレーヴァの出会いはどのような形だったのかを聞こうとしたルーイーに確認の声が届いた。


『ほれ。どちらを使うんじゃ?』


「どちらもかなりの大きさだね。でもそれはアランに聞いてからにしよう」

 

 視線を向けると今までロノウェが居た場所に魔石が転がっており、一目見ただけで素晴らしい魔石だと分かる。きっと王宮にすらないと分かるほど、光沢を放っており、なにより強い魔力があふれていた。


『ああ、そうじゃのぅ。儂はどっちでもいいが、アランがまだ目を覚まさん。じゃからその辺に転がっている魔物から魔石をもらうとしようかの。ドラゴンか魔族の魔石は1つ譲ってやろうぞ』


「それはまた強欲だね。ただ、両方必要だったら頼むよ」


『仕方ないのぅ。ブドウや果実を定期的に儂へみつげよ』


「それくらいでいいのならいくらでも」


 ルーイーの返事を聞いて機嫌がさらに良くなったレーヴァは、倒された大量の魔物に近付くと剣を突き立て、魔石や血を吸いだしていく。吸い切った後は背中の背負子へ次々と放り込んでいった。


「背負子を背負ったまま戦っていたのか。はたから見たら、さぞかし滑稽こっけいな戦いに見えただろうね」


 食後のデザートを満喫するかのように、嬉しそうな笑顔を浮かべ魔物を背負子へ放り込むレーヴァを眺め、ルーイーは苦笑いするのだった。


◇□◇□◇□

 散らばっていた魔物の処理が終わったレーヴァが背負子と話しているのをルーイーは何とはなしに眺めていた。そしてある事に気付く。


「そういえばそろそろ、アランが起きそうだと言ってなかったかい?」

『うむ。そうなんじゃが、儂が意識を押さえつけたからか二度寝したようじゃのぅ』

「二度寝?」

『ああ、二度寝じゃ』


 レーヴァの言葉にルーイーが首を傾げる。どうやら意識が浮上してきそうだと感じたレーヴァが無理やり押さえたせいで、アランはもう一度眠りに入ったようであった。


『まあ、あと1時間もすれば目覚めるじゃろう』


 それを聞いたルーイーは、きれいさっぱりした部屋を眺めつつ、椅子が置かれた場所の背後にあるドアを指さす。


「それならダンジョンコアがある場所に行こうじゃないか。ひょっとしたらお宝があるかもしれない。それにあの大伯爵と名乗ったロノウェが記載した資料があるかもね」


『お宝か。興味はないが、アランが喜ぶ物があるかもしれんのぅ』


 アランのために土産の一つでも探しておくかのぅ。そう言いながらレーヴァはルーイーが指さした扉を眺める。

 凝った意匠が施されており、いかにも何かがありそうな扉である。レーヴァは何も気にすることなくノブに手をかけると回して中に入る。


『ほぅ。これはなかなかじゃのう』


「どれ? 確かに。これは素晴らしいな」


 部屋に入った二人は中を見渡して感嘆かんたんする。シックな作りになっており、ユーファの書斎に似ていた。天井には豪勢ではないが洒落しゃれたシャンデリアがあり、壁には本がぎっしりと詰まった本棚があった。

 正面にはロノウェの身体には合わない人間サイズの机があり、机の上には様々な書類が置かれていた。ルーイーが1枚手に取って眺めると、森に関する考察が書かれている。


『なにが書かれておるのじゃ?』


「そうだね。時間を限定してダンジョンの入り口を開放することで、動物が引き寄せる魔術が発生する。また、魔物化した動物たちを長時間ダンジョンに閉じ込める事で魔石の純度が上がるとの記載もあるな」


『なるほどのぅ。じゃから魔石が美味かったのか』


 ルーイーの読み上げにレーヴァが何度も頷く。今まで食した魔石に比べて濃厚で味が濃かったようだ。


「あとは魔猪の件も書かれているね。あの魔猪はかなり特殊だったようだよ。最初に閉じ込めたようだが、<まさかダンジョンから飛び出していくとは思っていなかった。街を襲うだろう>とあるね」


『一人でスタンピードを起こしたって事じゃろうな』


 飛び出した魔猪はロノウェが暗示した街への襲撃を本能として実行し、途中でアランとレーヴァに会って討伐された。そこでレーヴァに倒されていなかったら、街を襲ってユーファかルーイーに討伐されただろう。


 そしてユーファは森が危険だと判断し、冒険者に周辺の調査を指示し、領民へは森への立ち入り禁止を命じたであろう。

 冒険者が時限式のダンジョンに気付く可能性は低く、発見できないか、または発見した時にはすでに強化された魔物の軍団が出来上がっていたのは確実であった。


「やはり、一気にここまで来て正解だったな。引き返していたら大変な事になっていたね。それにしてもコアはどこにあるんだ? 部屋を見る限りどこにもないが」


『ひょっとして――』


「……あれ? ここどこ? 森に居たはずなのに、いつの間に街に戻ったの?」


 レーヴァが何かを言おうとしたが、急に声質が変わる。あと1時間は寝ていると思っていたアランが目を覚ましたのであった。

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