第23話 ダンジョンボスの誤算

 なぜだ? なぜだ? なぜだ?


 渦巻く疑問の中、魔族は魔法を撃ち放つ。あっさりと防がれ、反撃で飛んでくる魔法に傷が増えていく。そして、斬り飛ばされた腕を媒介ばいかいに召喚した魔物たちは、少年の剣士レーヴァに次々と斬り伏せられていく。


『弱い! 数でなんとか出来ると思っている時点で底が知れておるわ!』


「なんなのだあいつは! 漆黒の賢者は分かる。魔王様を倒したパーティーの一人だ。勇者以外にあのような剣士が居たなど聞いておらんぞ!」


 魔法陣はまだ健在で、森で集めた動物たちをダンジョンを使って魔物化しており、まだまだ出すことが出来る。数千匹集めて、近くの街を襲撃する予定だったが、レーヴァによって次々と数を減らされており、計画に支障が出始めている。


『もう飽きたのじゃ。おい、賢者。そろそろとどめを刺そうじゃないか』


「ああ、そうだね。リハビリにはちょうど良かったよ」


 まだまだ数が居るのをまるで歯牙しがにもかけず話しているレーヴァとルーイー。クマや猪などの大型魔物はレーヴァが倒し、ネズミや鳥などの小型の魔物はルーイーの唱えるライトニングアローで次々と動かなくなっていく。


「仕方あるまい。奥の手を使ってやる。次期四天王候補と言われた我の力を思い知るがよい!」


 魔族は大きく息を吸い込むと自身の眼に手を入れて眼球を引き抜く。


「うわぁ、グロい」


 ルーイーが気持ち悪そうに呟いていたが、次の瞬間にレーヴァへ警告を放つ。


「あの眼球。魔力量が凄いよ。なにか巨大な魔物を呼び寄せるつもりだ」


『ほぅ。それはいいではないか。ユグドの修繕素材にも使えそうじゃのぅ』


「いや、多少は危機感を持とうよ」


 さすがに油断はできないとルーイーが苦笑しながら言ってきたが、レーヴァからすれば鳴り物入りで現れ、偉そうに口上を述べたにも関わらず完全出オチの魔族を警戒するなどできないようであった。


「<ここに召喚せしは我が最高の眷属なり>切り札は必要時に出す。これが上に立つ者の決断だ。片目を犠牲にしなければならなかったお前たちの強さに敬意を表そう」


 眼球に魔力を注ぎ込み地面に落とすと、周囲が漆黒でおおわれる。そして一気に漆黒が広がっていった。


『ほう。これはさえずるだけはあるのぅ』


「なっ! アンデット化したドラゴンを召喚したのか!」


 感心したような表情をするレーヴァと、さすがに驚きの声を上げるルーイーの前に巨大なドラゴンが現れた。二人が見上げるほどの大きさであり、半分は腐っており、覗いている肋骨ろっこつからは魔力が溢れていた。


 ただ、そこに居るだけで強さが分かる。


「目の前の人間を殺せ」


 召喚主である魔族に呼応するようにドラゴンは口を開けると黒いブレスを放つ。直線状のブレスはあっさりとレーヴァに避けられ、周囲に居た魔物たちを巻き込みつつ、ルーイーの結解にも襲い掛かった。


「ん? 結界が溶ける?」


「ふははは! そうだ! このアンデット化したドラゴンが吐くブレスは魔法をも溶かしていく。魔術耐性も高く、魔術師殺しと言っていいだろう。そして我が魔力によって覆っており、神聖魔法も効かん」


 高らかに笑う魔族は、さらなる攻撃をルーイーだけにするようにドラゴンへ命じる。そして、自身はどこからともなく取り出した両手剣を構えると、レーヴァと対峙した。


「貴様は我が直接倒す。油断して腕を取られたが、身体強化した今ならそれも不可能だ」


『よいじゃろぅ。少しは歯ごたえがある事を期待しておるぞ』


「ぬかせ!」


 魔族は身体強化された身体を使い、両手剣を片手で縦横無尽に振り回す。


「ぐぉぉぉぉ!」


 魔族の体力と強靭きょうじんな力を使って、技もなくひたすら連撃を放つ。そんな攻撃をレーヴァは軽やかに次々とかわしていく。しばらく戦闘は続いていたが、徐々にレーヴァの動きが悪くなっていく。


『ちっ。さすがにアランの身体では動き続ける事が出来んのぅ』


「どうした。人間の体力でどこまで躱し続ける事ができる!?」


 人間と魔族。根本的な地力の差。魔族はそれを前面に出してレーヴァの技を粉砕ふんさいしようと試みる。実際、レーヴァの動きは最初の時とは違い、読みやすくなっていた。


「そしてこれが魔族の真骨頂だ」


 剣を振るい続けつつ魔族は魔法を放ちだす。ドラゴンを召喚し、魔法を放ち、剣で斬り結ぶ。剣士や魔法使いなどと呼んで1つのことしか出来ない人間とは違うのだ。


「これで終わりだ」


 魔族は周囲に闇属性のダークボールを数十個出すと、レーヴァ目掛けて全方位から撃ち放つ。

 そして両手剣を振りかぶり、力強く上段から振り下ろした。遠征先で最強と呼ばれた相手を倒した技であり、ダークボールに意識を向ければ剣によって真っ二つにされ、剣を気にするとダークボールが襲い掛かる。


 やっと勝利の確認を得た魔族であったが、一瞬で崩れ去る。レーヴァは魔族の剣を受け流すと、ダークボール目掛けて剣を一閃いっせんしたのだ。

 飛び出す剣撃を受けてダークボールが吹き飛ばされる。体勢を崩された魔族は驚きながらダークボールが消えるて行くのを見てしまった。


『また、よそ見か。お主を倒す者を見とかなくてよいのか?』


 声に反応する魔族が視線を向けると、そこには死を運ぶ剣筋が見えるのだった。


◇□◇□◇□

「なんなのだ! お前はなんなのだ! なぜこの我を圧倒する!」


 右肩から腰辺りまでを斬られ、致命傷に近い傷を受けた魔族が叫んでいた。そんな様子を眺めながら、レーヴァはニヤリと笑う。


『そりゃあ、お主より儂の方が強いからじゃろぅ』


「聞いたことが無いぞ! お前のような小僧の存在を!」


 流れる血を押さえる事もせず、後ずさりしながら魔族は叫んでいる。


『死の扉の下より引き揚げられた我に歯向かったのが運の尽きよのぅ』


「な、死の扉の下だと?」


 レーヴァの言葉に魔族が大量出血だけでなく顔面蒼白になる。聞いたことがある。魔王様が追い求めていた伝説の魔剣があると。その魔剣は自らの意思で持ち主を決め、絶対的な力を与えると。

 一振りで敵を真っ二つにし、その攻撃はどのようなものでも斬れると言われている。そして、対峙たいじした者は死の扉に追い落とされると。


「ま、まさか。あの魔剣レーヴァテインだと!」


『ほう。その名を知っておるのか? だが遅かったようだな。もう、お主は死の扉を半分くぐっておる。どうやら、あっちも終わったようじゃのぅ。思ったより早かったではないか』


「私的には不満だがね。時間がかかり過ぎた。たかだか魔法を打ち消すブレスを吐く程度のドラゴンにこれほど時間がかかるなんてね」


 手に巨大な魔石を持つ漆黒の賢者ルーイーの声に魔族が絶望の表情を浮かべる。もう、打つ手が無くなった。なぜ? 準備は万全で誰に気付かれることなくあと少しであったはずなのだ。


「認めん! あと少しであったのだ! この大伯爵であるロノウェが人間ごときに――」


『もう、いい加減黙るがよい』


 まだ叫ぶロノウェと名乗った魔族にレーヴァが軽く剣を振るう。右胸に突き刺さった剣から流れ出す血を見ながら、自分はなんて運がないのだ。そう思いながらロノウェは意識がなくなった。

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