第21話 ダンジョン突入

 洞窟に足を踏み入れたレーヴァとルーイー。入った瞬間に違和感が二人を襲った。外から見た分にはクマが寝床に使うほどの大きさだったのだが、中に入るとちょっとした広場になっていた。


「これは完全にダンジョンだね」


『ああ、そうじゃの。時間限定ダンジョンと思ってよかろうな』


 先ほどの推測が当たっていた。そう思いながら二人は周囲を見渡す。時間限定のダンジョンと呼ばれるのは、入り口が現れるのが限定されているだけであり、中に入れば問題はない。


 それを知るレーヴァとルーイーは気にすることなく周囲を警戒しつつ探索を始める。しばらくは一本道が続いており、ダンジョンだと分かるヒカリゴケもあちこちに生えており、ランタンなどは必要なかった。


『ふむ。出迎えが来たようじゃな』


「そのようだね。まずは私が対処してもいいだろうか? ユグドの具合を確認しておきたいんだ」


『まあ、よかろう。だが、ランクの低い魔石であればもらうぞ』


「いいとも。それくらいならいくらでも進呈しんていしよう」


 譲る代わりに魔石を寄こせ。そう伝えてくるレーヴァに笑みを返しルーイーはユグドを構え詠唱を始める。


「まずは低級魔法からいこうじゃないか。<ここに顕現し水の刃よ。我が先をふさぐ敵を切り裂け>」


 目を細め向かってくる相手を確認するとウォーターカッターを撃ち放つ。ダンジョン内であり、念のために炎系ではなく水魔法を選択したルーイ。

 向かってくるのは森ネズミが魔物化したようで、大きさは中型犬ほどあった。2匹がルーイーへ襲い掛かろうとしたが、解き放たれたウォーターカッターによってあっさりと切り裂かれる。


 悲鳴を上げる事もなく真っ二つになった魔物化した森ネズミは、勢いで数歩歩いたが、そのまま倒れ数度痙攣けいれんすると動かなくなった。


「いい感じだ。魔力の流れに問題なく、消費された魔力も杖無しよりも少ない。ありがとうユグド。また君と戦うことが出来そうだ」


 杖を胸に抱き寄せ感慨深かんがいぶかげにしているルーイーの横を通り抜けると、レーヴァは魔物化した森ネズミに剣を突き刺して魔力と魔石を吸収し、あっさりと解体すると背負子に収納した。

 流れるような手際の良さであり、アランが見ていたら拍手をしていたであろう。


『まあ、この程度の大きさならこんなもんじゃな』


「約束は忘れないでくれよ」


 ユグドを抱きしめていたルーイーが、念を押すようにレーヴァに伝える。


『分かっておるわい。そやつユグドを直すに必要な魔石には手を出さん。こやつらは魔猪に比べたら腹の足しにもならんわ』


「そのようだね。Dランク程度だね。やはり、森の動物たちがダンジョンに取り込まれたと思ってよさそうだ」


 レーヴァの背負子に視線を向けてルーイーが確信する。大きさこそかなりだったが、間違いなく森ネズミであり、強さ自体も大したことはなかった。


「マッピングは念のためにしておこう。まあ、ここがダンジョンだと判明した以上はユーファには悪いが、コアを見つけたらさっさと破壊してしまうがね」


『まあ、そうじゃの。アランの修練場としてもいいかと思ったが、森の動物たちが取り込まれるなら破壊した方がよさそうじゃのぅ』


 このままでは森の生態系が変わってしまう。そう思った二人の意見は一致し、再び歩み始めるのだった。


◇□◇□◇□

『それにしても数が多いのぅ。まだ収納は出来そうか?』


『おで、まだまだがんばれる』


 レーヴァが背負子に話しかけると力強い回答があった。

 戦闘回数はすでに二桁に突入しており、出てくる魔物もクマや猪などになって来ている。階段こそなかったが、かなりの広さを誇るダンジョンのようで、終わりがなかなか見えない。


 途中から魔力を温存するためにレーヴァが戦闘をになっており、ルーイーはレーヴァは背後を警戒しながらも、その継戦能力に驚いていた。


「本当に任せきりで良かったのかい? 私は助かっているが」


『はっ。このような雑魚どもが何匹出てこようとも問題などありゃせん。魔石も大した物がないのが出てこんではないか。もっと、どでかいのを期待しておるのに』


 勇者と共に魔王を討伐したルーイー。前衛職ではないが、常にユーファの剣筋を常に見てきた彼女からしてもレーヴァの戦い方は流麗で華麗であった。

 的確に急所へ滑らすように剣を突き刺していく動作。まるで相手の動きを予知しているかのような回避。どれを取っも超一流の戦士そのものであった。


「そろそろボスが出てきてもいい頃だね」


『ああ、そう願うわい。そろそろアランが起きそうじゃからのぅ。戦わせてもいいのじゃが、儂が戦うと約束したでな』


 マッピングした地図を見ながらルーイーが呟くと、レーヴァも一緒にのぞき込みながら答える。二人が入ったダンジョンはかなり広大であり、すでに6時間は経過している。


「そろそろ終わってくれないと御者が心配するだろうからね」


 それから10分ほど進むと少し広めの場所へ到着した。目の前には大きな扉があり、そこから溢れ出す魔力はボスクラスが居座っていると主張しているようであった。


「ここが終着のようだね」


『最後くらいは骨のあるやつが出てきて欲しいもんじゃわい。おい、背負子。ちょっと休憩するからブドウを寄こせ』


『アランがほしぶどうにしたいっていってたからあとひとふさだけ』


 背負子からブドウが出てくるのを受け取り、レーヴァが複雑な顔になる。旬を逃しても食べられる干しブドウも好物であったからだ。名残惜しそうにちびちびと食べている姿は可愛らしいものであり、ルーイーは思わず頬を緩めていた。


「これが終わったらブドウを買ってあげよう」


『なんじゃ急に? まあ、買ってくれるならもらうがのぅ』


 食べ終わって寂しそうにしているレーヴァに思わず声をかけるルーイ。突然の提案に虚を付かれた感じの顔になったレーヴァだが、買ってくるれるならとご機嫌となり、扉に視線を向ける。


『さあ、腹ごしらえと休憩も終わったからのぅ。さっささとボスを倒して、コアも破壊して街へと戻ろうではないか』


「ああ。そうさせてもらおう。私もユグドと共に全力を出させてもらうとしよう」


 休憩をはさんで気分転換になった二人は軽く頷き合うと扉に手を開け、勢いよく扉を開くのだった。

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