第20話 森での異変
『アランは休憩させるとして、ユグドの具合はどのような感じじゃ?』
レーヴァが優しくアランの頭を撫でながら、ルーイーに確認する。アランは一大事を成し遂げたとの表情を浮かべており、幸せそうな顔で寝息を立てていた。
「ふふっ。寝ている顔は可愛らしいものだね。ユーファがぞっこんになっているのも分かる」
アランの寝姿を感謝の瞳で眺めルーイーは手元にある短杖に視線を移す。魔王を討伐するまで苦楽を共にしてきた相棒であり、自国では国宝と呼ばれているアーティファクトでもあった。
軽く魔力を流してみると、少し引っ掛かりのようなものは感じるが、修繕前の状態と比較すると、手に馴染んでおり久しぶりにユグドを感じる事が出来たのかルーイーの頬が
「喋れないのは少し寂しいが、それは仕方ないだろう。魔力の通りも良い感じだよ。ただ、最盛期ほどとは言えないがね。それでも満足しかないよ」
アランから能力は戻ったと聞いていたが、実際に使ってみると全盛期の3割程度との実感である。だがそれでも十分に強力な武器であり、ルーイーはアランに感謝していた。
『まあ、
「もちろんだよ。アランにいくら払ったらいいのか分からないから困るよ。世界樹の樹液なんてどこで手に入れたんだか。あれだけの量があればミングウィンの一等地にそこそこの屋敷が立てられる金額になるからね」
レーヴァの言葉にルーイーが答える。アランが準備した修繕素材は
「まあ、これから追加になる素材もあるからね。出来れば魔石は自分で用意したいところだよ。これ以上はさすがに払いきれなくなる。何なら私の全てを差し出す必要があるかもね」
『ははっ。それは面白いのぅ。お主が全てを差し出したと聞いた
ルーイーの言葉にレーヴァが笑う。修羅場になるのは確実であり、そのシーンが目に浮かんだようであった。
『アランは寝ておるが、そろそろ先に進むかのぅ』
「そうだね。私とユグドが居ればBランク程度の敵が出てきても問題ないからね」
このまま会話していても時間だけが経過するとの認識が一致したレーヴァとルーイーは御者に先へ進むように伝える。とりあえず森の入り口まではたどり着いておきたいとルーイーは考えていた。
「それにしても静かなものだね」
『ああ、そうじゃのぅ』
「あまりにも静で不自然すぎるね」
馬車が再び進みだし、森へと近付くのだが、普段の様子とは違う空気を感じ、ルーイーは探索魔法を唱える。周囲100メートルほどの様子が確認できるのだが、魔物はおろかウサギや鳥などの気配すら感じられなかった。
「ルーイー様。森に到着しましたが、私はどのようにさせて頂きましょうか」
しばらくして森の入り口に到着したと御者から声がかかる。少し考えていたルーイーが答える。
「ふむ。そうだな。先ほど休憩した場所で待機をしておいてくれ。迎えに来て欲しい時はいつもの手段で伝える事にしよう」
「かしこまりました。お気をつけて」
御者も今の森が不自然だと感じていたのかルーイーの言葉に答えると、心配そうにしながらも来た道を戻っていく。その姿を見送ったルーイーはレーヴァへと話し掛けた。
「アランはまだ寝ているのかい?」
『ああ、そのようじゃな。久しぶりにスキルを使ったから魔力が回復しておらんのじゃろぅ』
ルーイーの言葉に
なのでレーヴァがアランの身体を使っている状態になる。軽く
『じゃあ行こうかの。アランが起きそうだとしても意識は押さえておくわい。なにがあるか分からんからのぅ』
「そうしよう。まずは魔猪と出会った場所へ行こうじゃないか」
レーヴァの言葉に答えるように行き場所を指示すると森の中へと足を踏み入れた。
◇□◇□◇□
「ここかい?」
『ああ、そうじゃな。間違いない』
アランが魔猪と出会った場所かと確認するルーイーに頷くレーヴァ。軽く周囲を見渡してみるが、特に変わった様子はない。相変わらず生物の反応が無い事は気になるが。
「ここでBランクの魔猪と出会ったとして、奴はどこから現れたのかが分からないね。もうちょっと探索範囲を広めてみよう」
ルーイーはアランから預かっていた魔猪の皮をアイテムボックスから取り出すと、皮に含まれている微弱な魔力を確認して魔物中心とした探索へと切り替える。
森には危険と言われるオオカミやクマなどが住んでおり、通常の探索魔法は生物や魔物を含めて行うのだが、今は原因調査が最優先であり、また現れたとしてもレーヴァが居れば問題ないとの判断であった。
『ん?』
「気付いたかい?」
しばらく出会った場所を中心に1キロほど探索をしていた二人だが、レーヴァが足を止める。ルーイーも探索魔法を一度止め、反応があった場所へ鋭い視線を向ける。
『前はこのような気配はなかったのじゃがな』
「時間によって発生するかもしれないね。レーヴァさんが気付かないならその線が濃厚そうだ」
気配が濃くなっている場所に二人がやってくると、目の前には洞窟があり、そこからかなりの魔力が
『なるほどのぅ。魔猪はここからやって来たと』
「それか普通の猪が洞窟に入って魔物化した可能性もあるね。どちらにしても中に入って確認すべきだろうね。問題ないかい?」
一度、ミングウィンの街へ戻ってユーファに報告してもいいのだが、この場を離れるのは危険な気配がしている。レーヴァも同感のようで、アランの腰に差してある
『当り前じゃ。儂を誰だと思うておる。このような面白そうな状況で引くなどありえんわ』
「だよね。私も賢者の血が久しぶりに騒いでいるさ」
『その心意気やよし! では、さっそく中に入ろうとしようかのぅ』
お互いに顔を見合わせ軽く頷き合うと、レーヴァとルーイーは足取りも軽く洞窟の中に入っていった。
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