第19話 ルーイーの武器を直しましょう

『ふははは。儂のアランは優秀だからのぅ。ルーイーもサッサっと相談をすればよかったのじゃ』


「ははっ。そうだね。本当にそうすべきだった。なぜ聖剣を直したアランに相談をしなかったんだろう。もっと早めにしていればと後悔しているよ」


 馬車を止め作業をすることになったアラン達一同。レーヴァとルーイーはアランを囲み作業を眺め話をしていた。視線を一身に受けるアランは2人の会話や視線すらも気にならないほど集中しており、簡易で用意した台座に置いた短杖に手を当てしばらくすると眉をしかめる。


「ユグド。かなり酷い状態だね。形を保っているのが不思議なくらいだ」


「ああ。魔王との最終決戦で全員を囲む結界を張ったんだが、魔王の攻撃で限界を超えたんだよ。だが、ユグドも私も後悔はしていない。お陰で世界は平和になったんだ」


 アランの問い掛けにルーイーが苦い顔で答える。最終決戦で魔王が最後に行った攻撃はそのまま受けると一行が全滅する可能性があった。そこでルーイーとユグドは毛決断をせまられた。


「ユグド……」


 アーティファクトと言われるユグドを犠牲にする事で魔王の攻撃を防ぎ、そこから勇者達の反撃が始まった。そのような話を聞きつつアランは触診を続ける。


 スキル<修繕>でユグドの状態を確認を続けていると完全に壊れてしまう一歩手前であり、どうやっても自然に回復する見込みはなかった。

 脳裏に浮かぶユグドの修繕素材の一覧でその酷さが分かる。


 最高素材である世界樹の樹液以外にも様々な素材が大量に表示されており、アランは背負子から素材を次々と取り出していく。


「ええっと。世界樹の樹液は問題ない。後はミスリルは……うん。まだ在庫があるね。マンドラゴラの根を採取しておいてよかった。うーん後は魔石があればよかったけど。魔猪の魔石程度の大きさは最低でも欲しいところだな。でもあれはレーヴァが食べちゃったしなー」


『知らん。こやつユグドが壊れておると知っておったら食べたりはせん』


 素材を取り出しているアランの呟きを聞いたレーヴァがバツの悪そうな顔で答える。考えなしに口走ったアランはレーヴァに謝罪する。


「ごめんごめん。別にレーヴァを責めるつもりはないよ。でも魔猪クラスの魔石は欲しいんだよねー。もう一回は修繕が必要だから、それまでに用意しよう。だから、次の魔石は食べないでね。まずは今できる応急処置をするから。じゃないと近い内にユグドが壊れちゃう」


『まあ、仕方ないのぅ。友が壊れるのは望まん。まあ、聖剣ならいいがのぅ』


 アランはレーヴァの言葉に苦笑しながらユグドを中心として素材を並べていく。そして大きく息を吸うと小さく頷き、そっと手をえスキルを発動させた。スキルに呼応するように光に包まれるアラン。

 光はきらめくように動き始め、指先に集まっていくとユグドへと吸い込まれていった。そして光を受けたユグドが振動を始める。


「これがアランの<修繕>スキルか」


『なんじゃ? 見るのは初めてか?』


 ユグドが素材を次々と吸い込んでいく様子を見たルーイーの呟きに、レーヴァが思わず反応する。アランと一緒に旅をしていた時に見たことはなかったのか? そう言いたげな視線を投げるレーヴァにルーイーは軽く首を振った。


「見るのは初めてじゃないさ。アランの修繕スキルは何度も見ているよ。だが、今のように成長したスキルを見るのは初めてだね。直近だったら聖剣エクスの時だろうが、あの時の私は決戦に向けエルフの里へ結界魔法を学びに行っていたからね」


 勇者一行に加わった当時のアランが使う修繕スキルは単純であった。アラン自身もスキルの使い方を把握しきれておらず、武器や防具の上に鉄や皮などの素材を適当に並べ、とにかくスキルを発動させるやり方であったのだ。

 ユーファ達が持つ武器や防具も当時のアランが持つスキルで対応出来ていたので問題なかった。


「あの頃と比べればアランのスキルは確実に進化をしているな。だから感動していたのさ。これならばユグドを直してもらえる。そう思えるからね。そういえばレーヴェも修繕されたのだよね? アランのスキルが変わってからかい?」


 旅を始めた頃を思い出し、今のアランと比較をするルーイーがレーヴァへ確認する。彼女レーヴァもアランの修繕スキルによって直った魔剣だからだ。


『まあ、儂の場合はちと特殊じゃからのぅ。ユグドの参考にはならんし、詳細を話す気にはなれん。気になるようじゃったら、アランから直接聞くがよいさ。お、それよりもユグドの様子が変わってきたようじゃぞ』


「ああ、そのようだね」


 質問をはぐらかたレーヴァはユグドの変化をルーイーに告げる。もう少し話を聞きたそうにしているルーイーであったが、ユグドの輝きが鈍い銀色から目もくらむような金色の輝きへ変化すると、期待した表情を浮かべる。


「ユ、ユグド?」


 恐る恐る話しかけるルーイーだが、ユグドからの返事はない。あれほどいつも楽し気に話をしてくれたユグドの声はなく、ルーイーは思わずアランを凝視してしまう。


「ごめん。僕のスキルでも4割程度しか修繕できなかった。世界樹の樹液が足りないのと、純度の高い魔石は必須かも。今はユグドの能力が使えるくらいかな」


 久しぶりに長時間のスキルを発動したせいか、アランの顔は汗だくになっており、呼吸も荒くなっていた。あれほど準備していた素材は全て無くなっており、あとどれくらいの素材が必要かは分からないようだ。


「いや、すまない。アランは精一杯してくれた。ここまで直してもらって文句を言える立場でもないさ。能力が使えるようになっただけでもありがたい。本当にありがとう」


 アランの様子を見て、自分の態度を反省したルーイーが頭を下げる。謝罪を受け取ったアランは少し疲れたと告げ、そのまま崩れ落ちるように床にへたり込んだ。


『少し横になるがよい。周囲の警戒は儂と賢者ルーイーでしておくでな。ご苦労じゃった』


「ありがとう。じゃあ言葉に甘えてちょっと寝るね」


 レーヴァが優しく声をかけアランの頭を撫でる。アランは嬉しそうに安心して目を閉じると静かに寝息を立て始めた。

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