第17話 森への追加調査をする事を決める

『それでなにが聞きたいのじゃ?』


 少し気だるげな表情で答えるレーヴァ。先ほどの模擬線で満足したのか、ゆったりとした動作でアランの肩に座る。


「ああ、君に聞きたいのは魔猪との戦闘は余裕だったのか。周囲に敵は居たか。他に周辺で違和感はあったかなどを聞きたいね」


『ふむ。そうじゃのぅ』


 ルーイーがワイン片手に話しかけると、それには答えず料理長に視線を向けると飲み物をもってくるように告げるレーヴァ。


『アランと同じものでよいぞ。アルコールは好かん』


「かしこまりました。アップルサイダーですがよろしいでしょうか」


『ああ、かまわん』


 料理長からグラスを渡され、一口飲むとスッキリしたのか、ルーイーに視線を投げ、レーヴァは少し考え込む。


『アレは大した奴じゃなかったのぅ。周囲にはあやつ以外の魔物はおらんかったし、周囲に魔素があふれている様子もなかった』


「本当に魔猪が単体だけで居たって事か」


『そうなるのぅ。どこからから突然現れた。そんな感じじゃが、なにか気になる事があるのか?』


 レーヴァの言葉にルーイーが考え込む。アランの報告にあった森の浅い場所でBランクの魔物が1匹だ居るのは違和感しかない。だが、レーヴァの探知能力はルーイーもよく知ることろであり、それ以上は冒険者ギルドからの報告を待つしかないようであった。


「ただ、続報を待つとして、我々に出来る事はしないとな。ユーファはどう考えている?」


「私ですかー。そうですね。まずは森へ入るのは禁止ですー。との領主命令を通達するようにバックスには指示しますよー。後はミランダとラティスからの報告待ちなのですー」


『ユーファ。これは勇者である貴方が調べるべきだと思いますわ!』


 ルーイーとユーファが今後の対策について話していると、エクスが現れ腰に手を当て、ここは勇者の出番だと力強く宣言する。そんな発言にアップルサイダーのお代わりを頼んでいたレーヴァが鼻で笑った。


『はっ。これだから能天気な聖剣様はいかんのぅ』


『どうしてですか! 勇者として民の危機を救うのは当然です。あなたはそんな事も分からないのですか!?』


 レーヴァのあざけるような良い様にエクスがみつが、いたって冷静な言葉が返ってくる。


『ふっ。浅いのぅ。なんも被害が出おらんのに勇者が出た方が不安に思うじゃろう。しかも勇者ユーファはこの領地を治めており。トップが先陣を切って森に入ったら、それを見た領民はどう思うのか。そんな事も分からんのか』


『ぐっ』


 レーヴァの正論を聞き、ぐうの音も出ないくなったエクスが口ごもる。その表情に満足げな笑みを浮かべたレーヴァがアランに話しかけた。


『気になるようじゃったら、儂らで森に入ろうではないか』


「僕たちで森を確認するってこと? 確かに場所を分かっているしいいかも。でも、今度はレーヴァも起きててよ?」


『言いだしっぺじゃから、まあ仕方ないのぅ』


「それは駄目ですー。だったら私も一緒に行きますー」


 アランとレーヴァの会話を聞いてユーファが慌てる。レーヴァが居れば安心だと分かっていたも、そんあ危険な要素が少しでもある場所へアランが行くなんてユーファには考えられなかった。


「それはいいかもな」


「ルーイー!」


 アランの提案をルーイーが支持するのを聞いてユーファが大きな声を出す。


「いや、一番現場を知っているのはアランだろう? 冒険者ギルドからの報告を待ちたいが、それを待ちつつも並行して調べるのは悪い手じゃない」


「ですが」


「それに私も一緒に行くからな。賢者である私が付いていけば色々と分かる事もあるかもしれない」


 ルーイーの言葉にレーヴァが面白そうな顔をする。自分から話を聞いておいて、それを信じ切らず、自身でも調べたいとの言い方を気に入ったようであった。


『なら決まりじゃの。今日はもう遅い。明日の朝早くに行こうじゃないか』


「なら、私は一度屋敷に戻ろう。朝一番に正面口の門で待ち合わせでいいだろか?」


『ああ、それで構わん』


「ちょっと待ってくださいー!」


 レーヴァとルーイーの間で話が進んでいくのをユーファが止める。


「ルーイー。あなたまで何を言っているのですかー」


「これは、この街と我が国が接している森の異変だ。貴族として見過ごすわけにはいかない。それに私はゴールドランクの冒険者でもあるからな」


「でしたら私も貴族でランク測定不能の冒険者でもありますー」


「いやいや。ユーファは領主だろう。私はユーファとは違って身軽だからな。それに私が居た方が、アランも安全だ」


『ふん。儂が居れば問題ないわい。じゃが、魔力探知に優れている者はいてもいいかのぅ』


 ルーイーとしても自分が無茶を言っているのは分っている。だが、森の異変は賢者として気になる事象であり、どうしても確認したかった。しばらくユーファとルーイーとで話し合いが行われたが、最終的にはユーファが折れる事になり、アランとルーイーで森への追加調査を実施することになった。


◇□◇□◇□

「むー」


 食事も終わり、別室の雑談室に移動したユーファが頬を膨らませていた。ルーイーはすでに自身の屋敷に戻っており、この場に居るのはアランとユーファだけであった。


「そんな怒らないでよ」


「怒りますー。情報は多い方がいいのは理解していますが、アラン様が危ないかもしれないですー」


 アランがなんとかユーファをなだめようとするが、機嫌は直りそうになかった。さすがに呆れたレーヴァが口をはさむ。


『そこは儂がおるから安心せい』


「勇者と聖剣を手玉に取るレーヴァさんと、勇者メンバーの賢者ルーイーが居れば大丈夫なのは分かってますー。でも心配なんですー」


『仕方ないのぅ。この調査が終わったら、アランを1日貸してやろう。でぇとでもなんでも好きにするがよい』


「そんな言葉で安心できませんが、止めても行くんですよねー。でしたらアラン様とのデートで我慢します。でも、絶対にアラン様に傷一つ付けないでくださいねー」


 自分の了承はなく決まったことにアランが口をはさもうとしたが、レーヴァがアランの口をふさいで頷いた。

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