第16話 楽しい食事会

「アラン様! このお肉はしっかりと煮込まれているので柔らかいですよー。はい、あーん」

「自分で食べれられますから! 周りの人たちも見てますから! ユーファ様は自分の分を食べてください!」

「また! 敬語になってますー。罰として呼び捨てを要望するのですー。はい、せーの!」

「うぇぇぇ? え、えーと。ゆ、ユーファ?」

「きゃー! 幸せですー。素敵ですー、アラン様」

「え? ちょっ、ユーファ様?」

「今後は呼び捨てじゃないとだめですよー。様は要らないですー」

「だって、ゆ、ユーファも様付けじゃないか」

「それとこれは話が別なのですー。私はアラン様でいいのですー」

理不尽りふじん!」


 ルーイーとバックスが食堂にやって来ると、にぎやかな会話が聞こえてくる。給仕やメイド達がアランと主人とのやり取りを微笑ましげに眺めており、料理長はユーファがアランに嬉しそうに食べさせている姿を見て満足げな表情を浮かべていた。


「楽しそうだな、アラン」


「あ、ルーイーさん。助けてください! ユーファ様が呼び捨てにするようにと言ってくるんですよ。ルーイーさんは、さん付けで呼んでいるのに」


「問題ないじゃないか。アランとユーファは同い年だろう?」


「僕の方が年上ですよ!」


「え?」


 ルーイーの問いかけに憤慨ふんがいした表情でアランが答える。その発言に驚いた顔をするルーイー。改めてアランの姿を見る。小柄であり、成人しているようには見えない。童顔だと力説されても「年相応では?」と思ってしまう。


「ユーファは16だったか?」


「はい、そうですよー16歳ですー」


「で、アランは?」


「僕は18歳です!」


 アランの回答にルーイーだけでなく、一緒に食堂に入ってきたバックスや、食堂にいたメイド達や料理長も驚きの表情を浮かべている。そんな一同の視線を受け、アランは不服そうな顔でルーイーに問いかけた。


「ちなみにルーイーさんは僕を何歳だと思ってたの?」


「ユーファと同い年だと思っていたから16だな」


「申し訳ありません。私は12歳くらいだと思っておりました」「私は15歳かなーって」「俺は年齢なんて気にした事ないが、未成年だとばかり」


「みんな酷い……」


 ルーイー、バックス、メイドの1人、料理長。それぞれの発言を聞き、アランが机に突っ伏す。未成年だと思われていた衝撃を受け打ちひしがれているアランの頭をユーファが優しく撫でる。


「私はアラン様が18歳なのを知っていましたよー。アラン様が年上だから様付けで呼ぶのは当然なのですよー」


「そうかユーファの方が年下だから様を付けなくてもいいのか」


「おお、上手い事を言うじゃないかユーファ」


 ユーファの言葉にアランが納得した顔で嬉しそうな顔になる。だが、ルーイーの発言を聞いて何か察したような表情へと変わる。そんなアランを見て、ユーファはキッとルーイーをにらむと口を尖らせた。


「ルーイーは黙っているのですー!」


「まあ、アランがユーファを呼び捨てにするのは『彼女が年下だから』でいいじゃないか。ユーファは喜ぶ。私たちも気にしない。それよりも私の食事はどれなんだい? 色々と用意されているようだが?」


 ルーイーはテーブルの上を眺め料理長へと視線を向ける。それに気付いた料理長はルーイーをアランが座っている隣の席へと案内すると椅子を引いた。

 優雅な所作しょさで座ったルーイーだが、目の前の皿は空であり、いつもとは違うルールがあるのだろう? そう目線で問いかけると料理長が答えてくれた。


「アランが提供してくれた魔猪の肉がかなりいい物でして。部下達が張り切って、様々な料理を作ったのですよ。まあ、私もなのですが。なのでお客様が興味を惹かれた料理を楽しんで頂こうと、気になる品を言ってくださったら提供するとの趣旨しゅしでございます」


「ほう、それは面白い試みだね。欲しいのを言えばいいんだな。では、私はアランと同じ物を貰おう」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 テーブルの上にある料理を眺め、ルーイーは料理長へと伝える。しばらくアラン達と会話をしていると、料理が目の前に置かれた。


「魔猪のほほにく赤ワイン煮になります」


「ほう。頬にくとは珍しいね」


 ルーイーが面白そうな顔で頬にく赤ワイン煮を眺める。料理長が持つスキルの一つである<熟成>を存分に活かした自信作であり、スキルで柔らかくなった頬にくをさらに野菜やワインと共に煮込んでいる。

 しっかりと味付けがされており、ルーイーの口の中で崩れるように消えていく。

 初めて食べる食感にルーイーが思わず呟く。


「これはいいな」


「ありがとうございます。お気に召したようで何よりです」


「ああ、ワインともよく合う。ユーファはどれを食べているんだい?」


「私は肩ロースを塊で焼いてもらって塩を振って食べてますー」


 素材の味を最大限に満喫すべきだ! そう語っているユーファの皿であった。肉の塊が鎮座ちんざしており、異彩を放っている。


「魔王討伐で野営をしていた時を思い出すな」


 ルーイーが肉の塊を眺め感慨深い顔をしている。ナイフとフォークを使って優雅に切り分け食べるユーファが微笑んでいた。


「あの時は焚き火で焼いたでしたけどねー。これは比較するのも申し訳ないと思えるほど、完璧な焼き加減ですー」


「そりゃそうだろう。プロが焼いているんだ」


 ユーファの言葉にルーイーが答える。あの時はくじ引きで外れた者が焼いていたよな。そんな話をしながら夕食の時間は過ぎていく。アランが用意した肉は大量であり、今回の夕食ではその一部が使われたとのことであった。


「アラン。この肉はまだ残っているのかい?」


「欲しいのなら融通するのですよー」


「ぜひ頼む」


 全ての料理を満喫したルーイーが名残惜しそうに夕食を眺め呟くと、ユーファが屋敷にもらった分を融通すると言ってきた。料理長に指示をするユーファに感謝の視線を送りつつ、ルーイーはアランに話しかける。


「ところで魔剣殿は静かだな」


『なんじゃ? 儂に用でもあるのか?』


 ルーイーの問いかけにアランが反応しようとすると、その前にレーヴァが現れた。


「いや、魔猪を倒した時の状況を聞きたくてね」


『あまり詳しく話すとアランの情けなさを説明せんと行かんからのぅ』


「そこは端折はしょって構わないよ」


 レーヴァの言葉にルーイーは笑いながら答えるのだった。

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