第13話 激しい戦いと唐突に止まる戦い

 瞬殺してやるとのレーヴァの挑発を受け、ユーファは獰猛どうもうな笑みを浮かべ、勇者の能力<完全間合い把握>を使って距離を詰めるが、エクスを振るうことなく止まってしまった。


「くっ!」


『どうしたのじゃ?』


 あと一歩届かない。


 相手との一歩が永遠に感じる。目の前にいるアランの身体を使ったレーヴァから発せられる剣気がユーファを圧しているのだ。頬にひと汗を流し、気合を振り絞って半歩詰めようとしたユーファは勢いよく後ろへ


「危なかったですー」


『ほう。やるではないか。さすがは稀代の勇者じゃ』


 ユーファの動きに合わせレーヴァが大きく一歩を踏み出したのだ。あのまま踏み込んでいれば、レーヴァによって絶妙に間合いを外され、一気に畳みかける連撃が襲ってきたであろう。

 技量が高みにある者同士の戦いでは間合いが全てを決める。勝負は一瞬。ユーファはエクスを軽く握り脱力すると、足に力を入れレーヴァに向かって飛び込んだ。


『その意気やよし!』


 低く沈んだ状態から救い上げるような一撃を放つ。今回は完璧に間合いを自分のものとした。しかしユーファの斬撃を半身を反らしてかわすレーヴァ。そして左手だけで剣を上段に持ち上げると、重力に任せるような一撃を振り下ろした。


「えい!」


『なんと!』


 すくい上げの攻撃を躱され、体勢が崩れた状態ではユーファの振り下ろし攻撃が躱せない。そう判断したユーファは、その体勢のままレーヴァへの体当たりを敢行する。

 驚きながらも力のこもっていない体当たりを受け止めたレーヴァは、その勢いを利用する形でユーファを投げ飛ばす。


 ユーファはレーヴァを視線に入れたまま空中で1回転し着地すると、再び剣を構える。そして再びレーヴァに向かって突撃した。


『ほれ。これは躱せるかのぅ』


 強弓から放たれた矢のような勢いで突っ込んでくるユーファを、レーヴァが右手首を返しながらむちを振るうように連撃を放つ。半身の状態で剣を繰り出してくる攻撃にユーファは防戦一方になっていく。


『ユーファ。少し身体を借りますよ!』


「任せました。私では崩せません!」


 ユーファの剣技が変わる。勇者の力を前面に出し、スピードと威力で戦っていたユーファの動きが流水のように自由自在に動き始め、レーヴァの剣を次々と防いでいく。


 その戦い方はレーヴァに似ていた。


『ほう。少しは動きが良くなったではないか』


『黙りなさい。私に傷を付けたのは偶然だと思い知らせてやりますわ』


『なるほどのぅ。その動きは交代したんじゃな』


 感心した表情のレーヴァにエクスとなったユーファが苦り顔で答える。こちらは全力で戦っているのに、相手にはまだ余力があるように感じるのだ。勇者と剣聖の力。その二つが合わさっているのに、まるで届かない。


『ほれほれ』


『馬鹿にするのも大概たいがいにしなさい!』


 レーヴァはエクスの連撃を次々と流していく。魔剣と剣聖がぶつかり合い、そのたびに激しい火花が巻き起こる。この場に誰も居ないのがもったいない。それほど二人の戦いは見る人を惹きつける内容であった。


『くっ。アラン様の力を使ってないくせになぜですの!?』


『ふはははー。どうしたのじゃ。そっちは二人掛かりでやっているのであろぅ。もっと気合を入れんか』


 ユーファとエクスとで身体の支配を切り替え、剛と柔を目まぐるしく入り混じらせ、この場を支配しようとするのだが、どれもがレーヴァには届かず、戦いが始まって5分ほど経つが、レーヴァの独断場となっていた。


『こうなったら!』


「ちょっと! それはだめですー」


 渾身の薙ぎ払いをあっさりと受け止められ、さらには膝蹴りを横腹に食らって吹っ飛ばされたエクスがキレる。そしてユーファを包んでいた白いオーラが聖剣に集中していく。


『面白いことをしようとしているのぅ。よかろう。こちらも受けて立とうではないか』


 レーヴァはエクス聖剣に集まる反応にギアを一段上げると、納刀してつかに手を軽く当てて腰を落とす。いわゆる抜刀術の構えを取った。そして赤いオーラがさやに収束されていく。


『いきますよ』


『こい!』


 エクスが放とうとするのは、魔王との最終決戦で致命傷を与えた剣聖の最終奥義であった。この一撃で全てが決まると言っていい威力を放つことが出来る。だが。そんな技をダメージが魔力変換されるとしても、おいそれと撃つものではない。


 また、レーヴァの一撃も剣聖の最終奥義に匹敵するものであり、過去に放った際は周囲が灼熱地獄と化した物騒極まりない技であった。


「レーヴァ! その技は使っちゃダメだって言ったよね!」


「エクス! やめなさい!」


 訓練場にアランとユーファの声が響く。そして二人の動きが突然止まる。赤と白のオーラが薄くなっていき、そして消えていく。アランとユーファが同時に盛大なため息を吐いた。


「よかったー。急にレーヴァが必殺技を撃とうとする――ちょ!? なにこの惨状!」


 アランの意識が戻り、周囲を見渡すと訓練場は凄惨せいさんな状態になっていた。地面はそこら中に凹凸ができており、壁は役割を終えたように完全に崩れ落ちていた。

 そしてそこら中で煙が上がっており、剣での戦いだけのはずなのに、そこら中が炎上しているのである。アランが驚くのも無理はなかった。


「エクス! なにを考えているのです! あんな技を使ったらこの屋敷が吹っ飛びますよ!」


『だ、だってー』


 ユーファは怒り心頭でエクスを責める。それほど最後のやり取りは危ないものであった。なぜ訓練場で最終奥義を撃とうとするのか。確かに私もアラン様と戦える機会は無いからと乗ったは悪かったですが! そう話していると、レーヴァとエクスの人型が勢いよく剣から飛び出してきた。


『アラン! なんで邪魔するのじゃ!』


『良いところでしたのよ! もうちょっとで勝てたかもしれませんのに!』


 レーヴァとエクスが詰め寄ろうとするが、返ってきた視線に思わず口ごもる。珍しくアランが怒っており、驚きから回復したアランがユーファから状況を聞いたのだ。


「レーヴァ、エクス」


『いや、そのじゃな……』


『あの、そのですね』


「なに?」


『『 ごめんなさい(なのじゃ) 』』


「ユーファ様から聞いたけど、あの技同士がぶつかったらとんでもない状況になっていたんだよ」


 頬を膨らませながら怒っているアランにレーヴァとエクスが平謝りしている。はたから見れば違和感のある光景であった。年端としはのいかない少年に魔剣と聖剣の精霊が土下座をする勢いで謝っているのだ。


「ほら! ユーファ様にも謝って!」


『いや、あやつも同罪じゃ――すまんかった』


『使い手を無視して申し訳ありませんでした』


 アランの一言にレーヴァが反論しようとしたが、アランにひと睨みされて頭を下げる。エクスは泣きそうな顔でユーファに謝罪をしていた。


「アラン様、素敵すぎますー」


 そんなアランを頬を染めつつ、目にもハートが浮かんだ状態でユーファは眺めていた。

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