第5話 受付嬢は驚く

『クレスも元気かのぅ』


「ああ、ギルベルトさんの愛剣だね。ちゃんと修理したから大丈夫だよ」


 レーヴァがギルベルトの愛剣クレスを思い出していた。Bランク冒険者らしく、ダンジョンで見つけたアーティファクトで、危険を察知すると知らせてくれる能力を持っていた。

 しかし発見された時は錆だらけで、その性能は封印されていた。クレスがアーティファクトだと気付いていないギルベルトは、丹精に磨いた後で武器屋に持っていき修理して使っていた。


 それを見かねたアランが無償でクレスを修繕した。それによって完全復活したクレスは銀色に輝く剣に戻り、アランからクレスの能力を聞いたギルベルトは飛び上がらんばかりに喜んでいた。それほどの名剣だとは思ってすらいなかったのだ。


「魔力が枯渇した状態だったから錆びてたんだよね。ミスリルを少し足したら元の状態に戻ったし、クレスも拾ってくれたギルベルトさんに感謝してたから、これからもいいコンビになると思うよ」


『あれほどの名剣はなかなか目にかかることがないからのぅ』


 アランに修繕してもらい、眠っていた能力まで開眼させてくれたアランにギルベルトは今でも感謝しており、常にアランのことを目にかけている。アランを見かければ何かとアドバイスをしてくれる関係になっていた。


『アランと違って使い手が素晴らしいしからのぅ。クレスもいい主人を持ったものじゃ』


「なんだよー。まるで僕がダメみたいじゃないか」


『自覚はあるようじゃのぅ。いいことじゃ』


「酷いよ!」


 そんなやり取りをしつつレーヴァとアランが納品所へ向かおうとすると、依頼を受ける冒険者も来ず、相談する依頼者もいない暇な時間に突入し、暇を持て余していた受付嬢が声をかけてきた。


「アランさんじゃない。今日は納品? それとも何か素材回収の依頼かしら?」


「ミランダさん、こんにちは。今日は魔物1体を持ってきたんだよ」


「魔物ですって!? 魔石の大きさは? レーヴァさんが戦ったんでしょ? それなら魔石は結構大きかった?」


 軽い暇つぶしで話しかけた受付嬢のミランダであったが、アランの言葉から魔物との単語を聞くとテンションが上がる。魔物から取れる魔石は様々な用途で使われている。

 そして魔石のサイズが大きくなればなるほど、それに応じて金額が上がっていく。貴族からサイズを指定した依頼もあり、その報酬は桁外れになる事が多い。そんな依頼は引く手数多あまたであり、ランクの高い冒険者が争うように受注していく。

 納品されればギルドとしての評価にも繋がるため、ギルドでは依頼がなくても、積極的に納品をするよう冒険者たちに伝えている。そんなキラキラとした目でアランをみるミランダであったが、返ってきた回答は残念なものであった。


「ごめんなさい。魔石はレーヴァが食べちゃったから……」


『なんじゃ。儂が食いしん坊みたいな言い方をするでない』


「ああ……。そうでした。魔石はレーヴァさんの大好物でした……」


 アランとレーヴァの言葉に露骨にがっかりとした表情を浮かべるミランダであったが、気を取りなおすと一緒に納品所に付いてくる。どうやらアランとレーヴァが仕留めた魔物に興味を持ったようであった。


「今日は私が査定してあげるます」


「え? いいの?」


「もちろん。受付嬢は納品所が忙しい時は手伝うことがあるんですよ。それに私はアランさんの専属を目指してますからね」


『早く済むのであればミランダが専属でもよいぞ』


「勝手に決めないの。専属はBランク以上にしか付かないんだから。僕はまだDランクだよ」


 ミランダがカウンターに入り、アランの納品物を査定すると納品所の担当に伝えると、一部の冒険者からブーイングが起こる。自分たちは並んで待っているのに横入りするなんて。

 そんな真っ当な言葉であったが、ミランダがひと睨みすると静かになる。この街の冒険者はレーヴァ以外にも逆らえない人物がいるのだ。

 それがミランダであり、その昔に彼女を知らない冒険者が何も考えずにナンパをし、軽くあしらわれたことに激昂げっこうして、カウンターを乗り越えて掴み掛かろうとした事件があった。だが、ミランダは、その冒険者の顎を撃ち抜くと一瞬で気絶させた。

 その出来事以降は、誰もミランダに逆らわなくなり、実力ならBランクはあるのではと噂されている。そんなミランダが睨めば誰もが下を向く。昼に納品へやってくる冒険者は高くてもDランク止まりであり、威勢いせいだけが多い者が多かった。


「さあさあ。その魔物を出してくださいな。アランさんとレーヴァさんだから、しっかりと解体されてるんでしょ?」


『当然じゃ』


「ちょっとまってね。背負子さん。魔猪を出したいんだ。うん、そうそう。その辺りが魔猪になるね。あ、キノコは自宅で使うから必要ないよ」


 アランは背中にあった背負子を下ろすと、カウンターに肉を次々と置いていく。


「え? アランさん?」


 目を見開くミランダに気付くことなく、アランは骨や皮も並べた。その大量さに、先を越されて怨嗟えんさの視線を投げていた冒険者たちが驚きの表情を浮かべるる。


「おいおい。なんだよ、あの量は?」


「やっぱりレーヴァさんスゲェよな」


「いや、それよりも背負子に入っている量じゃねえぞ」


 様々な視線を浴びながら、全てを出し切ったアランはやり遂げた表情になっており、そこでやっと周囲の冒険者たちの視線と、ミランダの大きく開いた口に気付いた。


「あれ? どうかしたの? いつも納品している量と変わらないよ?」


「え? はっ? い、いえ。そうですね。


 確かにアランは森で獲った猪やウサギの肉を納品することはある。だが、それは罠に仕掛けて獲っていると聞いている。そしていつもなら、猪5体分が今の量くらいになる。


『儂が狩ったんじゃ。普通の獲物の訳があるまい』


「いや、そうなんでしょうが、この量は多すぎですよ。これで1体なんですよね?」


「うん。そうだよ」


 胸を張っているレーヴァと、嬉しそうに頷いているアランに、ミランダは頭痛を抑えるように、こめかみに手を持っていき揉み解すのだった。

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