第4話 ギルドでの一幕

『相変わらず鬱陶うっとおしい視線じゃ』


 気配に敏感なレーヴァが不機嫌そうに周囲を見渡し呟いたが、アランは気にする様子もなくギルドの中へと入っていく。

 ギルドには冒険者や依頼者が多く集まり、依頼素材も納品されるため、広く作られている。1階には掲示板が複数設置され、掲示板の近くには受付が複数ある。今は人が居ない掲示板だが、朝は冒険者たちが殺到しており、更新された依頼を見て争うように依頼書を握りしめて受付に押しかけ受注して出かけて行く。

 そして隣接されている納品所には朝に受けた依頼を終わらせた者達が戻っており、買取をしてもらうために行列を作っている。

 アランが何気に眺めると、受け取った品を吟味する担当者と冒険者が品質で口喧嘩をしており、違う担当者は激怒して納品された植物を冒険者に投げつけていた。どうやらその辺に生えている雑草を適当に持ってきたようであった。


『相変わらず騒々しいのぅ』


「まじめな人もいれば、不真面目な人もいるからねー」


 納品所近くで足を止め、やり取りを眺めレーヴァとアランが話している。ギルドの中央部には酒場が併設されており、依頼が終わった冒険者や、今日は休みと決めた者たちがエール片手に盛り上がっていた。


「アランが来てくれて武器の修理は依頼できるようになったがな」


「ああ。だが、あの一件があるから話しずらいのが難点だな」


 そしてアランとレーヴァにねっとりとした視線を送ったのは、そんな酒場で盛り上がっている冒険者たちであったが、入ってきたのがアランとレーヴァだと知ると、露骨に視線を外し再び酒を飲み始めていた。


『ふん。身の丈をわきまええているようじゃの』


「ああ、あの人たちはレーヴァに叩きのめされた人たちだね」


 レーヴァの言葉にアランが苦笑する。初めて街にやって来て、ギルドで冒険者登録をしようとした際に絡まれた事を思い出したようであった。


「あの時は怖かったよねー。いきなり胸倉をつかんでくるんだもん」


『儂のアランにちょっかいをかけるとはいい度胸じゃったな』


 アランが最初にギルドの扉をくぐった時は、どこから見ても新人そのものであった。まず装備は街服のような軽装であった。にもかかわらず、腰には立派なレーヴァ《剣》を差している。冒険者たちから見れば、世間知らずのボンボンが金に物を言わせて遊び半分にやってきたと勘違いしてしまった。

 そして教育との名でアランに絡んできたのだ。訳も分からず困惑していたアランだが、冒険者の態度にキレたレーヴァがアランの身体を借りて冒険者たちを叩きのめしたのである。


『儂が軽く捻ってやったからのう』


「でも後で聞いたら、あれって新人さんたちを教育するためだったそうじゃん。絡まれた後は、ギルドがサポートしてくれる予定だったんだよね。僕は知らなかったけどさ」


 アランは良くも悪くも目立ってしまったのだ。ギルドとしても一定の能力がない者を冒険者として登録するわけにもいかない。依頼の達成率はギルドの信用につながるからだ。

 なので少し乱暴であっても、実力を見極める必要がある。


「あの後、受付さんに怒られたよねー。冒険者として登録するなら身なりはしっかりと整えなさいって」


『ふん。最初から教えん奴が悪いんじゃ』


「ふふっ。それもそうだねー」


 レーヴァが冒険者たちを叩きのめした後、慌てて駆け付けた受付や、周囲の冒険者たちが世間を知らない新人や、調子に乗る者を対象にCランク程度の冒険者がギルドや世間の怖さと厳しさを教える伝統的なイベントであったと聞かされた。


「理由は分るんだけど、もうちょっと優しくして欲しいよねー」


『そこそこレベルなCランク程度で儂に絡んでくるからじゃ』


「でも、Cランク冒険者ってベテランだよ?」


『儂とやりあうなら勇者くらいは連れてこい』



 そんなアランとレーヴァの会話が静まり返っていた冒険者たちの耳に入り苦笑する。バケモンレベルだと知っていたなら手なんて出さなかったぜ。そんな会話がアラン達の耳に入るが、レーヴァが人睨ひとにらみするとピタッと会話が止まる。


「お、おい。早めに謝っておけよ」


「あ、ああ。その方がよさそうだ」


『そういえば、ギルベルトも元気にしておるかのう』


 焦っている冒険者たちを面白そうに眺めていたレーヴァだが、求める人物が見当たらないようで、残念そうにしながらアランに話しかける。冒険者たちを鎧袖一触がいしゅういっしょくした後、笑いながら話しかけてきたギルベルトを思い出したようであった。


「今日は居ないみたいだね。Bランク冒険者だから忙しいんだよ」


『それは残念じゃのぅ』


 勇者が来るまでは街で最高の冒険者と呼ばれていたのがギルベルトであった。そんんな彼が事情をアランとレーヴァに説明してくれ、冒険者であれば装備を整える必要があり、依頼者であるなら、身なりを整える事が大事と教えてくれた。

 また、納品をするなら、分かりやすいように背負子を持つ。そうやって、どのような目的でギルドへ来ているのか、誰が見ても分かる必要があると教えてくれた。


 アランはギルベルトからのアドバイスに従い、それ以降は背負子を常に背負うようにしている。冒険者としては登録済みだが、アランの主な活動は修理や納品がメインであり、背負子はいい目印になっていた。


「ギルベルトさんのお陰でギルドの信頼も上がったみたいだからね」


『そろそろ納品所へ行こうぞ』


「ああ、そうだね。レーヴァが解体してくれた魔猪がどれくらいで売れるか確認しないとね」


 街でも有名な冒険者であるギルベルトの話を素直に聞き、アドバイスに従うアランは冒険者達から徐々に認められるようになっていき、今では気さくに話しかけられることも増えている。

 ただ、レーヴァに叩きのめされ者たちは、今でも目線を逸らしてしまうが……。

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