第3話 勇者が暮らす街にて
「え? ユーファ様からの伝言?」
「ああ、屋敷に寄ってくれだとさ」
『なんじゃ。あやつは。アランが会いにいかんからと言って呼びつけるのか。まったく。行く必要なんぞないアランよ。用事が終わればさっさと我らの村へ帰るぞ』
「前に街に来たのにユーファ様に会わずに帰っただろう」
「うん。特に用事がなかったからねー」
『なぜ儂らがあやつに会いにかんとならんのじゃ。会わんで当然。今回も無視してかまわん』
マルコの言葉にレーヴァがどんどんと不機嫌になっていく。人型にならなければアランにしか声が届かず、マルコはアランとしか会話をしていない。
だが、レーヴァが好き勝手言っているのが聞こえるアランは、腰にさしてある
「まあ、今日は俺からの伝言を聞いたんだからユーファ様の所に寄ってくれよ」
「うん、分かったよ。森で出会った魔猪の件もユーファ様に報告したいからね」
「そりゃ助かる」
アランの回答にマルコが安どの表情を浮かべる。逆に驚いたのはレーヴァである。先ほどから会う必要がないと言っているのを完全に無視されたからだ。
『お、おい。アラン。お主は人の話を聞いておるのか!?』
「俺らからも報告するが、アランからも森の様子を伝えてくれ。その方が確かな情報だからな。実は、前回も『領主館に寄るように伝えてください』と言われていたんだが、すっかり忘れててよ。それがユーファ様にバレちまってさ。めちゃくちゃ怒られたんだよな。わっはっは」
『いいことをしているじゃないか。このマルコとやらは』
「ふふっ。ユーファ様が怒ったら怖いからねー。ちゃんと行くから安心してよ」
「ああ、そうしてくれ。もう二度と怒られたくねえからな」
伝言を伝えてすっきりしたマルコは大笑いし軽く手を上げ門番業務へと戻っていく。そんな後ろ姿を見送りつつ、アランも
目指しているギルドはアランが入った門の逆側にあり、市場を通る必要があったのだ。また、半月ぶりに街へやってきたアランであるので、市場で珍しい品物を探したいとも思っており、ゆっくり屋台を覗きながら冒険者ギルドへと向かう。
『こりゃアラン! なんで儂の言う事を聞かんのじゃ!』
先ほどのアランとマルコの会話の内容が気に食わなかったユーファが突然実体化すると、アランの肩に乗って睨みつけてきた。こうして実体化するだけで魔力を消費するため、普段は剣の中にいるレーヴァだが、今回は納得がいかず実体化して文句を言うつもりのようだ。
「だってユーファ様に伝えなきゃ。あんな森の浅い場所で魔猪と出会うなんて普通じゃないもん」
『儂があっさりと倒したんじゃからよいじゃろうが!』
「そんな訳にはいかないって。あの森は冒険者登録した新人さんとか、街の人も採取に行ったりするんだよ」
市場のど真ん中で突然レーヴァが実体化したのだが、この街の住人たちには珍しくない光景であった。普段は姿を見せないレーヴァだが、今回のようにたまに姿を見せてはアランとやりあっており、その現場を何度も見ているからだ。
ただ、この街にやってきたばかりの移住者たちはギョッとした表情を浮かべており、指をさしている者もいたが、屋台の者達がアランやレーヴァの事を説明すると、物珍しい視線を投げかけていた。
レーヴァを剣に住んでいる精霊だと思っているのかもしれない。さすがは勇者様が住む街だ。そんな声も聞こえてくる。
『ギルドに報告するのであろう? 奴らに任せておけばいいじゃろうが』
「もう。諦めなって。ユーファ様への報告は決まりだよ」
そんな周囲の状況など気にすらしていないレーヴァは、納得がいかないようでアランへ愚痴を吐き続けている。そんな言葉を右から左に流しつつ、アランは自身の腰に視線を向ける。そこにはレーヴァが鈍く激しく点滅している姿があった。これは怒っているのではく、すねている状態だなとアランは素直に謝る。
「ごめんって。ギルドには報告義務があるからしかたないよ。あと、領主であるユーファ様には伝えておかないと。今後の対策をギルドと詰めてもらいたいしね。それに呼ばれているんだから」
『ふんっ。好きにするがよいわ』
「あ! こんな季節にブドウがあるよ。レーヴァ好きだったよね」
『なぬ。ブドウじゃと!?』
すでに旬が過ぎているのはずだが、大量に山積みとなっているブドウを見て目を輝かせ始めた。そんなアランとレーヴァの声と視線に気付いた店主が笑いながら話してくる。
「おう、アランじゃねえか。実はな遠くの街からブドウを持って来た商人がいてな。アイテムボックス持ちだから買ってやったんだよ。アレは時間の経過が無いからな。だから鮮度と味は保証するぜ」
「だったら二盛りもらおうかな」
「まいど! ほら、レーヴァさんにもひと房プレゼントだ。なにを怒っているのか知らねえが機嫌を直してくれよ」
『おお、よい心がけじゃ店主よ。褒めてつかわすぞ』
「へへ。そりゃどうも」
店主からブドウを受け取ったレーヴァはご機嫌になり、さっそく大きく口を開けかじりつく。皮ごと食べれる品種で糖度も高かったようで、ブドウの美味しさにレーヴァは満足げな表情を浮かべ次々と口へと放り込んでいく。
そんなレーヴァの姿を見てアランは店主に感謝の視線を送った。
「ありがとう。また、帰りにも寄るから残しておいてね」
「もちろんだぜ。あと、宣伝ありがたいぜ」
「宣伝?」
店主の声にアランが周囲を見渡すと、レーヴァの食いつきの良さは人目を引いたようで、屋台には人だかりが出来ていた。
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いから後でね」
「おう! ちゃんと残しておくから忘れずに来てくれよ。へい、いらっしゃい! このブドウはあの魔剣の精霊であるレーヴァさんも気に入られた逸品だぜ。味は保証付きだと思ってくれ!」
周囲の客に試食を進めながら、店主がブドウの販売を始める。商魂たくましい店主に苦笑を浮かべ、アランは果物の屋台から離れると違う店も回りはじめた。
ちょうど切らしている素材が見つかり、アランは大量に購入して背負子へとしまうと、ご機嫌になっていた。
レーヴァも好物のブドウが食べられ機嫌を直したのか、アランの肩に乗ったまま足をブラブラとさせ楽しそうな表情を浮かべている。
しばらく市場を巡っていたアラン達だったが、当初の予定を思い出し改めてギルドへと足を運ぶ。
『相変わらずボロい建物じゃのぅ』
「そんなこと言わないの」
ギルドの前に到着したレーヴァが建物を見上げ
そんな扉を押しながらアランはレーヴァを
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