第94話 肉食女子疑惑

 オーク集落への攻撃は、俺たち『ひるがお』に任された。

 俺たちは集落が見える位置まで接近した。

 フレイア団長たち聖サラマンダー騎士団の面々は、俺たちから少し離れた位置で見学だ。


 俺たちは息をひそめ、大木の影からオークの集落をのぞき見る。

 森の中に現れた広いスペース。

 土がむき出しの広場といった感じの場所に、掘っ立て小屋が乱雑に立っている。

 二百のオークが寝っ転がったり座ったりしている。


 臭いが凄い。

 風がなくても臭ってくる。


 戦闘指揮をとるシスター・エレナが、広場の中央を指さした。


「あの立派な兜をかぶっているのが、オークジェネラルですね」


 シスター・エレナが指さす先は、一際体格の大きいオークがいた。

 体色はダークグレー。

 下顎から天に向かって突き出た太い牙。

 目の色は赤く凶悪そうな顔をしている。


 オークジェネラルは、金属製の兜と鎧を身につけて防御は固そうだ。

 装備の質感からして鉄製だろう。

 しかし――。


(ソフィーの雷魔法には、絶好の的だ……)


 金属は電気を通しやすい。

 さらにオークジェネラルのかぶる金属製の兜は、長い角がついている。

 避雷針を頭の上にのせているのと同じで、『撃って下さい』といわんばかりだ。


「美味しそうですね♪」


「おお……オークさん……美味しそう♪ 」


「ソフィーちゃん。カツにしましょうか?」


「ソフィー! カツ好き!」


 俺はオークジェネラルを倒す方法を考えていたが、シスター・エレナとソフィーは食べることを考えていた。


 アシュリーさんとマリンさんは、シスター・エレナとソフィーの様子を見て苦笑い。

 振り向くと聖サラマンダー騎士団の面々が、『こいつら正気か!?』といわんばかりの顔をしていた。


 すまんな。

 俺たちにとってオークは食材なんだ。

 トンカツに豚汁に大活躍!

 疲労回復! 元気もりもりの優れた食材なのだ。


 俺は軽く咳払い。


「ゴホン! では、シスター・エレナ。戦闘指揮をお願いします」


「はい。お任せください。うふふ♪ みなさん、今日はお肉祭りですよ♪ 最初はソフィーちゃんの広範囲魔法『ドーン!』を放ちましょう。あのオークジェネラルを中心にお願いしますね」


「わかった! ソフィーがんばる! むむむ……」


 早速ソフィーが集中を始めた。

 魔法の杖――現代日本のおもちゃなのだが――を両手で持ちウンウンうなっている。


「ソフィーちゃんに続いて、アシュリーさんはストーンショットで範囲攻撃をお願いします」


「わかった」


「マリンさんは、水壁で防御をこちらにオークを近づけないでください」


「承知しました」


「私とリョージさんは、全体攻撃が終ったら突撃でーす♪ 撃ち漏らしを片付けましょう♪」


「了解!」


「さあ、みなさん! お肉祭りの始まりですよー♪」


 いつにも増してご機嫌なシスター・エレナである。


 ――肉食女子疑惑は深まった。

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