第95話 雷魔法どーん!

「ソフィーちゃん。あの角のついた兜のオークめがけて、雷魔法です♪」


 シスター・エレナの指揮で戦闘が始まった。

 まず、オープニングはソフィーの雷魔法だ。


 ソフィーはウンウンうなって集中をしていたが、雷魔法を放つ準備が整ったようだ。

 手にした魔法の杖――日本製のおもちゃ――が、バチバチと放電している。

 ソフィーの目は金色の輝きを増し、全身から黄金のオーラが立ち上がる。


 ソフィーが魔法の杖をサッとかざした。

 魔力の残滓が金色のきらめきを残す。


 オークジェネラルがハッとした表情でこちらを見た。

 ソフィーの魔力を感知したのか、それとも嫌な予感がしたのか……。

 オークジェネラルの表情に焦りが見え、立ち上がった。


 だが!

 もう!

 遅い!


 ソフィーが叫ぶ。


「どーん!」


 カッ!

 ドドーン!


 凄まじい稲光。

 目の前が白くなると同時に物凄い轟音が一帯に響いた。


 後ろに控える聖サラマンダー騎士団の面々から悲鳴が聞こえる。


「うわっ!」


「なっ!? 何が!? 耳がおかしい!?」


「目が! 目が!」


「落ち着け! うろたえるな!」


 フレイル団長の叱咤が聞こえてきた。


 雷魔法の使い手は珍しい。

 さらに、今ソフィーが放った範囲攻撃魔法の使い手はさらに希少だ。

 聖サラマンダー騎士団の連中も初めて見たのだろう。

 驚き動揺している。


 だが、俺たち『ひるがお』はソフィーの雷魔法に慣れている。

 動揺はない。


 シスター・エレナが、いつもと変わらぬニコニコ笑顔で指示を出す。


「はい。ソフィーちゃん、お疲れ様でした~。魔力回復でお休みでーす」


「ふうう……。ソフィーがんばった!」


 ソフィーは額の汗を袖でぬぐう。

 俺はすぐにソフィーを褒める。


「偉いぞ! ソフィー! 凄い魔法だったぞ! ほら! オークジェネラルが黒焦げだ!」


「えっへん!」


 ソフィーの雷魔法は、オークの集落の中央にいたオークジェネラルを直撃した。

 哀れオークジェネラルは、立ったまま黒焦げになり、トンカツになる運命である。


 そしてオークの集落もヒドイ有様だ。


 木製の掘っ立て小屋は燃え。

 集落の中央近くにいたオークは全て黒焦げになっている。

 集落外縁部に生き残ったオークが見えるが、恐らく五十はいまい。


 ソフィーは雷魔法『どーん!』の一撃で百五十ほどのオーク軍団を屠ったのだ。

 上昇したソフィーの強力な魔力とコントロールの成せる技である。


 聖サラマンダー騎士団のフレイル団長が声を絞り出した。


「これほどとは……、これほどの雷魔法……、初めて見た……。何という威力だ!」


 俺は振り返り誇らしい気持ちでニコッとフレイルさんに微笑む。

 そう。ソフィーの魔法は名前こそ子供らしくかわいいが、威力は凶悪なのだ。


 アシュリーさんとマリンさんの魔法指導に、ソフィーの才能とやる気。

 そして毎日ダンジョンに潜る修練の日々が、ソフィーの魔法を恐ろしいほどの高みに押し上げた。


 魔力切れでぶっ倒れたソフィーを抱きかかえて、急いでダンジョンから撤退したこともあった。

 魔法のコントロールに思い悩むソフィーを励まそうとして、逆に怒られたこともあった。

 ソフィーは本当に努力したのだ。


 そして……今!

 ここサイドクリークの町で一番の魔法使いは、ソフィーだ!

 俺の娘だ!



 さて、生き残ったオークは感電したダメージがあるようで動きが鈍い。

 膝をついているオークもいる。


 ――チャンスだ。


 このチャンスに肉食女子のシスター・エレナが黙っているわけがない。


「さあ、残りのオークも食材に変えてしまいましょう♪ アシュリーさん、左の方へストーンショットをお願いしまーす♪」


 俺たちから見て左の方が生き残ったオークが多い。

 シスター・エレナは、敵の厚みのあるところへ魔法を放てとアシュリーさんに指示を下した。


 アシュリーさんが、気合いの入った声で応える


「わかった! ストーンショット!」


 アシュリーさんの放ったストーンショットは、大量の石礫を放つ魔法だ。

 さらにアシュリーさんは、俺のアドバイスを聞いて石礫を弾丸状にしている。


 アシュリーさんは、聖サラマンダー騎士団が見ているので気合いが入っている。

 いつもより石礫の量が多いし、スピードも早い。


 オークの悲鳴が上がる。


「ブヒー!」

「ブフゥー!」

「ヒフー!」


 石の弾丸を大量に浴び、左手にいたオークがバタバタと倒れた。

 一撃で五匹!

 ダンジョンなら魔法一発で魔物の集団を撃破したことになる。


「凄いです! もう一丁♪」


「ストーンショット!」


 さらにもう一撃!

 今度は八匹倒れた。


 左側のオークの密度は薄くなり、スカスカだ。


「ブフウ!」

「ブー!」

「ブォー!」


 右前方から、生き残りオークが三匹突撃してきた。

 シスター・エレナは、すぐに指示を出す。


「マリンさーん。右に水壁をお願いしまーす♪」


「了解ですわ!」


 マリンさんは手に持った杖をサッと振るう。

 するとオークの眼前にぶ厚い水壁が現れた。

 オークは水壁に激突し跳ね返された。


「ブモー!」


 元気なオークが立ち上がり水壁に体当たりをかますが、水壁はまるで意思があるようにオークを押し返す。

 マリンさんの精緻な魔法コントロールで、水壁は柔軟に動く。

 右側で水壁とオークの相撲が始まった。


 右側が膠着したのを確認して、シスター・エレナが俺を誘う。


「さあ、リョージさん。私たちの出番ですよー! 左側に! 突撃でーす♪ お肉ターイム♪」


 俺とシスター・エレナは、左側のオークへ向かってダッシュした。

 肉食のお誘いありがとうございました!

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