第92話 オークの集落
俺たち威力偵察隊は、魔の森に踏み込んだ。
魔の森は巨木が立ち並び視界が悪い。
木々が太陽の光を遮り、昼でも薄暗い。
不気味である。
魔の森に入ってしばらく、真っ直ぐ歩く。
十分ほど歩いたが魔物と遭遇していない。
スタンピードになると魔物が増殖し、大集団で人に襲いかかるというが、本当にスタンピードが起るのだろうか?
そんな風に考えてしまうほど、魔の森の中は静かだった。
俺は先頭を歩いていたが、特に何も異常を感じなかった。
振り返って、フレイル団長に指示を仰ぐ。
「魔物はいませんね。どうしますか? このまま真っ直ぐ進みますか?」
「ふむ……。強い気配は、森の奥の方から感じるが……。ハインリッヒ、探ってくれ」
「承知しました。お任せを」
フレイルさんが、聖サラマンダー騎士団の男性に探れと指示した。
後方にいた白いローブを着た男性が俺の前へ出てくる。
ハインリッヒさんだ。
きれいにそろえた髪とヒゲ。
三十才くらいだろう。
なかなかダンディー男性だ。
ハインリッヒさんは、手にした長い杖を掲げると風魔法を発動した。
ハインリッヒさんの杖からそよ風が森の奥へ向かって吹き出した。
ソフィーが不思議がる。
「あれ? 風が戻ってきたよ?」
本当だ!
そよ風が森の奥から吹いてきた。
ハインリッヒさんは、杖をかざす方向を変え、そよ風をコントロールした。
右、左とそよ風が吹いては、戻ってくる。
俺は戻ってきた風の中に嫌な臭いを感じた。
「なんか獣臭いな……」
俺のつぶやきをフレイルさんが拾う。
「ハインリッヒは、風魔法で魔物の位置を探るのだ。この臭いはオークの臭いだ。いるぞ……」
俺たちは、じっと息をひそめる。
ハインリッヒさんは、杖の方向を調整して、オークの正確な位置を探っている。
やがて十時の方向へ真っ直ぐ腕を伸ばした。
「フレイル団長。左斜め前方、この方向にオークの集団がいます。それほど遠くない距離でしょう。臭いからしてかなりの数です。恐らく百を超えます」
ハインリッヒさんの風魔法のコントロールは凄い!
左にいるということは、風が運んでくる臭いで俺もわかるのだが、正確な方向はわからない。
数は臭いの強さで判断しているのだろう。
「凄い……」
後ろからつぶやきが聞こえた。
振り向くとアシュリーさんが、両手をギュッと握って感動していた。
マリンさんも、ほうっとため息をついている。
「こんな風魔法の使い方があるとは知りませんでした。微細なコントロールが出来るから、実現する技ですわ……」
魔法の指導役を務める二人が感動していることでも、ハインリッヒさんが凄腕だとわかる。
さすが聖サラマンダー騎士団!
「よし! ハインリッヒが示した方向へ進むぞ!」
「了解!」
俺が引き続き先頭を引き受ける。
森の中を十分ほど歩く。
木々の間からオークの集落が見えた。
(いた!)
俺は手を上げて隊列を止める。
振り返り口元に指をあて全員を黙らせてから前方を指さす。
そっとフレイルさんが前へ進む。
俺も木々の間からオークの集落を観察する。
掘っ立て小屋……。
たき火……。
地べたに寝転んでいるオーク……。
座り込んで何かしているオーク……。
俺の位置からでは、木が邪魔して全体を見ることは出来ない。
それでもかなりの数のオークがウロウロしているのが見えた。
(森の入り口から、かなり近いよな……。ヤバイよな……)
フレイル団長が戻ってきて、ハンドサインで『後退』を指示した。
俺たちは音を立てないように、そっと後退した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます