第87話 朝食に加わるフレイル団長

 ――翌朝。


 教会の自室でソフィーと朝食をとっていると、ドアがノックされた。


「どうぞ」


「お邪魔するよ」


 聖サラマンダー騎士団のフレイル団長である。

 まだ早朝だが寝ぼけた様子は全くなく、キリッとした美人のお姉さんである。


 フレイルさんは、俺とソフィーに挨拶をするとすぐに用件を切り出した。


「リョージ殿。今日の予定を確認に来た。よろしいか?」


「ええ。朝ご飯を食べながらになりますが、どうぞ!」


「では、失礼する。ムッ? 見かけない食事だなぁ……」


 フレイルさんの目がテーブルの上に釘付けになった。

 俺とソフィーは箸を止め、顔を見合わせた。


 フレイルさんは、ジーッとテーブルの上の料理を見ているのだ。


「リョージ殿。これは……?」


 フレイルさんが朝食メニューの説明を求めてくる。

 なんだろう?

 圧が凄い……。


 俺は淡々と説明を始めた。


「これはハムエッグです。卵とハムを焼いた料理です」


「上にかかっている液体は?」


「私のハムエッグにかかっているのは醤油という調味料です。ソフィーの方はケチャップという調味料です。どちらも私の故郷の調味料です」


「ほう! このスープは?」


「味噌汁です。味噌という調味料を湯に溶いて作ります。具は色々バリエーションがあるのですが、今日の具は昆布という海藻と豆腐という豆が材料の食材です。これも私の故郷の料理です」


「ふむふむ! それで二人が手にしている食器に盛られた白い食べ物は?」


「これはごはんです。米という穀物を炊いて作るのです」


「ふうううむ! 珍しい料理だな……。いやあ、美味しそうだ! 良いな~! 家族一緒に朝食か! ソフィーちゃん、お父さんと一緒で良いな~!」


「えへへ! ソフィー幸せ!」


 フレイルさんは、ソフィーに話を振りつつも、目は料理に釘付けだ。

 これは『私にも食べさせろ』と催促をされているのだろうか?


 俺は空気を読んだ。


「あの……フレイルさんも召し上がりますか?」


「本当か! ご馳走になろう! いやあ、悪いなぁ!」


 いや、明らかに催促していたよ!

 フレイルさんも案外食いしん坊なんだな。


 普段はキリッとした美人のお姉さんで聖サラマンダー騎士団の団長だが、案外子供っぽいところがある。

 俺は微笑ましく思った。


 俺は教会の厨房に向かい残っていたごはん、味噌汁を椀によそって、手早くハムエッグを作った。


「お待たせしました。ハムエッグには、お好きな調味料をどうぞ」


「私もソフィーちゃんのケチャップが良いぞ♪」


 フレイルさんはルンルンである。

 本当に子供みたいだな。

 俺はニコニコ笑いながら、ソフィーにケチャップを頼んだ。


「じゃあ、ソフィー。ケチャップのかけ方を、フレイルさんに教えてあげてね」


「うん! フレイルおねえちゃん。ケチャップはね。こうするんだよ!」


 ソフィーがケチャップの容器を逆さにして軽く絞る。

 フレイルさんは、ケチャップがチュルンと絞り出される様子をワクワクした様子で見ていた。


「おお! これは楽しいな!」


「楽しいよ! こうしてお星様を書いたり出来るよ!」


「私もやるぞ!」


 ソフィーとフレイルさんは、かわるがわるケチャップでお絵かきをした。


「ほら、ソフィーもフレイルさんも料理が冷めちゃうから早く食べよう」


「はい!」


「うむ! そうだな! 温かいウチにいただこう!」


 食事再開である。

 フレイルさんはスプーンを使って、ハムエッグ、ごはん、味噌汁を口に運んでゆく。


「おう! このケチャップは美味しいな! ごはんも美味しいし、味噌汁も味わいがある!」


「気に入っていただけたようで何よりです」


「美味しいぞ! 美味しいぞ!」


 フレイルさんは、パクパクと健康的に食事をする。

 簡単な食事だが作った甲斐があるというものだ。

 元気にごはんを食べる女性は素敵だね。


「ふう~ご馳走になった!」


「おとーさん! 美味しかった!」


 俺は娘が二人になったような気分でニコニコ笑顔だった。

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