第86話 オークは肉!~Cum On Feel The Noize

 ――夜。


 酒は完売した。

 今日は精霊の宿に泊まる冒険者だけでなく、聖サラマンダー騎士団の団員たちも買ってくれた。

 酒は多めに仕入れているのだが、あっという間になくなってしまった。

 移動販売車の発注端末で、さらに多くの酒を発注しておいた。


 俺とソフィーは、教会の中庭にあるガーデンチェアでお夜食である。

 ソフィーはクリームパンをもしゃもしゃと食べ、俺はカツサンドをパクつく。

 忙しかったが、商品が売れることは良いことだ。

 活気があって最高!


 俺もソフィーも疲れてはいるが、充実感のある疲れである。


 ただ、俺の心の中には、ちょっとした引っかかりがある。

 昼間の聖サラマンダー騎士団のフレイル団長との会話だ。


 聖サラマンダー騎士団の密命――スタンピードが激しく手に負えない時は、俺を守って撤退する。


 フレイル団長は、ソフィーも守ってくれると約束したので、申し出を受け入れたが……。

 何か今ひとつスッキリしない。


「よう、リョージ。どうした? しけたツラしやがって!」


「おう。ガイウス。お疲れ」


 我が友、冒険者ガイウスだ。

 ストロング系缶チューハイを片手に、ノッシノッシと歩いてきた。


「ガイウスのおじちゃん!」


「よう、ソフィーちゃん! 今日もお手伝いか? 偉いぞ!」


「エヘヘ」


 ガイウスがわっしわっしとソフィーの頭を撫でながら、ガーデンチェアに座り、テーブルに缶チューハイを置く。


「で、どうした?」


「ん? ああ、まあな」


「何だよ? あれか? 聖サラマンダー騎士団の連中ともめたか?」


「いや、騎士団とは上手くやってるよ。酒や食い物を買ってくれるし、良いお客さんだ。それに、この町を守りに来てくれたんだ。感謝している」


「ああ、そうだな。何と言っても、精霊教会最強の騎士団だからな。これでスタンピードが来ても安心つーもんよ!」


 ガイウスは缶チューハイをグビリと飲んだ。


「で、どうした?」


「あー、実はな――」


 俺は聖サラマンダー騎士団のフレイル団長との話をガイウスに聞かせた。

 俺が話し終えるとガイウスは首をひねった。


「それで何を気にしているんだ?」


「自分だけ特別扱いされているのが居心地悪いんだ」


「あー! リョージは、なんつーか……真面目なところがあるからな! 固く考えるなよ。ソフィーちゃんと一緒に守ってもらえてお得! ぐらいに考えとけ!」


「お得って……。ガイウス、オマエなぁ~」


「リョージは気にしすぎだ。スタンピードと戦う前に逃げるって話じゃねえだろう? 戦っていよいよヤバかったら、リョージとソフィーちゃんが聖サラマンダー騎士団と一緒にずらかるってことだ」


「まあ、そうだ」


「だったら戦うことに違いはねえ! そんなことをグダグダ考えるよりも戦って勝つことを考えろよ! オメエも前に出るんだぞ!」


「あー、はい」


 俺はガイウスと話している間にスッキリした。

 確かにガイウスの言う通りだ。

 俺も前に出て魔物と戦う。

 全力で戦った結果、スタンピードの勢いが強ければ撤退もやむなし……ただ、それだけのことだと考えよう。


 俺は残っていたカツサンドにかぶりついた。


「なあ、ガイウス」


「あ?」


「ありがとう」


「ケッ! バカ野郎! シャキッとしろってんだ!」


 ガイウスは缶チューハイをゴクゴクと喉を鳴らして飲む。

 飲み終わると声をひそめた。


「スタンピードは間違いなく起るぞ。今日、森の奥でオークジェネラルが目撃された」


「オークジェネラル!? オークの上位種だな?」


「ああ、面倒なのは大量のオークを指揮する能力があることだ」


「だからジェネラル……。将軍と呼ばれるのか……」


「ひょっとしたらオークキングがいるかもしれねえ……。そうするとスタンピードで襲いかかってくるオークの数は千をくだらねえだろうな。下手こくと万を超える……」


「オークが一万!」


 物凄い数の暴力だ。

 巨体のオーク軍団が唸りを上げて迫る姿を想像して、俺は身震いした。


 黙って聞いていたソフィーが口を開いた。


「おとーさん」


「ん?」


「オークが一万いたら、ソフィーたちで食べきれないね」


 俺とガイウスは、ソフィーの言葉にポカンとした。

 ソフィーは続ける。


「オークのお肉がいっぱい。町の人みんなで食べても余っちゃうかな? うーん。そしたら冒険者ギルドに買ってもらって、いっぱいお金が入るね! オーク早く来ないかな!」


 ソフィーはオークを『食肉』としか思っていない。

 恐怖の対象ではないのだ。

 きっとソフィーの頭の中では、ブロック肉がドドドドドと走ってくるようなモノなのだろう。


 俺とガイウスは、腹を抱えて笑いだした。


「クッ……クク……ソフィー……ハハハ!」


「ガハハ! こりゃ参ったぜ! 一番の大物はソフィーちゃんだな!」


「んん? ソフィー何かおかしいこと言った? オークはお肉だよ! 美味しいよ!」


「ああ、そうだな。お肉だよ」


「違えねえ。あいつらは肉だ!」


 俺たち三人は獰猛な笑みを浮かべた。

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