第71話 オレ流ダンジョン攻略法
朝、まだ薄暗い中を移動販売車でダンジョンへ向かう。
ヘッドライトに照らされた道路を、事故を起こさないようにゆっくり走らせる。
歩いている冒険者を何組か追い越し、ダンジョンへ到着。
ダンジョンの入り口前に一旦移動販売車を止めて、車外に降りる。
洞窟の高さを確認すると、移動販売車が通り抜けられる高さがあった。
運転席に戻るとソフィーが、くりくりした目で聞いてくる。
「おとーさん。どう? 入れそう?」
「うん。乗ったまま行けるよ」
「おお! すごい!」
俺はゆっくりと洞窟に移動販売車を進める。
シスターエレナがクスリと笑った。
「冒険者のみなさんがビックリしそうですね!」
「この移動販売車を見たことがない人もいるでしょうからね!」
一階層に到着した。
まだ朝早いが露店が並び冒険者がテントから出て来て支度をしている。
「うわっ!」
「えっ!?」
「なにアレ!?」
寝起きの冒険者が上半身裸で移動販売車を呆然と見る。
露店の親父さんが目を大きく開いて口をパクパクする。
「「「どうも~」」」
ちょっと楽しい光景に、俺たちは手を振り先へ進む。
移動販売車は、一階層の転移陣まで来た。
俺が何をしようとしているのか、シスターエレナが気付き驚きの声を上げる。
「リョージさん! まさか!?」
「はい。移動販売車に乗ったまま転移を試してみようと思います」
ダンジョンの転移陣は大きいサイズなので、移動販売車が乗りそうなのだ。
俺は移動販売車を徐行させて、転移陣の上に移動させる。
窓から上半身を出して、後ろが入りきるか確認をしながら進む。
「おっ! 入ったぞ! 三階層へ転移!」
転移陣が光った!
移動販売車が乗っていてもオーケーだ!
一瞬で一階層から三階層へ移動した。
「よし! じゃあ、行きますか!」
俺はアクセルを踏み移動販売車を軽快に走らせた。
「ソフィー! 四階層の転移陣へ向かう! スマートフォンで地図を見てくれ!」
「まっすぐで大丈夫だよ!」
「了解!」
道はないが、草原は平らな地面なので移動販売車は難無く走行している。
「グギャギャ!」
「グギャ! グギャ!」
「リョージさん! ゴブリンです!」
シスターエレナが、俺に注意喚起する。
進行方向に二匹のゴブリンが現れた。
だが、俺はアクセルを緩めない。
「リョ、リョージさん! このままでは!」
「シスターエレナ! いてまえですよ!」
移動販売車は『ブオー!』とエンジン音を響かせて、ゴブリンに突撃する。
「グギャギャギャ?」
「グギャ?」
ゴブリンは迫り来る移動販売車を見ても、これから何が起こるかわからないようで首をひねっている。
俺はアクセルを強く踏んだ。
加速する移動販売車。
ゴブリンに近づく!
「「グギャー!」」
移動販売車の結界が、ゴブリンを弾き飛ばした!
ソフィーが両手を上げて驚く。
「おお! ゴブリンをやっつけた!」
「万能! 優秀!」
俺は胸を張り移動販売車を走らせる。
シスターエレナが助手席の窓から後ろを見る。
「リョージさん。ゴブリンの魔石の回収は?」
「いや、大してお金にならないから放っておきましょう。それより、ガイウスに言われた通り下の階層を目指しましょう」
ガイウスのコーチは昨日でお終いだ。
今日、ガイウスは自分の冒険者パーティー『豪腕』で活動している。
シスターエレナが、梅干しを口に突っ込まれたような酸っぱい顔をした。
「ええ……、まあ……、私は構わないですが……」
ソフィーの魔法コントロールが改善されたので、もう、ここ三階層階のゴブリン君に用はないのだ。
「ねえ! おとうーさん! じゃあさ! ガイウスのおじちゃんがいる所まで、行こうよ!」
「おっ! ナイスアイデア! 行ってみよう!」
「私は知らないですよ~」
俺たちは、次々と魔物を跳ね飛ばし、次々と転移陣に乗って下へ下へと進んだ。
ダンジョンに入って五時間が経過した。
時計は十一時。
俺たちは十五階層を走っている。
「おとーさん! いた!」
「おお! ガイウスだ!」
プー! プー!
クラクションを鳴らすとガイウスが振り向き、目と口を大きく開けて驚いている。
俺とソフィーは手を振りながら笑った。
「キャハハ! ガイウスのおじちゃん! ビックリしてる!」
「ふふ! そうだね!」
「オマエら!? なぜ、ここにいる!?」
ガイウスが驚き固まっているので、俺は運転席から身を乗り出して説明する。
「この車ごと転移陣に乗って移動したんだよ」
「いや! 待て! 魔物はよ!?」
「この車で弾き飛ばした」
「五階層と十階層にボス部屋があっただろう!? ボスを倒さなきゃ先に進めないだろう!?」
「この車で何度も弾き飛ばして倒した」
「何度も!?」
「そう。ボス部屋の中を走り回って、何度も弾き飛ばした」
ボスのハズなのに必死で逃げるんだよな。
大きなゴブリンが顔を引きつらせて逃げたり、色違いのオークが涙目で走ったりして、いや、もう、気の毒だった。
「どうだ! ガイウス! 追いついたぞ!」
「そうじゃねえ! そういうことじゃねえんだよ! 戦闘経験を積んで下りて来いよ!」
どうも俺はガイウスの言葉を勘違いしたようだ。
ガイウスにコッテリ搾られてしまった。
まあ、でも、ダンジョンの攻略方法がわかったから、グッジョブ!
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