第69話 お父さん道は厳しい!
俺たちは、ダンジョンの三階層へ到着した。
二階層は俺の野球スイングが猛威を振るいホーンラビットを連続場外ホームランにした。
ホーンラビットは遠くへ飛んで行ってしまったので、ホーンラビットの肉、毛皮、角は手に入らなかったが、そもそも戦闘経験を積むのが目的だ。
お金のことは、とりあえずヨシとした。
ゴロを打つダウンスイングも試したのだが、ダウンスイングはホーンラビットにかわされてしまい不発。
やはり飛距離重視のホームランスイングが最強との結論を得た。
さて、三階層である。
魔物はゴブリンが二匹登場。
手に棍棒を持ったゴブリンとナイフを持ったゴブリンがペアだ。
俺は棍棒を持ったゴブリンを相手取り、シスターエレナがナイフを持ったゴブリンを相手取る。
この組み合わせは教官ガイウスの指示だ。
リーチのある棍棒ゴブリンを俺が抑え、リーチの短いナイフゴブリンをシスターエレナが抑える。
そして、俺もシスターエレナもゴブリンを倒すことを禁じられ、俺は棍棒で、シスターエレナは杖でゴブリンを突いて距離を取るだけなのだ。
「そうだ! 突き放せ! 後衛に近づけるな! 倒さなくて大丈夫だ!」
戦闘は長く続き、ガイウスの声が響く。
俺は呼吸を整えながら、ゴブリンの胸を突き、ゴブリンを突き放す。
「ふうぅぅ! ヨイショ!」
ゴブリンは弱いので、倒そうと思えばすぐに倒せる。
だが、このフロアでは集団戦闘の訓練をしているのだ。
前衛が魔物の動きを抑えて、後衛が遠距離攻撃で仕留める。
まず、このパターンを習得しろ! というガイウスの教えだ
体力的には問題ないのだが、戦闘時間が長くなると精神的に疲れてくる。
多分、この精神的な疲れ、集中を持続させることも訓練の一環なのだろう。
そしてガイウスのもう一つの狙いは――。
「ビリビリ!」
「んまあぁ!」
ソフィーの雷魔法ビリビリである。
また誤爆して俺にヒットした。
威力を弱めているので硬直するのは一瞬だが、何せ電気が体内に走るのだ。
痛いし精神的にもキツイ!
ガイウスの狙いは、ソフィーの魔法攻撃の精度アップだ。
魔法は精神状態に左右されるらしい。
安全な訓練場で制止した的に魔法を命中させられても、実戦ではビビって魔法を放てない新人魔法使いはザラにいるらしい。
殺意を露わに迫り来る魔物の圧。
命がけで戦う仲間の雄叫びと悲鳴。
そして強烈な血の臭いが漂う。
訓練場の練習が無意味というわけではないが、実戦に勝る物はない。
そこで、比較的安全な浅い階層で、弱いゴブリンを相手に集団戦闘の中で魔法を放つ訓練を行っているのだ。
理屈はわかるが、実行する方は大変だ。
俺は雷魔法ビリビリを誤爆されて痛いし、シスターエレナも体力を絞り取られる。
そしてソフィーは、何度も誤爆をするのでへこんでいる。
「ああ! おとーさん! ごめんなさい!」
ソフィーが落ち込んだ声を出す。
俺の胸がチクリと痛む。
「ソフィーちゃん! 大丈夫だ! リョージは、これくらい何てことない! なあ、リョージ! そうだろ?」
おのれ! ガイウス!
ビリビリを連続で受けるとキツイんだぞ!
だが、ソフィーが落ち込んでいる時に、俺が愚痴をこぼすことは出来ない。
俺はソフィーの父親なのだ。
娘の成長のために、踏み台になることを、俺は辞さない。
俺はゴブリンを棍棒で突き放すと、振り向いてソフィーに笑顔を見せた。
「ソフィー! 大丈夫だよ! お父さんはタフだから、これくらい平気だよ!」
「ほんと?」
「ああ、本当だ! お父さんのことは気にしないで、バンバン魔法の練習をするんだ! ソフィーの魔法が上手になったらお父さんも嬉しいよ!」
「うん、わかった!」
ソフィーの課題はコントロールだ。
ガイウスによれば、魔法の発動速度はかなり早く、新人離れしているそうだ。
ただ、遠距離攻撃のコントロールに難があり、広範囲に氷魔法をばらまくのは得意だが、ピンポイントで雷魔法を当てるのは苦手なのだ。
つまり広範囲殲滅は得意だが、単体攻撃は苦手。
魔物との戦いは、冒険者パーティー単位で行われる。
ピンポイントで魔物に攻撃魔法が当てられなければ、誤爆しまくって仲間を傷つけてしまう。
ガイウスとしては、早いうちにソフィーのコントロールを矯正しておきたい。
そこで――。
「ビリビリ!」
「んまあぁ!」
俺が誤爆を受けるのである。
「おとーさん! ごめん!」
「ドンマイだ! ソフィー! 気にしないで続けるんだ! ドーンと来い! お父さんは強いんだぞ!」
俺はソフィーが落ち込まないように、両腕を上げてガンバルポーズをとる。
そうだ! 俺はお父さん! お父さん道は険しく厳しいのだ!
これくらい何てことはないぞ!
「さあ! ソフィー! こーい!」
「ビリビリ!」
「んまあぁ!」
「ビリビリ!」
「んまあぁ!」
ソフィーの誤爆が続くが、俺にはわかる。
少しずつ誤爆する位置がずれているのだ。
最初は背中、次に肩、そして腕と、誤爆する位置が少しずつゴブリンに近づいている。
俺は棍棒を構えながら、精一杯娘にエールを送る。
「いいよ! ソフィー! 凄くイイ! ゴブリンに近づいているよ! もうちょっとだ! ガンバレ! ソフィーなら出来るよ!」
俺が出来ることは、娘を信じて耐えることだ。
ソフィーならきっと出来る!
「さあ! こーい! ソフィー! 撃つんだ!」
「ビリビリ!」
「ギャア!」
ソフィーの魔法がゴブリンに当たった!
ゴブリンが立ったまま痙攣し、バタリと倒れた。
「あっ! やった!」
俺は嬉しさが込み上げ、思わず拳を握りガッツポーズをとった。
ソフィーが、ついにやったのだ!
「リョージ! トドメだ! 連携しろ!」
教官のガイウスが、野太い声で指示を飛ばす。
俺はゴブリンの頭に棍棒を振り下ろした。
ソフィーは、シスターエレナと対するゴブリンにも雷魔法ビリビリをヒットさせた。
誤爆なしだ。
どうやら魔法のコントロールのコツをつかんだらしい。
戦闘が終ると、ソフィーがタタタと駆けてきた。
「おとーさん! 出来たよ! ソフィー出来たよ!」
「ソフィー! 良くやった! 偉いぞ! さすがソフィーだ! 凄いぞ!」
俺は飛び込んできたソフィーを抱きとめ、高く持ち上げた。
やっぱり俺の娘は凄いぞ!
魔法の天才だ!
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