第67話 ケツバット(二階層ホーンラビット戦)
ダンジョンの一階層は、スライムしか出ない平和な階層だった。
小規模の露店が並び、朝食をかき込む冒険者やテントを張って生活の拠点にする冒険者もいた。
俺たち冒険者パーティー『ひるがお』は、一階層にある転移魔法陣にのって二階層へ移動した。
このダンジョンは階層間を、転移魔法陣で移動するそうだ。
二階層も一階層と同じ草原が広がるフィールドで、ところどころ林が見える。
俺、教官のガイウスが前衛、ソフィーとシスターエレナが後衛という隊形で、二階層の探索を開始した。
転移魔法陣から二十メートルほど離れた地点で魔物に遭遇した。
二階層の魔物は、ホーンラビットである。
ウサギ型の魔物だが、体格は大型犬くらいある。
正直、かなり大きく感じる。
ずんぐりとした丸みを帯びた愛らしい体型で、白い毛がモフモフだ。
「ふああぁぁ! うさぎさん! かわいい!」
ソフィーがホーンラビットを見て喜ぶ。
動物園の動物を見たノリである。
確かにかわいい。
大きなぬいぐるみに見えるよな。
俺たちはホーンラビットを見てホッコリした気持ちになったが、戦闘教官として同行しているガイウスが厳しい声を上げる。
「見た目に騙されるなよ! あれで動きは早いし、角の一撃は強烈だぞ!」
「おっ……おう! そうだった! そうだった!」
ふう、危ない、危ない。
ホーンラビットのかわいい外見に騙されるところだった。
俺は気を引き締め、両手で棍棒をグッと握り直す。
「リョージ。パーティーとして戦闘方法は考えてきたか?」
「ああ、ガイウス。宿題はバッチリだ!」
昨日ガイウスに冒険者パーティーとして三人で、どう戦うかを考えておくようにと宿題をもらった。
俺、ソフィー、シスターエレナで、ちゃんと打ち合わせ済みだ。
「よし! そういうことなら、俺は見ている。三人で戦ってみろ!」
「「「了解!」」」
俺たちが練ってきた戦闘パターンは、こうだ!
俺が棍棒で魔物を牽制する。
↓
ソフィーが雷魔法『ビリビリ』で、魔物の動きを止める。
↓
シスターエレナが、杖で魔物を叩いて仕留める。
完璧な流れである!
俺は自信満々で前に出る。
ホーンラビットはノンビリと歩いていたが、俺に気が付くとまっすぐに突っ込んできた。
早い! だが!
「とりゃー!」
俺はまっすぐ棍棒を振り下ろした。
ホーンラビットは、直前で横に動いて俺の棍棒をかわす。
手応えなし!
空振り!
「そりゃ! とりゃ!」
俺は棍棒を振り下ろし続けるが、ことごとくホーンラビットにかわされてしまう。
だが、こうしてホーンラビットを引きつけるのが俺の役割だ。
そろそろソフィーが動く。
「ビリビリ!」
「んあぁ~!」
「おとーさん! ごめんなさい!」
ミス!
雷魔法『ビリビリ』は俺に着弾し、俺は一瞬硬直した。
「次は私です! えーい!」
「んあぁ~!」
そこへ打ち合わせ通りシスターエレナの杖が襲いかった。
シスターエレナが振り回した杖は、俺の尻に直撃!
強烈なケツバットをくらったような衝撃が俺を襲う!
「キャア! リョージさん! ごめんなさい!」
俺はバランスを崩し転倒した。
転倒した俺をホーンラビットのストンピングが襲う。
ホーンラビットは俺のボディにこれでもかと蹴りを見舞ってくる。
幸い革製の胴を身につけているので、致命傷にはならないが地味に痛い。
俺たちの戦いぶりを見かねて、教官のガイウスが介入した。
一刀でホーンラビットを斬り伏せる。
「ふん!」
「キュウ!」
ホーンラビットは、バッタリと倒れた。
「おとーさん! だいじょ-ぶ?」
「リョージさん! ごめんなさい!」
倒れている俺にソフィーとシスターエレナが駆け寄る。
「あいててて……。いや、まあ、これくらいは大丈夫だよ」
シスターエレナにフルスイングされた尻が痛い。
一定の人にはご褒美なのだろうが、俺としては避けたいアクシデントだ。
俺が起き上がると、ガイウスが首を振りながら近づいて来た。
「今の戦闘はダメ! あのな! エレナさんは、目をつぶって杖を振り回さないように!」
「はい! ごめんなさい!」
シスターエレナは、目をつぶって杖を振っていたのか。
そりゃ目標に当たらないよな。
「シスターエレナは、精霊教の学校で戦闘訓練を受けられたと聞いてましたが?」
「ええ……、でも、ホーンラビットがかわいくて……、こんなかわいい魔物との戦闘経験はないのです……」
ダメだな。
ホーンラビットの外見戦略にまんまと引っかかっている。
あれはモフモフのぬいぐるみではない。
凶悪な魔物なのだ。
ガイウスはシスターエレナに注意を与え、ソフィーに移った。
「ソフィーちゃんは、コントロールに気をつけて! あせらないで良いから!」
「わかりまちた!」
ビリビリの誤爆は、地味にキツイ。
我が娘ながら、本当に止めて欲しい。
「それからリョージ! オマエ何やってんだ!」
「いや、ホーンラビットを牽制しようと」
「そうじゃなくて! 冒険者ギルドの訓練場でやったろ? 俺を吹き飛ばしたヤツだよ! 棍棒は縦に振るんじゃなくて、横に振っていただろ?」
「あっ! そうか!」
俺は棍棒を振り下ろしていたが、野球のスイングの要領で横に振った方が自分に合っているのだ。
「わかった! 次は上手くやる!」
早く次のターゲットに移動しよう。
俺は出血してグロイ状態のホーンラビットを、さっとウエストポーチ型のマジックバッグに収納した。
ガイウスがキョロキョロしている。
「あれ? ホーンラビットは?」
「片付けたぞ」
「片付けた?」
「ここに」
俺が自分のウエストポーチを指さすと、ガイウスは眉根を寄せて首をひねった。
「また、何か変なことをやりやがったな……。まあ、イイや! 出発だ!」
俺たちは次のターゲットを見つけるべく、再び歩き出した。
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