第66話 ダンジョンで串焼き(塩)を食べる

 ――翌日。


 俺たち冒険者パーティー『ひるがお』は、初のダンジョン探索に出掛けた。

 朝、薄暗いうちから教会を出発し、サイドクリークの町を出てダンジョンの入り口へ向かう。


 今日のメンバーは、俺、ソフィー、シスターエレナ。

 教官としてガイウスに同行をお願いした。


 サイドクリークの町から魔の森へ伸びる道を四人で歩く。

 陽が昇り薄暗かった世界が、ぱあっと明るくなった。


「えーび♪ らんらん♪ らんらん♪ らんらん♪ らんらん♪」


「らんらん♪ らんらん♪ らんららん♪」


 ソフィーがスキップしながらいつもの歌を歌い、シスターエレナが後ろから歌いながらついて行く。


 俺とガイウスは最後尾を歩く。


「リョージのところは、何というか楽しいパーティーになりそうだな!」


「ああ。楽しいのが一番だ! まあ、ウチはゴリゴリと冒険者で成り上がりたいわけじゃない。魔物との戦闘経験を積んでおきたいだけだ。無理せずやるよ」


「ああ、無理はしねえ方がイイ!」


 ダンジョンまでの道は、土の道だが馬車が二台すれ違えるほどの幅がある。

 この道は、冒険者ギルドと領主ルーク・コーエン子爵がお金を出し合って整備をしたそうだ。

 それだけダンジョンは儲かるのだろう。


「ガイウス。魔物は警戒しなくて大丈夫か?」


「ああ、このあたりは大丈夫だ。もう少し進んだら警戒しよう」


 ガイウスの指導を受けながら、俺たちは歩く。


 サイドクリークの町から三十分ほど歩いた場所に、ダンジョンの入り口があった。

 道の先にこんもりした丘があり、丘の中腹に大きな洞窟がある。

 道は洞窟に続いていた。


「あの洞窟がダンジョンの入り口か?」


「そうだ。中に入って驚くんじゃねえぞ」


 俺、ガイウスが先頭。

 シスターエレナとソフィーが後に続く。

 ダンジョンの入り口は広く、坂になっていた。


「おおおお!」


「わっ!」


 俺とソフィーが驚いて声を上げる。

 とても不思議なのだが、ダンジョンの入り口を抜けると野原だった。

 緑萌える大地が広がっているのだ。


「ガイウス! これはどうなってるんだ!?」


「不思議だろ? 普通に考えりゃ、ここは地下だ。だが、このダンジョンはフィールド型のダンジョンだからな。外と同じように空もあれば、太陽もある」


 ガイウスが空を指さす。

 外と変わらない青い空と白い雲が広がり、陽の光が降り注いでいる。


「なんだか感覚がおかしくなりそうだよ」


「ははは、最初はな。すぐに慣れるさ」


 キョロキョロする俺の背中をガイウスがバシーンと叩いた。


「おとーさん! お店があるよ!」


 トテトテトテとソフィーが走って行く。

 ソフィーの走る先には、屋台があり、美味しそうな匂いを漂わせている。


「えっ!? ダンジョンの中に屋台があるのか!?」


「ああ、ここのダンジョンは入り口が広いからな。荷車を押して入れるから、店を広げて商売する連中もいるぞ」


「へー! 魔物は出ないのか?」


「出るが一階層はスライムだからな。スライムは大人しい。こっちから手を出さなきゃ無害だ」


 屋台は五軒出ていて、スープを売る店や串焼きの店が良い匂いを漂わせていた。

 屋台を見ていると、朝ご飯を屋台で済ます冒険者がいた。

 丸パンに肉を挟んだサンドイッチにかぶりついている。


 テントを張って野営している冒険者グループもいる。


「ガイウス。ここに寝泊まりするのか?」


「ああ、金のない冒険者の中には、ここで野営する連中もいる。まあ、安宿でも良いからベッドで休んだ方が良いけどな。野営じゃ疲れがとれねえよ」


 冒険者も大変なんだなと、俺は改めて思った。


「ガイウスさん。おはようッス!」


「おう!」


「あれ? 新しいメンバーですか?」


「新人の付き添いだ!」


 さすがガイウスは顔である。

 他の冒険者たちが、ガイウスに挨拶して行く。


「おとーさん! ここが美味しそうだよ!」


 おお! ソフィーが俺を呼んでいる!

 何か美味しそうな物を発見したな!


 俺はソフィーに駆け寄る。


 ソフィーが見ていたのは、串焼きの屋台だ。

 串に刺さった肉が、ジュウジュウ音を立てている。

 味付けは豪快に塩のみ。

 なかなか漢らしい屋台だ。


「へい! らっしゃい!」


「オヤジさん! 二本お願いします!」


「あいよ~!」


 俺は串焼きを買って、ソフィーと二人でハフハフとかぶりつく。


「「美味しい~!」」


 すると後ろからガイウスにどやしつけられた!


「オマエら! ダンジョンにメシ食いに来たんじゃねーぞ! 真面目にやれ!」


「ああ、ごめん!」


「怒られちゃった!」


 俺たちの冒険は始まったばかりである!

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