第65話 冒険者パーティーの名前を決める
今日は冒険者パーティーの申請のために、サイドクリークの冒険者ギルドへ来ている。
俺の冒険者パーティーメンバーは、俺、ソフィー、シスターエレナが固定。
シスターエレナは戦闘経験が少ないので、シスターメアリーに実戦経験を増やすように言いつけられたそうだ。
そしてシスターメアリーを始めとする精霊の宿の神官が臨時で加入してくれる。
かなりフレキシブルな編成だ。
俺、ソフィー、シスターエレナ、教官をお願いしているガイウスの四人で冒険者ギルドへ。
受付のモナさんは、ソフィーが冒険者デビューすると知ってニコニコである。
「ソフィーちゃん、良かったね!」
「あい! ソフィーの魔法で魔物をやっつけるの!」
「うふふ。がんばってね! それでリョージさん、パーティーの名前はどうしますか?」
「あっ! 考えてなかった!」
そうか。冒険者パーティーには名前が必要だ。
「俺とソフィーがいるから『親子船』とか?」
「船はどこから出て来たんだ? 内陸のサイドクリークで船はおかしいぞ!」
俺のつぶやきをガイウスがとらえ、すかさずツッコミを入れる。
確かにおかしいよな。鳥羽一郎が歌っていた演歌みたいだし。
俺は受付のモナさんに聞いてみる。
「普通は、どんな名前をつけるのでしょう?」
「強そうな名前やカッコイイ名前が多いですね」
「ああ、『豪腕』や『銀翼の乙女』みたいな」
「そうです」
俺がチラッとガイウスを見ると、ガイウスは胸を反らす。
うん。『豪腕』はガイウスに合っているし、強そうな名前だ。
「冒険者パーティーの名前は、仕事に影響しそうですね」
「ええ。例えばガイウスさんの『豪腕』は強そうで頼りがいのあるイメージの名前ですから、護衛の依頼が多いですね。『銀翼の乙女』は女性パーティーとわかるので、加入希望者が途切れません」
「なるほど。仕事依頼やメンバー集めに影響が出るんですね?」
「それで強そうな名前が多いです。他にも出身地の名前をつけて『サイドクリーク連合』のように地元感のある名前もありますね」
なんか暴走族の名前みたいだな。
そういえば有名なバンドは、東京の多摩市出身で『多摩ネットワーク』にしようとしたと聞いたことがある。
「うーむ、俺、ソフィー、シスターエレナは出身地がバラバラだからなあ。地域の名前をつけるのはなしだ。あっ! 精霊の宿だから、『精霊の誓い』は?」
俺の思いつきにシスターエレナが首を傾げた。
「確か神殿騎士団の冒険者パーティーに、『精霊の誓い』がいたような気がします……」
「あー、確かに精霊を入れると名前がかぶりそうですね」
ううむ。難しいな。
「クリームパン! アイスクリーム!」
ソフィーが冒険者パーティー名の候補を挙げるが、食べたい物、好物の類いだ。
「ソフィーのアイデアもかわいくて良いけど、食べ物の名前だからな」
「ぎゃふん!」
俺はソフィーの頭を撫でる。
ソフィーが一生懸命考えてくれるのが嬉しいのだ。
なかなか名前が決まらず見かねたモナさんが口を挟んだ。
「パーティーリーダーの名前も多いですよ。『ジョンのパーティー』とか、『ケインと強力な仲間』とか」
「ううむ……それはちょっと……」
ガイウスのように強そうなリーダーだったら、リーダーの名前を冒険者パーティーの名前にするのもアリだけど、俺は平凡なオッサンだからな。
それもオッサン新人冒険者だ。
さすがに俺の名前をパーティー名に冠するのは避けたい。
「シスターエレナは、何かご希望はありますか?」
「私もこういうことは苦手で……。あまり大げさな名前はどうかと思います」
「大げさな名前?」
「暴竜討伐隊とか、最強剣士隊とか。名前と中身が合っていないのは、ちょっとかっこ悪いですね」
ハッタリを効かせようとしたのだろうが、名前倒れになっているケースだな。
「まあ、実績を積んで行けば、名前は後からついてきそうですよね」
「はい。メンバーが愛着を持てる名前が良いです」
「愛着! 大切ですね!」
確かに名前は愛着の持てる名前が良い。
そうなると、俺、ソフィー、シスターエレナに共通する事柄だよね。
何があるかな?
三人で腕を組んで考えていると、ソフィーが何か思いついたらしく頭を上げた。
「おとーさん。歌の名前は?」
「えっ? 歌?」
「そう。おとーさんが、車を運転している時に歌う歌。えーび♪ らんらん♪ らんらん♪ らんらん♪ らんらん♪」
ソフィーが口ずさむのは、クレイジーケンバンドの昼顔だ。
開拓村を回っている時に、車を運転しながらかけていた曲で、三人で口ずさんだ。
「昼顔だよ」
「そう! ひるがお! ひるがおがイイ!」
「あら! 良いですね! 私もひるがおが良いと思います!」
ひるがおか……うん! 良いかもしれない!
あまり強そうじゃないけれど、俺たちは冒険者で成り上がろうというわけじゃない。
自分の身を守る術を得るために、魔物との戦闘経験を積むのが目的だ。
あまりガツガツやる気はないのだ。
優しい印象の名前『ひるがお』は、俺たちに合っているかも!
「モナさん。『ひるがお』はどうでしょう?」
「良いと思いますよ。短くて覚えやすいし、呼びやすいです」
「では、冒険者パーティーの名前は『ひるがお』でお願いします!」
こうして俺たちのパーティー名は『ひるがお』に決まった!
「えーび♪ らんらん♪ らんらん♪ らんらん♪ らんらん♪」
「らんらん♪ らんらん♪ らんららん♪」
ソフィーとシスターエレナが楽しそうに歌い出した。
「リョージたちらしくて良いんじゃねえか?」
「ありがとう。ガイウス」
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