第64話 ソフィー駄駄をこねる

「ソフィー。これは?」


「いや!」


「ソフィーちゃん。これは?」


「いやぁ!」


「ソフィーちゃん。これはよ?」


「いやー!」


 俺、シスターエレナ、ガイウスの三人は頭を抱えた。


 俺たちは武器防具の店に来ている。

 俺とソフィーの装備を買うために来たのだ。


 俺の装備は、ガイウスが相談にのってくれてサクッと決まった。



 ・革の胴:剣道の胴に似た防具だ。背中側も革でカバーされている。


 ・革のブーツ:スネまでガッチリカバーのロングブーツ。


 ・黒いニット帽:魔物の毛で編んだ帽子。ちょっと映画『レオン』っぽい。


 ・トレントの棍棒:植物型魔物の枝を削った棍棒。頑丈。



 ちなみに『棍棒に釘を打たないのか?』とガイウスに聞いたら、『魔物に引っかかって動けなくなるぞ!』と叱られてしまった。

 素人考えで余計なことをしなくて良かった。


 こうして俺の装備が決まり、俺は『なんか異世界っぽい!』と装備を気に入っている。


 しかし、ソフィーは装備が気に入らない。

 シスターエレナに付き添いをお願いして、ソフィーの装備を見てもらったのだがイヤイヤ状態になっている。


 俺、シスターエレナ、ガイウスが勧めても、激しくイヤイヤ。


 ソフィーの装備は、子供用の革のヘルメット、革の胴、革のブーツ、指揮棒のような魔法使い用の杖なのだが何が嫌なのだろうか?

 どれも良い物で『子供用としてはベスト』とガイウスも言っているのだが……。


 俺は不思議に思いソフィーに尋ねる。


「ソフィー。この装備の何が嫌なんだい?」


「かわいくない!」


「「「えっ……!?」」」


 俺はソフィーの意外な返答を聞いて、『ああ、女の子なんだな』とホッコリした。

 しかし、シスターエレナとガイウスは苦り切った顔をしている。


「ソフィーちゃん。装備は魔物と戦うため、身を守るためにあるんですよ。」


「そうだぜ。この装備は新品で子供用としては上等だぞ! この装備なら安心してダンジョンに潜れるっつーもんよ!」


 シスターエレナが優しく諭し、ガイウスが力強く太鼓判を押す。

 俺も何か言わなくては……。


「ソフィーは何を着ても、かわいいよ!」


「おとーさん! そんな言葉でソフィーはごまかされないのです!」


 いかん、失敗した。

 ソフィーは、ぶすっとしている。

 俺の心にダメージが入る。


 シスターエレナとガイウスが俺を店の隅に引っ張って行く。


「リョージさん。ちゃんと説得して下さい!」


「リョージ! オメエなぁ、ノンキなことを言って親馬鹿丸出しじゃねえか! 娘の安全がかかってるんだぞ! ちゃんと言い聞かせろよ!」


「えー! そういうの苦手だな……」


 俺はソフィーのご機嫌を取るのは得意だが、説教するのは苦手なのだ。

 それを親馬鹿というのかもしれないが、放っておいて欲しい。


 シスターエレナとガイウスがジトッと俺を見てくる。

 うっ……圧が……。


 仕方なく俺はソフィーと話し合うために、ソフィーのもとへ戻る。


 どうしようかなと俺は困り、ソフィーの希望を聞いてみることにした。


「ソフィーはどんな装備が良いんだい?」


「あのおねーさんみたいな! 魔法使いの服がいいの!」


 ソフィーが店の外を指さす。


 俺、シスターエレナ、ガイウス、三人が同時に外を見た。

 通りは冒険者パーティーの一団が歩いており、一人の女性がいかにも魔法使いといった装備を身につけていた。

 三角の魔女帽子に、黒いローブ、大きな魔石がはめ込まれた杖を持っていた。


 なるほど。確かに魔法使いっぽいな。

 俺は店員のお姉さんに聞いてみる。


「あちらの魔法使いの女性のような装備はないのでしょうか?」


「子供用はないんですよ……。オーダーメイドで作れないことはないですが、一月から二月かかります」


「うーん、すぐには無理なのか」


「それに長い杖は重いので、子供が持つには負担ですよ」


「そりゃそうですよね」


 ないものはない。仕方がないと俺は思うが、ソフィーは納得しない。


「ヤダ! ヤダ! あのおねーさんみたいな装備がイイ!」


「おおう! ソフィー!」


 これが駄駄をこねるというヤツか……。

 ああ、俺は父親になったんだなと感無量!

 俺が感動に打ち震えていると、ガイウスが俺の肩をチョイチョイとつついた。


「もしもし。リョージさん?」


「見たか! ガイウス! これが親子の愛だ!」


「バカ言ってんじゃねえ! ちゃんとやれ!」


 俺が笑顔を向けると、ガイウスは恐ろしい顔をした。

 うーむ、そう言われても、ソフィーの言い分もわかる。

 ソフィーは魔法使いだ。

 魔法使いらしい装備を求めるのはおかしなことではない。


 そうだ!


 俺は一案を思いつき、膝をついてソフィーと目線を合わす。


「ソフィー。魔法使いの帽子や服を、この装備の上から着るのはどう?」


「上から?」


 移動販売車の発注端末で取り寄せるのだ。

 ハロウィーンの時に子供用の衣装がスーパーに入荷していた。

 確か魔女っぽい衣装もあった。


「そう。お父さんが魔法使いの帽子や服を用意するよ。でも、装備品みたいに防御力はないと思うから、この装備は身につけて欲しいんだ」


「ほんと?」


「うん、本当だ。約束だよ!」


「わかったぁ!」


 ソフィーがぱあっと笑顔になった。

 ふっ……ヤレヤレだぜ!



 *



 ――翌日!


「とりっく、おあ、とりーと!」


 ソフィーの衣装が届いた。

 ライトパープルの三角魔女帽子とマント。

 黒いレースのワンピース。

 人気アニメの主人公が持っているハートや動物のパーツが付いた、やたらキラキラしているスティック。

 マントの留め具がカボチャのお化けになっているのは、ご愛敬だ。


「とりっく、おあ、とりーと!」


 ソフィーのお気に召したようだ。



 ソフィーは、装備品の上からワンピースを着込み、魔女帽子とマントを羽織ってご機嫌だ。

 スティックをブンブン振り回して走り回っている。


『お父さんの国ではね。ハロウィーンという日に、子供たちがこの衣装を着るんだ。そして、トリック・オア・トリート――お菓子をくれないとイタズラするぞ! と言って家を回るんだ』


 ソフィーに衣装の由来を話すと、ソフィーはトリック・オア・トリートというフレーズを覚えてしまった。


「おとーさん! とりっく、おあ、とりーと!」


「はい。ソフィーにお菓子をあげます!」


「やったー! おとーさん! ありがとう!」

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