第五章 冒険者パーティーひるがお
第63話 四番 センター 松井
俺はソフィーと一緒にダンジョンへ行くことにした。
とはいえ、俺は戦闘経験が一回しかない。
そこでガイウスに戦闘教官を依頼した。
しかし――。
「イッチ! ニイ! サン! シー!」
「止めだ! 止めだ! 危なっかしくて見てられねえ!」
ここは冒険者ギルドにある訓練場だ。
俺は剣を振っていたのだが、教官のガイウスに止められてしまった。
「ダメか?」
「いや、ダメとかいうレベルじゃねえな……。さっき言ったろ? 右から左に剣を振り下ろす時は、右足が前! 左足が後ろ! 左足を前に出したら、振り下ろした剣で自分の足を切っちまうぞ!」
「あっ! そうだった! そうだった!」
「槍! ダメ! 弓! ダメ! 剣! ダメ! 素手! ダメ! どうすっかな……」
いろいろな武器を扱ってみたが、どれも向いていないそうだ。
うーん、俺の運動神経は並だと思うのだが、武器なんて扱ったことがない。
剣道や柔道の経験があれば違うのだろうが困ったな。
「なあ、リョージ。ゴブリンと戦ったことがあるって言ってたよな?」
「ああ、あるぞ」
「どうやって戦った?」
「石を投げた」
「投石か! 悪くねえ」
「そうなのか?」
俺は投石なんて邪道、子供だましだと思っていたが、ガイウスの反応を見る限り悪い選択肢ではないようだ。
「投石は立派な戦闘手段だぞ。まあ、与えるダメージはたかが知れているが、魔物に石を投げることで、魔物の意識をそらすことが出来る」
「ほうほう」
「リョージ。あの的に投げてみろ」
「わかった!」
ガイウスが示したのは、木製で人型の的だ。
俺は訓練場の隅に落ちていた小石を拾い上げ、野球のピッチングの要領で的に投げた。
ビュッ! と風切り音がして、ガイウスの髪が揺れる。
俺が投げた小石は木製の的に弾着し、的を木っ端微塵に破壊した。
「――えっ!?」
腕を組んでいたガイウスが、一言漏らしたきり固まっている。
「どうだ? ガイウス? 魔物の気を反らせそうか?」
「いや、なんつーか……。リョージはパワーがあると思っていたが……。そうか……小石を投げれば凶器になるのか……」
「ん?」
ガイウスが何かブツクサつぶやいている。
「オーイ! ガイウス! しっかりしてくれ!」
「ああ、スマン! スマン! 投石はリョージの武器になる。小石を集めとけ。孤児院のガキどもに小遣いやって集めてもらえよ」
「おお! そうするよ!」
どうやら投石は合格点をもらえたらしい!
銀級冒険者のガイウスが『武器になる』と言うのだ。
俺の投石は通用するのだろう。
俺はちょっと自信を持てた。
ガイウスは訓練場の隅にあるカゴに近づいた。
カゴには訓練用の木剣や木の槍が沢山刺さっている。
ガイウスはカゴの中から、太い棒を引き抜いた。
「リョージはパワーがある。これどうだ?」
「棍棒?」
「そうだ。棍棒、槌、斧、モーニングスター、ウォーハンマー、バトルアックスなんかは、力はあるが、器用さがないヤツに向いている。試してみろよ」
「ふむ……」
ガイウスから棍棒を受け取る。
棍棒は野球のバットみたいで、手元は細く先端は太い。
目の詰まった堅い木を使っているのだろう、木製だがズシリと重い。
俺は棍棒を両手で握り、軽く野球のスイングをしてみた。
ブンと空気を押しのける重い音がした。
棍棒は重いはずなのだが、俺の体は謎強化されているので、棍棒の重さに振り回されることはない。
二回、三回と軽く振ってみる。
良い感じだ。
「良さそうだな?」
「ああ、一番シックリくる」
「ヨシ! じゃあ、俺が盾を構えているから攻撃してみろ!」
ガイウスが、木製の大楯をどっしりと構えた。
俺は棍棒を握って集中する。
「四番。センター。松井」
「今のは何だ……?」
「すまん。おまじないだ」
つい口から出てしまった。
改めて構えてから……フルスイング!
グワシャッとトラックが激突したようなヤバイ音がした。
手に伝わる感触は場外を確信させる。
「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ああ! ガイウスゥゥゥゥゥゥ!」
俺の棍棒はガイウスが構えた大楯を破壊し、ガイウスは空高く舞い上がってしまった。
ホームラン狙いのアッパースイングが徒になったか……。
ガイウスは星になった。
ありがとうガイウス。
君のことは忘れないよ。
「これでヨシ! 俺の武器は棍棒に決まりだ!」
こうして俺は無事に新たな戦闘手段を得た。
ガイウスを回収しに行ったら、冒険者ギルド近所の家の屋根に突き刺さっていた。
さすがガイウス! 頑丈な男だ!
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