第57話 魔改造! ごっつあんです!
――翌日の午後。
俺はソフィーと一緒に移動販売車の荷台――店舗部分に入った。
電気をつけて車内を明るくすると、車内には商品がぎっしり詰まっている。
昨日、俺は移動販売車に積んであるスマートフォンを開封し、バッテリーをセットした後、レジのところに放置しておいた。
放置しておいたスマートフォンは二つ。
黒いスマートフォンとピンクのスマートフォンだ。
格安キャリアの格安アジア製スマートフォンだが、動画や写真を撮る分には困らない。
そもそも移動販売車に何でスマートフォンが置いてあるかというと、格安キャリアの親会社が俺の会社に出資しているのだ。
上の方からスーパーでも販売しろと無茶な命令が下りてきたのだが、現場ではすこぶる評判が悪かった。
開通手続きを電話でするハメになり、店長を始め社員は研修に参加させられた。
値段が安いのでおじいちゃんやおばあちゃん相手に、そこそこ売れているのだが、手続きが面倒な上に、スマートフォンの使い方がわからないとスーパーにやって来る。
若い店員は、機械に詳しいだろうとおじいちゃんやおばあちゃんに捕まってしまう。
あまり旨味のない商品なのだ。
俺も店長に頼まれた。
『米櫃さん。形だけで良いから移動販売車にもスマホを積んどいてください。上に聞かれた時に積んでないとうるさいので……』
サラリーマンとは悲しい生き物である。
上役の顔色をうかがわなければならない。
俺としても、年下の店長に頭を下げられては断れないので、移動販売車の隅っこに黒とピンクのスマートフォンを二つ積んでいた。
不良在庫だったスマートフォンだが、思わぬところで役に立った。
俺はCMに出演している女優さんを思い浮かべ、心の中で『ありがとう!』と感謝した。
さて、一晩放置したスマートフォンである。
俺はスマートフォンの画面を見て感嘆する。
(あっ! やっぱりか! 凄いぞ!)
なんとバッテリーがフル充電になっていた。
予想はしていたけれど、やっぱり驚く。
移動販売車と同じで、バッテリーが謎のオートチャージなのだ。
俺のスマートフォンも謎のオートチャージだったから、ひょっとして同じ仕様かなと思っていた。
「おとーさん。それがスマートフォン?」
ソフィーは俺が手に持つスマートフォンに興味津々だ。
「そうだよ。はい、ピンクはソフィーにあげるよ」
「やったー! おとーさん! 大好き! ありがとう!」
ソフィーに抱きつかれて、俺はデレデレである。
いや、これで良いのだ。
きっと思春期になると『お父さん嫌い!』と言われるのだろうから、今のうちに思いっきりデレデレしておくのだ。
ソフィーに動画の撮り方を教えると、すぐにマスターした。
子供はゲームとかスマートフォンとか、未知の道具でもすぐに使えるようになる。
きっと頭が柔軟なのだろう。
ソフィーは楽しそうにスマートフォンで撮影をしては、再生して画面を見ている。
「外で動画を撮ってくるね!」
ソフィーが、タタタ! と元気よく外へ駆けていった。
さて、ソフィーがスマートフォンをなくさないように、何か小さなバッグをあげよう。
俺は雑貨コーナーに足を運ぶ。
雑貨コーナーは、果物ナイフやティーシャツなどが置いてある。
衣類はカゴに立ててあり、アンダーウェアが多く、ステテコ、モモヒキなどお年寄り向けのラインナップだ。
俺はガサゴソとカゴをあさる。
確かここに入っていたと思うが……あった!
俺はグレーのナイロン製ウエストポーチを引っ張り出した。
色やデザインは、ちょっとダサイが実用性はあるから良いだろう。
俺はウエストポーチのジッパーを開けて、スマートフォンや財布を入れてどれくらい荷物が入るかサイズを確認しようとした。
「えっ!?」
すると、ウエストポーチの口に俺のスマートフォンがシュッと飲み込まれてしまった。
「どうなってるんだ!? これ!?」
俺はウエストポーチの口に手を入れた。
すると頭の中に情報が流れ込んできた。
入っているのは、スマートフォンが一つだと。
そして収納できる容量がトラック十台分の大きさだと、なぜかわかった。
俺はアゴに手を置いてちょっと考えてから、缶コーヒーを次々とウエストポーチに放り込んだ。
一つ、二つ、三つ、四つ……缶コーヒーは次々とウエストポーチに収納された。
「これは……マジックバッグってヤツか!」
冒険者のガイウスから聞いたことがある。
マジックバッグは、見た目以上に荷物が入る魔導具で、結構なお値段がするらしい。
ガイウスたちも一つ持っていると言っていた。
俺は雑貨コーナーの商品が詰まったカゴを、大急ぎであさる。
すると、ナイロン製のリュックサックとエコバッグが出て来た。
俺はリュックサックとエコバッグの口に手を突っ込む
リュックサックはトラック百台分、エコバッグはトラック五十台分の荷物が入るとわかった。
俺はしばらくあんぐりと口を開けて、手にしたリュックサックとエコバッグを眺めた。
「誰か知らないけど、やり過ぎだろ……」
そりゃまあ、嬉しい。非常に嬉しいよ。
マジックバッグという高価な魔導具が三つも手に入って、さらに0時になれば補充されるのだ。
売って良し、使って良しで大変ありがたい。
しかし、こんな滅茶苦茶な改造をしたのは誰だろう?
アリなのか?
「こうなると、他の商品も魔改造されてそうだな……」
考えてみれば、酒、食品、ティーシャツにパワーアップ効果があるのだ。
他の商品も謎にパワーアップしている可能性は高い。
「あっ! まさか!」
俺は急いでレジに戻る。
レジ台の下に手を突っ込み、発注端末を手に取る。
発注端末は、厚めのタブレットPCだ。
落としても壊れないように頑丈に作られている。
俺は発注端末の電源を入れて、専用のタッチペンで画面を操作する。
ひょっとしたら、この発注端末で発注をかけたら、商品が届くのではないだろうか?
俺は画面を操作して、ソフィー用にかわいいデザインの子供用ワンピースと、俺が飲む用にシアトルコーヒー系チェーン店のコーヒーを発注した。
どちらも移動販売車には積んでいない商品だ。
発注ボタンを押すと、画面に見慣れない表示が現れた。
『到着まであと九時間二十分です』
あっ……表示されているのは、0時までの残り時間だ。
0時に商品が届くっぽいな。
ということは、スーパーで取り扱っていた商品は何でも手に入るということなのだろう。
俺は物凄い脱力感に襲われた。
本当に誰だよ。
こんな魔改造をしたのは!
俺がレジでガックリしているとスマートフォンが鳴った!
「えっ!? どういうこと!?」
スマートフォンを見ると、画面には『ソフィー』と書いてある。
俺は恐る恐る画面をタップして電話に出る。
「はい……もしもし……」
「あー! おとーさんの声がする!」
「ソ、ソフィー!? ソフィーなのか!?」
「そーだよー! スマートフォン凄い! おとーさんがいないのに、おとーさんの声がする!」
「ちょっと! 戻ってきて!」
「はーい!」
おいおい! 待てよ! 待ってくれよ!
電話が使えるのか!?
無茶苦茶だろ!
ソフィーが帰ってきたので、何をしたのか聞いた。
結論としては、『あちこちいじっていたら電話がかかった』ということだった。
ああ、そうだな。そうだよな。
子供ってスマホをイタズラするよな。
昔、部下の子供が仕事用の携帯をイタズラして、俺に電話がかかってしまったことがある。
それと全く同じだ。
俺とソフィーのアドレス帳には、お互いの名前が登録されていた。
どうやら持ち主を認識すると勝手に登録するらしい。
さらに地図機能が生きていて、自分の現在地がバッチリわかることが判明した。
「すごい! すごーい!」
多機能スマートフォンにソフィーは大喜びしていたが、俺は頭を抱えてしまった。
誰だよ! 魔改造しまくってるヤツは!
扱いに困るだろうが!
まあ、それでもソフィーと連絡が取りやすくなったので、何かあった時を考えればありがたい機能だ。
子供は迷子になりやすいからな。
最終的に俺は魔改造してくれた何者かに感謝を捧げた。
「魔改造、ごっつあんです!」
ちなみに発注端末で発注した商品は、翌日移動販売車の中に届いていた。
ソフィーはかわいいデザインのワンピースに大喜びだった。
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