第54話 娘の教育に悪い!

 ガイウスが派手な舌打ちをして、銀翼の乙女リーダーのクロエさんをにらんだ。


「オイ! 銀翼の! 声がデケエ! 他のヤツに聞かれたらどうすんだ!」


「むむ……すまん!」


 うん。確かにガイウスの言う通りだ。


 俺の売っている酒やツマミに強化剤に似た効果があるなんて、あまり人に聞かせたくない。

 何せこの世界には強力な権力を持った貴族がいる。


 ここサイドクリークの町の領主ルーク・コーエン子爵は、幸いにも話の分かる人物だが、王様や王様の周辺はどうだかわからない。

 情報の取り扱いは、用心しておきたいところだ。


 ガイウスは、精霊の宿に看板を贈ってくれたように、意外と細やかなところがある。人は見かけによらない典型だ。


「まったくよ……。オメエは昔っから無神経なんだよ! もっと気を使え!」


 ガイウスは、銀翼の乙女のクロエさんに文句を言う。

 クロエさんは痛い所を突かれたのか、唇を突き出しかなりカチンときたようだ。


「むっ! 顔面凶器に言われたくない!」


「うるせえ! 顔は関係ねえだろ!」


「顔面オーク! オークの金玉!」


 二人は口ゲンカを始めた。

 それもかなりきわどい言葉が飛び交っている。

 ああ、ソフィーに聞かせたくない……。


 俺は思わず大声を上げ二人を制止した。


「二人ともそれくらいにしてくれ! それにソフィーがいるんだ。あまり下品なことは言わないでくれ!」


「キャハハ! 面白い! きんたま! たまたま!」


「ソフィー! いけない! 女の子が、そんなことを言ってはいけない! お父さんは悲しい!」


 まったく! 子供はすぐに面白がって真似をする。言葉には気をつけないと。

 やいのやいのと騒いでいると、孤児院の年長組リックとマルテが近づいて来た。


「オイ! オッサン! 騒いでるんじゃねーよ!」


「そーよ! みっともない!」


 俺が叱られてしまった。

 もめるのは嫌なので、『あー、ごめん』と、サラッとスルーする。


 リックとマルテは、遠慮がちにガイウスに近づくと、リックがガイウスに頭を下げた。


「ガイウスさん。稽古をつけてもらいたいのですが、イイッスか?」


 リックは冒険者の見習いとして活動をしている。

 ガイウスの時間がある時に、剣術を教えてもらっているのだ。


 俺に対しては反抗的な態度だけれど、ガイウスに対しては冒険者の先輩として敬意を払っている。

 リックはちゃんとやってるんだなと、俺は安心した。


「おう! 見てやるよ! じゃあ、リョージ、今話した件は……」


「ああ、考えとく」


 ガイウスは、リックとマルテに剣術を教えるために離れていった。


「店主。済まない。騒がせてしまった」


「いえ、大丈夫です。教えて下さってありがとうございます」


「うむ。では、私は宿に戻る。何かあったら声を掛けてくれ。もし、先日払った代金で不足なら追加で支払おう」


「ありがとうございます」

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