第四章 冒険者たち
第51話 リックとマルテとシュークリーム
■―― お知らせ ――■
本日0時に50話人物紹介・組織紹介を更新しています。
今話は、本日二回目の更新です。
商業ギルド長ヤーコフの騒動から二か月が過ぎた。
俺は忙しい日々を過ごしていたのだが、最近やっと一段落しつつある。
サイドクリークの町に商人たちが戻ってきたのだ。
領主のルーク・コーエン子爵が、近隣の町や村へ早馬を出し『商業ギルドがうるさく言わなくなった。普通に取り引きが出来る』と情報を拡散したのだ。
遠い町には、冒険者が伝えに行った。
ギルド長が失脚したと言わないところが、貴族としての気遣いなのだろう。
そんなわけで、俺が移動販売車で行っていた開拓村への移動販売は、元々担当してた商人が戻ってきたので交代をした。
『おとーさんの評判は良かったのに!』
ソフィーは残念がっていたが、俺としてはちょっと忙しすぎるかなと思っていたので丁度良かった。
それに開拓村では焼酎がブームなので、戻ってきた商人たちは俺から焼酎を仕入れてくれることになった。
これで俺は開拓村に行かなくても、チャリチャリとお金を稼げる。
悪くない。
俺は少し時間に余裕が出来たので、昼間はノンビリと精霊の宿の手伝いや孤児院の子供の世話をしている。
孤児院の子供たちは、俺に懐いてくれた。
シスターエレナとソフィーと一緒に小さい子の面倒をみたり、洗濯物を干したりと幸せな日々だ。
だが、問題もある。
年長組の二人が俺を嫌っているのだ。
孤児院の廊下を掃除していると、年長組二人がすれ違いざま俺に文句を言う。
「オッサン! うぜえよ!」
「放っておいて欲しいな!」
十三歳の男の子リックと同い年の女の子マルテだ。
リックもマルテも活発な子供で、冒険者の見習いをやっている。
冒険者ギルドにもちゃんと登録しているのだ。
見習いの仕事は、先輩冒険者パーティーに同行し荷物を運んだり、魔物を解体したりするそうだ。
見習いは冒険者ギルドからお小遣い程度だが同行手当が出て、実地で仕事を覚えられる。
新人冒険者を獲得するために、上手い具合にやるもんだと感心する。
俺が十三歳の頃は、学校へ行って、部活をして、友だちとゲームして、ごはんを食べて寝る生活だった。
リックとマルテは、見習いとはいえちゃんと仕事をしている。
二人とも立派だなと俺は思う。
しかし、俺は二人に嫌われる心当たりがないのだが……。
孤児院の掃除を済ませてシスターエレナに相談すると、シスターエレナは言いづらそうにしながらも教えてくれた。
「リックとマルテは、お金を孤児院に寄付していたのです」
「えっ!?」
「二人は自分が孤児院を支えていると思っていたのでしょう。もちろん、それは嬉しいことなのですが……」
「ははあ……。そうか、後からやって来た俺の存在が面白くないのですね?」
「多分……」
なるほど。二人の気持ちはわかる。
自分たちが頑張って孤児院を支えていた。
そこへ見ず知らずのオッサンがやって来て、あれやこれやと指示して孤児院の経営を改善した。
何か……こう……自分たちの存在、自分たちのやってきたことを否定された気がしたのだろう。
オマケに十三歳といえば反抗期で、大人に突っかかるお年頃だ。
これは仕方がないな。
俺はシスターエレナに微笑む。
「お気になさらないで下さい。時間が経てば、また二人の気持ちに変化があるかもしれません」
「すいません、本当に」
「大丈夫です! シスターエレナが気になさることではありませんよ! それよりお茶にしましょう! お菓子を出しますよ!」
お菓子と聞いてシスターエレナが、ぱあっと笑顔になった。
シスターエレナの憂い顔も素敵だが、笑顔はもっと素敵なのだ。
「おとーさん! お菓子を食べるの?」
お菓子と聞きつけたソフィーもやって来た。
今日は何にしよう?
俺は移動販売車に載っているお菓子を思い浮かべた。
「今日はシュークリームにしよう! ソフィーは食べたことないだろう?」
クリームパンが好きなソフィーなら、きっとシュークリームも気に入るに違いない。
俺が新しいお菓子の名前をあげると、ソフィーは目を輝かせた。
「食べたことない! シューなんとかが食べたい!」
「ヨシヨシ!」
時間は午後三時。
孤児院の仕事は終ったし、精霊の宿の仕事をするまでに、まだちょっと時間がある。
俺は移動販売車からシュークリームを四つ持ちだし、シスターエレナ、ソフィー、シスターメアリーとお茶をすることにした。
場所は、教会の応接室だ。
四人で応接ソファーに座る。
シスターエレナが紅茶を入れてくれた。
「今日の茶葉は『ウルリ』です」
精霊の宿屋の経営が順調な上に本部から支援金が送られてきたそうだ。
教会の財政問題は解決され、喜ばしいことに紅茶を買う余裕が出来た。
紅茶を一口いただくと、苦みの中にほのかな甘味を感じた。
そして、シュークリームをガブリ!
口の中にカスタードクリームの甘さが広がる。
紅茶の苦みとシュークリームの甘さが最高である。
「おほーはん! ほれ! ほいしい!」
おとーさん、これ、美味しい、かな?
ソフィーは口いっぱいにシュークリームを頬張った。
「ソフィー。クリームがついてるぞ」
俺がハンカチを取り出し、ソフィーの頬についたクリームを拭おうとすると、ソフィーが甘えて体を傾ける。
そっとソフィーの頬についたクリームを拭き取った。
「おいしー! おいしー!」
ソフィーは、シュークリームがよほど気に入ったのか、美味しいを連発した。
シスターメアリーとシスターエレナも、目を丸くしている。
「これは美味しいですね!」
「ええ! 紅茶にとてもよくあいますわ!」
「喜んでいただけて、嬉しいです!」
甘味はね。
移動販売車に色々積んであるけど、甘い物を食べすぎるのは健康に悪い。
だから、一気に出さないようにしている。
それと、領主ルーク・コーエン子爵が欲しがるんだよね。
やっとシュークリームに飽きてくれて、今はコーエン子爵のブームはエクレアなのだ。
俺は優しくソフィーに告げる。
「しばらく、シュークリームが食べられるぞ」
「やったー! おとーさん! 大好き!」
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