第48話 間話 移動販売車の検証(主人公視点)

 ヤーコフ騒動が収まってから一週間が過ぎた。

 サイドクリークの町は落ち着きを取り戻し、中央広場の青空市も復活した。

 精霊の宿の経営は好調。


 俺はといえば、朝は精霊の宿の手伝い、昼は移動販売車で開拓村を回り、夕方から精霊の宿で露店を出すという忙しくも安定した生活を送っている。

 もちろん、娘になったソフィーも一緒だ!


 さて、落ち着いたところで、俺は気になっていたことを調べることにした。

 それは移動販売車の補充タイミングだ。


 移動販売車はどれだけ走っても翌日には燃料満タンになり、販売した商品も補充されている。

 移動販売車には、結界もあるし、カーナビも生きているので、不思議機能があるのは今さらで気にしていない。


 だが、燃料や商品が補充されるタイミングは、今後のために知っておきたい。


 俺は冒険者ギルドに依頼して、一晩中移動販売車を見張る冒険者を雇った。

 やって来たのは、若い冒険者五人組だ。


 リーダーのツンツン頭の男の子が、教会の敷地に止まる移動販売車を指さし俺に質問する。


「これは馬車ですか?」


「馬車の一種だね」


「これを一晩中見張るのが仕事ですね? 盗賊に狙われてるんですか?」


「いや、違う。うーん……、警備の仕事じゃないんだ。この車を見ていて欲しい」


「えっ!? ただ見ていれば良いんですか!?」


「そう。何か変化があったらしらせて欲しいんだ」


「はあ……、まあ、やりますけど……」


 リーダーのツンツン君は、『妙な依頼をする人だな……』と不思議がっていた。


 本当は、移動販売車の荷台に乗って見張って欲しい。

 だが、商品が補充されるタイミングで、何が起るかわからない。

 ひょっとしたら人体に悪影響があるかもしれない。

 だから、外から見張ってもらうことにしたのだ。


 俺は教会の自室で娘のソフィーと一緒に眠りについた。



「おとーさん! おとーさん!」


「ん?」


「起きて! おとーさん! 冒険者が呼んでるよ!」


「あっ! そうだ!」


 俺はソフィーに体を揺すられて目を覚ました。

 すっかり熟睡してしまった。


「ソフィーはお部屋で寝ていてね」


「うん」


 ソフィーは大人しくベッドに入った。

 すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。


 俺は急いでパジャマから着替えて、移動販売車に向かった。


 移動販売車の周りで、見張りを頼んだ若い冒険者五人が右往左往している。


「どうした?」


「あっ! リョージさん! こいつ光ったんですよ!」


「光った?」


「はい。さっき俺が見ていたんだけど、こいつが薄らとした光に包まれて、それからピカッと!」


「ふーむ……」


 詳しい話しを聞くと、時間にして数秒だったらしい。

 だが、間違いなく光ったそうだ。


 腕時計を見ると、時間は夜中の十二時十二分。

 俺を呼びに来る時間、俺の着替えと移動を考えると、夜中の十二時に光ったのではないか?


「わかった。ありがとう。ちょっと車を点検してみる」


「気をつけて下さいね……」


 俺は一人で移動販売車の荷台――店舗部分に乗り込んだ。

 すると商品が補充されていた。

 続いて運転席に乗り込む。

 昼間、開拓村を回って減った燃料が満タンになっている。


 確定だな!

 補充の時間は夜中の十二時だ!


 俺は念のため、移動販売車の見張りを若い冒険者たちに頼み部屋へ戻った。


「うーん、むにゃむにゃ……、もう、クリームパンは食べられないよ……」


 ソフィーの寝言だ。

 夢の中でもクリームパンを食べているようだ。

 明日はクリームパンを食べさせなくては。



 *



 ――翌日。


 俺はさらに実験をしてみることにした。

 商品と燃料が、夜中の十二時に補充されることがわかった。


 では、破損をしたらどうなるだろう?

 元に戻るのだろうか?


 俺は移動販売車のボディの目立たない場所にナイフで傷をつけてみた。


 昨晩と同じように若い冒険者たちに見張りを頼んだ。

 冒険者との契約は三日間なのだ。


 自室で寝ていると昨晩と同じようにソフィーに起こされた。

 腕時計を見ると時間は、夜中の十二時五分。


 着替えて移動販売車をチェックすると、俺がボディにつけた傷はきれいさっぱり消えていた。

 若い冒険者たちによると、昨晩と同じように移動販売車が光ったそうだ。


 移動販売車は破損も直る。

 つまり修理いらず。


 俺は移動販売車を与えてくれた何かに感謝をし、部屋へ戻った。


「うーん、むにゃむにゃ……、アイスクリームが美味しい……」


 今夜のソフィーは夢の中でアイスクリームを食べているらしい。

 明日はアイスクリームを食べさせなくては!



 *



 ――さらに翌日!


 俺はまたも実験をしてみることにした。

 商品と燃料は補充される。

 傷は直る。


 では、わざとパーツを外したらどうなるのだろう?


 俺は移動販売車に積んであったジャッキを使って移動販売車を持ち上げ、前輪のタイヤを外してみた。

 タイヤはゴロゴロ転がして、俺の部屋に保管をする。


 さて……どうなるのか……。


 若い冒険者たちに見張りを頼み、自室で眠りにつく。


 昨晩と同じようにソフィーに起こされた。

 時間は昨晩と同じ、夜中の十二時五分だ。


 移動販売車のタイヤは部屋にある。


 着替えて移動販売車の置いてある場所に到着すると、若い冒険者たちが興奮していた。

 リーダーのツンツン君が、俺に告げる。


「リョージさん! 俺たち見たんだよ! この車が光ったら、車輪が現れたんだ!」


 他のメンバーからも様子を聞くと、タイヤがあった場所に光が集まってピカッと光ったら車輪が現れたそうだ。

 魔法使いの女の子が、魔力が集まったのではないかと意見を述べていた。

 真偽はわからないが、魔力を元にしてタイヤを復元した可能性はある。


 移動販売車に近づくと、外したタイヤがバッチリついていた。

 移動販売車を持ち上げていたジャッキを下ろし、ジャッキを元の場所に戻そうとすると、新しいジャッキが保管場所にあった。


 つまり、パーツや装備品が元ある場所にないと、夜中の十二時に補修されるようだ。


「このことは口外しないように! 秘密にしてくれ!」


 俺は冒険者たちに銀貨を握らせ口止めした。

 三日間冒険者を雇ったが、有意義な実験が出来た。

 俺は結果に満足した。


 部屋に戻るとソフィーの寝言が聞こえた。


「うーん、むにゃむにゃ……、新しいお菓子が食べたいよう……」


 俺はクスリと笑って、明日ソフィーに何を食べさせるか考えながら眠りについた。


「お休み、ソフィー」


「おやすみにゃさい……」


■―― 作者より ――■

みなさんは、ソフィーに何を食べさせたいですか?

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