第46話 間話 後始末 商業ギルド本部とシュルツ男爵

 商業ギルド本部の管理官シュルツ男爵は、サイドクリークの町で騒ぎが収まるとすぐに王都へ向かった。


 シュルツ男爵の足は騎竜である。


 騎竜は飼い慣らした二足歩行の魔物で、肉食恐竜に近い外見をしていた。

 騎竜は馬で十日かかる距離を三日で走破する。

 スピードと持久力に優れた生き物である。


 しかし、騎竜は人を襲う魔物であり、野生の騎竜は危険極まりない存在だ。

 では、どうしてシュルツ男爵は騎竜を乗用に出来るかというと、彼の持つ魔法だ。

 シュルツ男爵の持つ魔法はテイム――従属魔法である。

 従属魔法は、自分と相性の良い魔物を従える魔法で、所持者の少ない魔法である。


 シュルツ男爵は騎竜に乗り、一人で王国中を走り回る。

 騎竜の広い背中に専用の鞍を取り付け、荷物を載せ、太陽と風を友に、大地を駆けるのだ。


 騎竜に乗ったシュルツ男爵は、馬車で一月かかる距離を十日で駆け抜け王都へ到着した。

 すぐに商業ギルドのグランドマスターと面会した。


「いやあ、シュルツ男爵。遠いところをありがとうございました」


 グランドマスターは、大柄な年輩の人物で、グランドマスターの執務室にシュルツ男爵を丁重に迎え入れた。

 自ら応接ソファーに案内する。


「いや、管理官として仕事をしただけだ。気遣いは無用」


「商業ギルドとしては、非常に助かります。本当に感謝しています」


「そう言ってもらえると張り合いだな」


 どちらが偉いのかわからない会話だ。


 商業ギルドのグランドマスターは、商業ギルドのトップであるが平民である。

 商業ギルドは国をまたぐ巨大な組織で、引退した大店の店主が各地方の商業ギルド長を務めている。

 地元の世話役、調整役として機能しているのだ。


 商業は商人たちの世界であるが、商売をするのは貴族の領地である。

 当然、税の交渉などで貴族とのやり取りが増える。

 さらに貴族は贅沢品や高級品を買ってくれるお得意様でもある。


 商人にとって貴族は切っても切れない関係なのだ。

 付き合いが増えれば、当然トラブルが起る。


 そこでシュルツ男爵のように血筋が良く、人柄の良い貴族を商業ギルドで雇い入れ、貴族との交渉を任せているのである。


 貴族と商人のトラブルは意外と多く、王国の全土で発生する。

 シュルツ男爵は、東へ西へ、北へ南へと年中忙しく動き回っていた。


 グランドマスターとしては、気分良くシュルツ男爵に働いて貰うために、気を遣いつつも、良いようにこき使っているのである。

 平民として下手に出ながらも、元商人らしく非常に強かなのだ。


 シュルツ男爵は、サイドクリークの商業ギルドで起きたことをグランドマスターに報告し、意見を述べる。


「ゴルガゼ伯爵は問題ない。三男ヤーコフ殿の非を認め、領主のコーエン子爵や精霊教の教会にも謝罪をしていた。おそらく賠償もするだろう。商業ギルドからも同様にした方が良かろう」


「なるほど、おっしゃる通りですな。コーエン子爵閣下と精霊教の教会にまとまった額をお支払いするよう手配いたします。後任人事について、何かご意見はございましょうか?」


「そうだな……。サイドクリークの町は自由闊達。領主のコーエン子爵が独自の商業政策を敷いて発展した町だ。商業ギルド長は、コーエン子爵と足並みを揃えられる人物が良かろう」


「なるほど。貴重なご意見をありがとうございます」


「ところでリョージという人物に心当たりは?」


 グランドマスターは、おや? と思った。

 想定外の人物の名前が、シュルツ男爵の口から飛び出してきた。


「リョージでございますか? いえ、存じません」


「ふむ。サイドクリークで出会った人物だが――」


 シュルツ男爵はリョージについてグランドマスターに話した。

 グランドマスターは、額に右手をあてて、額をこすりながら答える。


「ふうむ……動画……ですか……。そのような道具は見たことも聞いたこともありません……」


「そうか、グランドマスターでも知らぬか。私は実際に見たが驚くべき道具だった。こう……人が動いて話しているのだ! このくらいの板の中で!」


 グランドマスターはシュルツ男爵の説明に困惑する。

 板の中で人が動いて話すというのは、どうにも理解が出来ないのだ。


「リョージなる平民は、娘が人質に取られ、最後にヤーコフ殿たちを鎮圧した人物だ」


「なるほど……。では、賠償金を支払う口実で接触をしてみましょう」


「それが良かろう」


「ところでシュルツ男爵閣下。今度は南でトラブルが起ったのですが……」


「すぐに向かおう!」


「休む時間もなく申し訳ございません」


「なに気にするな! 騎竜とともに走るのは我が喜びだ!」


 シュルツ男爵は、一人旅が大好きなナイスダンディであった。

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