第43話 乱心

 長かった……。

 話し合いがやっと終った。


 領主ルーク・コーエン子爵と商業ギルド本部の管理官シュルツ男爵、ヤーコフの父親ゴルガゼ伯爵の話し合いがやっと終わり、ソフィーたちの救出に移った。

 コーエン子爵たちは馬車に乗り、護衛の騎士を引き連れて商業ギルドへ向かう。


 俺は移動販売車にシスターメアリーと使いに来た若い冒険者を乗せて、まず教会へ向かった。

 教会へ着くと、シスターエレナと冒険者のガイウスたちが教会の前で待っていた。


 真っ青な顔をしたシスターエレナが移動販売車に駆け寄って来る。


「リョージさん! シスターメアリー!」


「シスターエレナ! 事情は聞きました。今、領主様たちが商業ギルドへ向かっています」


「領主様が!?」


「ええ。ヤーコフの父親ゴルガゼ伯爵と商業ギルド本部のシュルツ男爵も一緒です」


「じゃ、じゃあ……」


「ええ。無事に解決するでしょう。一緒に商業ギルドへ向かいましょう!」


 シスターエレナは、腰が抜けたようでへなへなとその場に座ってしまった。

 若い冒険者とシスターメアリーが手を貸し、移動販売車に乗せる。


 俺はガイウスたち護衛の冒険者に声を掛けた。


「念のためにガイウスたちも商業ギルドへ来てくれるか?」


「ああ! もちろんだ! 俺たちは走って行くから、リョージたちは先に行ってろ!」


 移動販売車を走らせている間に、シスターメアリーがシスターエレナに状況説明をする。


「ほっとしました」


「シスターエレナ。ごめんなさいね。一人で心細かったでしょう?」


「はい。本当にどうしようかと思いました」


 チラリと見ると、シスターエレナの顔に血色が戻っている。

 気持ちはわかる。

 俺も誘拐と聞いた時は、どうして良いかわからなかった。


 商業ギルドに着くと、人だかりが出来ていた。

 少し離れたところに移動販売車を止めて、人だかりをかき分けて商業ギルドに近づく。


 領主ルーク・コーエン子爵の家紋入りの馬車。

 ゴルガゼ伯爵の家紋入りの馬車。

 そして、商業ギルドの旗が掲げられた管理官シュルツ男爵の馬車。


 多分、高級車が三台並んでいる感じなのだろう。

 集まった人たちは、物珍しそうに馬車を遠巻きに見ている。


 商業ギルドの入り口に騎士が二人警備に立ち、商業ギルドへの立ち入りを制限していた。

 シスターメアリーが騎士に近づき声をかける。


「騎士様、お役目ご苦労様です。精霊教教会のシスターメアリーです。中で捕らわれているのは、わたくしどもの孤児院の子供です。中に入りたいのですが、よろしいでしょうか?」


「領主様に確認しますのでお待ち下さい」


 騎士が商業ギルドに入ってすぐ中からバタバタと足音が聞こえてきた。

 何事だろうか?


 扉が開き領主ルーク・コーエン子爵が顔を出した。

 額に汗をかき切迫している。


 嫌な感じがする。

 俺は胃袋をギューッとつかまれたような痛みを感じた。


「大変だ! ヤーコフが乱心した!」


「「「えっ!?」」」


「子供に刃物を突き付けている! ゴルガゼ伯爵の言うことを聞かないんだ!」


「なんですって!?」


 血の気が一気に引いた。

 刃物を突き付けて……ソフィーは大丈夫だろうか……。

 俺は唇が震えるのを感じた。


「中に……中に入れて下さい!」


「ああ、みんな入ってくれ! 最後は力尽くで取り押さえなければ……」


 俺たちは、コーエン子爵に案内されて商業ギルドの中に入った。

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