第40話 動画を領主に見せてみた
――翌日の午後。
俺とシスターメアリーは、領主屋敷の応接室で領主ルーク・コーエン子爵と面会した。
俺がスマートフォンで昨日の証拠映像を見せる。
『貴様のような生意気な平民は、痛い目にあわせてやる! ヤレ!』
商業ギルド長ヤーコフが俺にチンピラたちをけしかけるところ、前後の経緯もバッチリ録画されている。
スマートフォンの動画と移動販売車のドラレコ動画を見せ、シスターメアリーが証言をしてくれた。
コーエン子爵は、ふうっと息を吐きソファーに深く身を沈めた。
「これはちょっとね……。リョージ君は災難だったね」
「幸い体が丈夫で怪我をしませんでした。この動画はヤーコフを排除する証拠になるでしょうか?」
「そうだね……」
コーエン子爵は、アゴに手をやってしばらく考えた。
「ヤーコフをこの町から追い出す材料の一つにはなるよね。ヤーコフは商業ギルドの権限を乱用して無理な金集めをした。そして住民にも領主である僕にも愛想を尽かされた。そして、教会の客人であるリョージ君に乱暴を働いた。商業ギルド本部の人間が聞いたら、さぞ怒るだろうね。ただ……」
「ただ?」
「ヤーコフは貴族なんだ」
「確か……貴族家の三男でしたね?」
「そう。リョージ君は平民でしょう? もし、リョージ君が貴族だったら大問題になるけれど、貴族と平民の場合は問題にならない。罪には問えないんだ」
「身分差ですか! うーん……なるほど……」
まいったな。
俺は現代日本の感覚で、単純に『被害者と加害者』と考えた。
だが、身分制度のあるこの世界では、『貴族と平民』の身分で考えられてしまうのか……。
俺はスッキリしない気持ちを抱えながらも、頭で理解をする。
「ただ、リョージ君の場合は平民とはいえ、教会に大いに貢献しているからね。教会に押しかけて、教会の客人に乱暴した。これは重い」
「……」
「それにこの動画というのを見るとショックだよね。どんなに言いつくろっても印象は悪いよ」
そうか、動画には一定の意味があるんだ。
俺は動画を撮ったことが無駄にならなかったとホッとする。
「そろそろ商業ギルド本部の職員が、この町に着くんだ。この動画を見せたいのだけど、どうかな?」
「ええ、お願いします! では、商業ギルド本部の職員が来ればヤーコフは?」
「王都の商業ギルド本部から管理官が来るからね。管理官は商業ギルドで不正が行われていないかチェックするのが仕事なんだ。間違いなくヤーコフは立場を失うよ」
俺は少しスッキリした気持ちになった。
俺への暴行が罰せられないのは、モヤッとするが……。
ヤーコフがいなくなってくれるなら、俺の作戦通りだ!
「ねえ、ところでリョージ君は何者? リョージ君の乗っている馬車といい、この動画といい、僕は見たことも聞いたこともないよ」
領主ルーク・コーエン子爵は、サラッと聞いてきた。
恐らく不思議だから質問しているだけだ。
俺はどうしようかと考えたが、コーエン子爵は好感の持てる人物だ。
俺が迷い人だと打ち明けても、俺を悪用するようなことはないだろう。
「実は私は迷い人でして、違う世界から来たのです。私の乗る移動販売車も、その動画が映るスマートフォンも違う世界の物なのです」
コーエン子爵は、一瞬驚いて細い目を見開いたが、すぐにいつも通りの落ち着いた表情に戻った。
「なるほど。リョージ君は迷い人だったのか! それなら納得だよ! 何か困ったことがあったら、力になるから言ってね。いや、リョージ君が僕の力になってくれてるから逆かな?」
「いえいえ。何かお願いすることもあると思いますので、よしなにお願いします」
和やかな雰囲気になった。
俺としては、コーエン子爵と良い関係を築けたと思っている。
これからも、この貴族らしからぬ親しみやすい人物と仲良くしていきたい。
「失礼致します!」
ドアをノックして、慌ただしく執事さんが入って来た。
執事さんの顔色が悪い。
何かあったのだろうか?
「たった今、孤児院から使いが来て! 孤児院の子供がさらわれたと言付かりました!」
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