第37話 マナ温泉

 エモラ村での商売は二時間で終了した。

 大きな利益は出ないけれど、村人たちはみんな笑顔で『ありがとう!』と俺たちに感謝をしてくれた。


(ああ、なんか商売の原点があるよね!)


 俺は店を片付けながら充実感に浸った。

 シスターエレナも村人たちの慰問を終え戻ってきたので、そろそろ出発というところに村長さんがやって来た。


「いや~ありがとう! リョージさんとソフィーちゃんのおかげで塩が届いたし、酒もあるのでみんな満足してるよ! シスターエレナもありがとうございました!」


「そうですか! 喜んでもらえて嬉しいです!」


「ソフィー、また、来るね!」


「精霊様のお導きです」


 村長さんの言葉に、俺たちも笑顔になる。


「あんたら時間はあるかい? よかったら温泉に入っていかないか?」


「えっ!? 温泉があるんですか!?」


 村長さんの言葉に、俺はガッツリ食いついた。

 温泉!? マジで!?


 俺のがっつきぶりにシスターエレナとソフィーが驚いている。

 だが、温泉と聞けば日本人の血が騒ぐ。

 異世界で温泉に出会えたとなれば、平静でいられるわけもない。


「村長さん! 本当ですか!? 温泉があるんですか!?」


 俺の勢いに村長さんが顔を引きつらせてあとずさった。


「お……おう。あるよ~温泉。そこまっすぐ行って、右に曲がってダーッと行くと大きな建物があるから。そこが温泉だ。ゆっくり入ってけよ」


「ありがとうございます! お言葉に甘えて、温泉にたっぷりつからせていただきます!」


 俺はビシッと気をつけをして、気合いを入れて頭を下げた。


 シャンプー、ボディーシャンプー、バスタオルなどお風呂セットを買い物カゴに入れて温泉へゴー!


 ソフィーが俺を見てニコッと笑う。


「リョージが張り切ってる!」


「張り切るよ! 温泉だからね!」


「温泉てなに?」


「温泉は自然にお湯が湧き出るお風呂だよ」


「お風呂?」


 ソフィーは風呂を知らないらしい。

 キョトンとしている。


「お風呂というのは、お湯で体をきれいにするところだよ」


「クリーンじゃだめなの?」


「チ! チ! チ! クリーンとはひと味もふた味も違うんだ。温かいお風呂に入ると、リラックスして幸せな気持ちになるんだよ」


「?」


 ソフィーは俺から温泉の説明を聞いたがピンとこないらしい。

 まあ、入ってみればわかる!


「ふふ、リョージさんは、よほど温泉がお好きなんですね!」


 シスターエレナが、好意的に笑う。


「ええ。そりゃもう。私の国では温泉が沢山あって、みんな温泉に入るために旅をするのです」


「まあ! そうなんですか! それでは開拓村を巡るのは楽しみですね。他の開拓村にも温泉があると思いますよ」


「本当ですか!?」


 これは嬉しいニュースだ。

 シスターエレナによれば、温泉は魔の森の地中にあるマナが産み出しているそうだ。

 だから、魔の森に隣接する開拓村では、温泉が湧いていることが多いらしい。


「何と素晴らしい!」


 開拓村を訪問しながら温泉巡り!

 楽しみが増えたぞ!


 温泉は簡素な木造の建物で、石を積んだ浴槽に、丸太を積んだ壁があるだけの野趣のある施設だった。


 温泉につかると、自然に声が漏れる。


「うあ……ああ……あ~!」


 しみるなぁ~。

 湯は白く濁った湯だ。

 登別温泉や別府温泉と同じだな。


 丁度良い湯加減で、本当に気持ちが良い。

 クリーンだけでは落ちない心身の疲れが湯に溶けてゆく。


「はあ……」


 俺は頭を空っぽにして温泉を堪能した。


 隣の女湯からソフィーとシスターエレナの声が聞こえてくる。


「シスターエレナのおっぱい大きい!」


「ソフィーちゃん。おっぱいを触ってはいけませんよ」


 ああ。温泉は良い。

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