第35話 シマコーさん、ありがとう
目的地の開拓村エモラ村が近づくと農地が増えてきた。
道の左右に小麦畑が続いている。
金色の絨毯が続いているようで、とても美しい。
ゴッホとか、モネとか、印象派の画家が描いたような風景に俺はため息をつく。
「美しい……」
俺のつぶやきをシスターエレナが拾う。
「冬まき小麦の収穫が近いですからね。この村は今年豊作のようです」
「それは大変良いですね!」
「ぐーぐー」
俺は相槌を打ち、ソフィーはイビキで相槌を打った。
俺はゆっくり車を運転しながら、これから訪れる開拓村について思いついたことをシスターエレナに聞く。
「開拓村といっても森のど真ん中にあるわけじゃないんですね?」
俺はうっそうとした森の中に開拓村があるのだと思っていた。
木こりの家のイメージで、村のすぐそばに木が立っているような場所を思い浮かべていたのだ。
だが、こうして開拓村に近づくと、意外と開けた場所に立地していて畑も広々としている。
俺の疑問にシスターエレナは答える。
「ええ。魔の森といっても、ずっと森が続くわけではないのです。川もありますし、開けた場所もありますし、魔物が少ない場所や弱い魔物しか出ない場所もあります」
「なるほど。そういった場所を選んで開拓村を作るのですね」
「そうです。それでも町から離れているから不便はあるでしょうし、最初に開拓する時は木も切り倒すでしょうから、なかなか大変だそうですよ」
「あー、それは苦労しそうですね」
シスターエレナと和やかに話しながら移動販売車を運転すると、いよいよ目的の開拓村に到着し、ソフィーも目を覚ました。
開拓村は木製の背の高い柵に囲まれていて逆茂木もある。
なるほど、これならゴブリンくらいの魔物の襲撃を防げそうだ。
村の入り口には木製の門があって、年老いた男が長い棒を抱えて門番をしていた。
若い男は畑仕事で、門番は年寄りの仕事ということだろう。
「おお! なんじゃ!? こりゃ!?」
門番の老人が、俺たちの乗る移動販売車を見て腰を抜かす。
俺は門番の老人の近くで移動販売車を止めた。
窓から顔を出し、営業スマイルでお声がけさせていただく。
「どうも! こんにちは! 領主様から依頼を受けた商人のリョージです。こちらは精霊教のシスターエレナ。それから助手のソフィーです」
「「こんにちは!」」
「あんれまあ! ようやく商人が来たか! ちょっい待ち! 村長を呼んでくらあ!」
門番の老人は、木製の門から村の中へ向かった。
しばらくして、農民にしては身なりが良い四十歳くらいの男性が門番の老人と一緒にやって来た。
「エモラ村村長のダリムだ。やあ、よく来てくれたね! 商人が来なくて困っていたんだよ!」
「ええ。それで領主様から『塩が足りないだろうから、エモラ村へ行ってきてくれ』と頼まれたんです。これが塩販売の許可書です」
俺は『領主様は優しくて皆さんの味方ですよ~!』とさり気なく宣伝する。
「おお! 間違いない! 塩の許可書だ! 塩がなくなりそうで困っていたんだよ。さすがご領主様だ!」
ふふふ。領主に好印象。
宣伝活動は効果を上げているぞ。
では、さらに宣伝しよう。
良い宣伝が終ったら、悪い宣伝だ。
「あー! やっぱり塩が不足していたか~! いやね、前にこの村に来ていた商人がいたでしょう?」
「おう。ミルズさんだな」
「そうそう。そのミルズさんはね。商業ギルド長のヤーコフって人から、金を払えってうるさく言われて嫌気が差したらしいよ。それで他の町に移動してしまったそうだ」
「え~! ミルズさんは、良い人だったのになぁ……」
「いやぁ、残念ですよねぇ~。商業ギルド長のヤーコフが余計なことをしなければ……」
「全くだ! そのヤーコフってヤツがミルズさんに意地悪したんだな! トンデモねえ野郎だ!」
村長はプリプリと怒りだし、門番の老人も顔をしかめブツクサと文句を言う。
俺は村長に相槌を打つ。
「本当ですよね! 困りますよね!」
片方を上げて、片方を落とす。
これは日本の会社で俺がやられたのだ。
島○作を気取って社内派閥に組みしなかった結果である。
しかし、こんなところで苦い経験が役に立つとは思わなかった。
こうして俺は、商業ギルド長ヤーコフが孤立するように立ち回るのであった。
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