第34話 シスターメアリーの正体
俺、ソフィー、シスターエレナの三人は、移動販売車に乗り開拓村へ向かった。
最初の目的地は、エモラ村だ。
移動販売車のカーナビでは、サイドクリークの町を出て北西にある。
道路は土を固めただけの狭い道で、移動販売車が通るのがやっとだ。
俺はゆっくりと安全運転をしながら、シスターエレナに礼を述べる。
「シスターエレナ。お付き合いをいただき、ありがとうございます」
「お安いご用ですわ。リョージさんには、教会がお世話になっていますから。精霊の宿の経営が上手くいって、本当に助かっているのです」
今回の作戦――開拓村を回る――にあたって、教会責任者のシスターメアリーは、シスターエレナを同行させた。
シスターメアリーは教会の責任者なので、教会を空けるわけにはいかない。
精霊の宿は、孤児たちの手伝いもあり人手は足りている。
そこで、若手のシスターエレナが俺に同行する判断になった。
それで……、ちょっと俺は困ってしまった。
シスターエレナは見た感じ二十歳くらいのお嬢さんで、何を話せば良いのか……。
移動販売車で移動をしている間、ずっと無言なのは気詰まりである。
ソフィーに期待していたのだが、ソフィーは早々にウツラウツラと船を漕いでしまった。
これが会社の部下やお取引先の若手社員なら話を振りやすいのだが、異世界の若い聖職者なんて何を話せば良いのだろう?
散々考えたあげく、俺は教会の責任者シスターメアリーを話題に選んだ。
「あの……、シスターメアリーは優しそうな方ですが、意外と強いところがありますね。ほら、商業ギルド長ヤーコフに一歩も引かなかったでしょう? あれには驚きました」
俺が話を振ると、シスターエレナは乗って来てくれた。
代わり映えしない景色に退屈していたのかもしれない。
「ええ。シスターメアリーはお強い方です。若い頃は教会騎士団で活躍されていました」
「えっ!? 教会騎士団!?」
俺はシスターメアリーの意外な過去に、素で驚いてしまった。
シスターエレナを見ると、俺のリアクションを見てクスクス笑っている。
「意外ですよね? 今のシスターメアリーは穏やかな教会長ですから。でも、若い時は教会騎士団の一員として魔物退治に従事されたそうですよ」
「へ……、へぇ~、そうなんですねぇ~。やはり回復魔法の使い手は一人でも多い方が良いのですかねぇ~?」
「いえ。シスターメアリーは、モンクとして最前線で拳を振るわれたそうです」
「えっ!? モンク!? 拳を!?」
二度目の衝撃に俺は思わずアクセルから足を外しそうになる。
最前線で拳を振るうって何の冗談だ!?
俺がハテナマーク一杯の顔でシスターエレナを見返すと、シスターエレナは一層楽しそうに笑った。
「聖サラマンダー騎士団のエースだったそうです。炎を宿した拳を振るって、前線で大暴れしたモンクとして教会本部では有名人ですよ」
「ええ~!」
「今のシスターメアリーからは想像つきませんよね!」
「ちょっと待って下さい! じゃあ、昨日の騒ぎで命拾いしたのは、商業ギルド長ヤーコフの方ですか?」
「シスターメアリーが武装をして本気を出したら、あの護衛ではお茶を淹れる時間すら保たないと思いますよ」
「うへえ!」
シスターエレナによれば、シスターメアリーは『サラマンダーナックル』という火属性の装備を持っているそうだ。
この『サラマンダーナックル』は拳に炎が宿る魔導具で、水属性の魔物はもちろんのこと、ゴーストやリッチといった魔物も拳で消し飛ばすらしい。
俺はシスターエレナの話を楽しく聞きながら、シスターメアリーがなぜサイドクリークの町にいるのか納得した。
「ああ、そうか……。戦闘経験のあるシスターメアリーだから、魔の森に隣接するこの町へ赴任されたんですか?」
「ええ。そういったことも教会本部の人事部は考慮しているそうです」
そこまで聞いて俺は一つのことに思い当たった。
シスターメアリーが武闘派聖職者であるなら……、相方のシスターエレナも?
「あのぉ……シスターエレナも戦闘の心得があるんですか?」
「はい。私は神学校で杖術を修めました。魔物との戦闘経験もございますよ?」
「ソレハ……大変……心強い……デスネ……」
シスターエレナは良家のお嬢さんが聖職者やっているような雰囲気だが、中身はバリバリの武闘派なのか……。
それとも、魔物のいる世界だから戦闘術を覚えざるを得ないのか……。
チラリとシスターエレナが手に持つ杖を見る。
長い杖で、斜めにしてギリギリ助手席に入った。
先端はU字型で、Uの間に透明な玉が挟み込まれている。
よく見るとU字の先端は鋭い。
(あれで魔物叩いたり、切り裂いたりするのか! 恐ろしい!)
「リョージさん? 何か?」
「いえ! 何でもありません!」
シスターメアリーとシスターエレナが、見た目と違い武闘派だと判明した。
俺はお二人と仲良しになって良かったと密かに胸をなで下ろした。
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