第33話 作戦その二 開拓村へ

 ――翌日。


 俺は作戦その二を実行するために、若いシスターエレナとソフィーを移動販売車に乗せて領主屋敷へ訪問した。


 作戦その二は、サイドクリーク近隣の開拓村を移動販売車で回るのだ。


 開拓村を回っていた商人たちは、商業ギルド長ヤーコフの締め付けに嫌気が差しサイドクリークの町を離れてしまった。

 現在、開拓村には商人が訪れていない。


 開拓村は農村で狩人もいるから、食料は自給できる。

 それなら開拓村に商人が訪れなくても大きな問題はなさそうだが、一つだけ問題がある。


 それは……、塩!


 塩は領主の専売であり、開拓村の近辺に岩塩は産出しない。

 誰かが塩を運ばなければならない。


 じゃあ、開拓村の農民がサイドクリークの町まで塩を買いに来るかというと、なかなかそうもいかない。

 日々の農作業があるし、開拓村からサイドクリークは離れている。


 開拓村はいくつかあるが、サイドクリークとの距離は、どの村からも一日、二日かかる。

 さらに道中魔物が出没し、移動には命の危険があるのだ。


 そこで俺が領主の依頼を受けて、開拓村に塩の販売へ向かう。

 もちろん表向きは、精霊教教会による開拓村への慰問だ。


 商業ギルド長ヤーコフには、文句を言わせない。


 こうして徐々に商業ギルドの存在を有名無実化する。

 領主、商人、冒険者ギルド、教会、住民から必要とされない商業ギルド。

 果たして王都の商業ギルド本部がどう思うかな?



 領主屋敷の外で、俺は領主ルーク・コーエン子爵から塩を取り扱う許可証を受け取る。

 屋敷の使用人が壺に入った塩を慎重に運んできた。

 俺は塩の壺を受け取り、移動販売車の中にのせる。


「じゃあ、リョージ君。よろしくね」


「はい! 承りました!」


 コーエン子爵は偉ぶることなく、そよそよと吹く風のような人だ。

 俺は領主様が相手なので、キチンと直立不動で頭を下げた。


「任せるからさ。可能なら開拓村で色々売り買いしてあげてよ。開拓村って楽しみがないんだ。だから商人が訪れるのを楽しみにしてるんだよ」


 なるほど、商人訪問が開拓村のイベントのようだ。


「はい。村人たちと交流して来ます」


「うん。頼んだよ」


 コーエン子爵に見送られ、俺たちは開拓村へ移動販売車で向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る