第27話 ソフィーの氷魔法
俺はソフィーを連れて移動販売車に入った。
移動販売車はトラックで、荷台部分は箱のタイプ。箱が店舗になっている。
俺はソフィーに冷凍ストッカーを見せた。
「ソフィー。これは冷凍ストッカーといって、凍った物を保存して置く入れ物なんだ」
「う~ん?」
ソフィーは、俺の説明に首をひねる。
言葉だけでは、わからないよな。
俺はストッカーの蓋を開いた。
「ほら! 冷凍ストッカーの中に手を入れてご覧! 冷たいぞ~!」
俺は小さい子供に話しかける要領で、ちょっと怖がらせる感じで話した。
ソフィーは、『なに? なに?』と好奇心一杯の表情で冷凍ストッカーに手を入れた。
「うひゃ! 冷たい!」
「この冷たさ。物が凍る冷たさなんだ」
「凍る?」
「そう! 凍る! ソフィーは氷を見たことあるかな?」
「ある! 冬にタライやバケツの水が凍ってた!」
おっ! この地方は冬になると水が凍るのか!
それならば説明がしやすいぞ!
「水は冷たくなると固まって氷になるんだ。ほら、そこにロックアイスというのがある。その透明の袋だよ」
ソフィーは冷凍ストッカーの中に入っているロックアイスに触った。
「カチカチしたのが入ってる!」
「それが氷だよ! そのロックアイスは、水を固めて砕いた物なんだ。水は冷たくなると固まる。水が固まる温度を零度というんだ」
「ふ~ん。零度……」
「ソフィーが手を入れている冷凍ストッカーの温度は、零度より冷たくなっているんだ。だから氷が溶けない」
理解してもらえたかな?
どうだろうか?
ソフィーは冷凍ストッカーの中をゴソゴソとかき回している。
零度、冷たい、凍る、ということを体感してくれれば良いのだが……。
ソフィーがストッカーから冷凍食品を取りだした。
「リョージ。これは何?」
「ギョーザという食べ物だよ」
「カチカチだけど、食べられるの?」
「このカチカチの状態から温めると食べられるようになるんだ」
「不思議」
「そうだね」
冷凍食品のない世界の人からすれば、カチコチの食べ物が食べられるようになるなんて考えられないのだろう。
ソフィーは冷凍ギョーザのパッケージを眺めたり、手で叩いたりして硬さを確かめている。
やがて興味がなくなったのか、冷凍ギョーザを冷凍ストッカーに戻した。
やっ! また何か見つけたらしい!
ソフィーの目がキラキラ輝いている。
「リョージ! これは?」
ソフィーが冷凍ストッカーから取り出したのは、ちょっとお高いカップのアイスクリームだ。イチゴの美味しそうな絵が描いてある。
「それはアイスクリームというお菓子だよ」
「お菓子!」
お菓子にソフィーが激しく食いつく。
微笑ましいな。
「うん。甘くて美味しいよ」
「絵が描いてある!」
「それはイチゴ味。そっちはバニラ。クリームパンに近い味だね。それはチョコレート。人気のある味だよ。一つ食べようか?」
「やったー! リョージ大好き!」
ソフィーが俺に抱きついて喜ぶ。
よいよい。アイスクリームでそんなに喜ぶなら食べたまえ。
ソフィーはチョコレート味のアイスクリーム。
俺はコーヒー味のアイスクリームを選んだ。
移動販売車の外へ出て、仲良く地面に座ってアイスクリームを食べる。
「おおおお……おいしい!」
「美味しいよな! アイスクリーム! 良かったな!」
ソフィーは小さな手でプラスチックのスプーンを持って、硬いアイスクリームを一生懸命崩して口に運んでいる。
半分食べたところで、俺はソフィーに話しかけた。
「ソフィーアイスクリームが柔らかくなっただろう?」
「本当だ! さっきより柔らかい!」
「凍っていたのが溶けたんだ。冷たいと凍る。暖かいと溶ける。水は零度の冷たさだと凍る。水が凍った物が氷。そして……」
「そして?」
「ソフィーの属性は氷!」
「おお!」
「な? 魔法の先生がいなくても、氷のことがわかっただろう? 氷のことをしっかりイメージすれば、氷魔法が使えるかもしれないぞ!」
「うん! ソフィーなんかわかった!」
ソフィーはアイスクリームを食べ終わり、すっくと立ち上がった。
そして右手を突き出して、グッと集中する。
これは……魔法が使えちゃうのかな……?
俺はジッとソフィーを見守った。
ソフィーが口を開いた!
「あいすくりーむ! ぼーる!」
「うーん! 惜しい! ソフィー! 惜しいよ!」
違うんだな! ちょっと違うんだな!
アイスクリームをファイヤーボールみたいに飛ばす魔法はないんだな~!
「むう……あいすくりーむが出ない……」
違う違う! そうじゃない! 氷魔法はアイスクリームの魔法ではない!
これは修正が必要だ。
俺は慌てて移動販売車に戻り、ロックアイスを取ってきた。
ロックアイスの封を開けて、手にロックアイスを持つ。
「ソフィー。見てご覧。これが氷だよ」
「カチカチだね!」
「そう! カチカチに凍った水だ! それで、この氷を飛ばすんだ! あの森へ向かって投げるよ!」
俺は教会の敷地内の森へ向かって、ロックアイスを投げた。
ゴブリンを倒した時のように、結構力を入れて投げたので、ロックアイスは音を立てて飛び、太い木の枝に着弾した。
ベキリと音を立てて木の枝が折れ地面に落ちた。
そう。俺はこの世界に来て明らかにパワーアップしているのだ。
ロックアイスでも投げれば凶器と化すのだ。
「おお! リョージ凄い!」
「今のを魔法でやる感じ」
「わかった! うーんと……カチカチ!」
ソフィーが『カチカチ!』と叫んで右手を振った。
すると空中にロックアイスが現れ勢いよく森へ向かって飛んでいった。
(うお! 今見たことを、すぐに魔法で再現した! 一発で再現かよ!)
俺が驚いて見ていると、ロックアイスは木の枝に激突し、木の枝をへし折った。
「やったー! 出来た! 氷魔法! 出来た!」
ソフィーが飛び跳ねて喜ぶ。
俺も一緒になって喜んだ!
「凄いぞ! ソフィー! ソフィーはやっぱり魔法の天才だ!」
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