第26話 ソフィーの気持ち

「「クリーン……クリーン……」」


 俺とソフィーは、教会に戻ってきた。

 生活魔法クリーンを使って、空き缶やプラゴミをきれいにしている。

 ソフィーも手伝ってくれるので、作業がはかどる。


 生活魔法クリーンは、非常に便利な魔法で、空き缶もプラゴミも新品同様にきれいになる。

 ただ、空き缶のへこみやプラゴミの切った部分は修復されない。

 落ちるのは汚れだけだ。


 俺は自分自身にクリーンをかけてみたが、体がさっぱりして、口の中の嫌な感じもきれいになくなった。

 これならお風呂に入らなくても清潔に保てる。

 なかなか便利だ。

 これからは生活魔法クリーンをチョコチョコ使って身ぎれいにしよう。



 ゴミをきれいに片付けて、ソフィーと二人で一休み。

 俺は缶コーヒー。ソフィーには、彼女が大好きなクリームパンである。


「ほら! ソフィー! クリームパンだよ!」


「うん……ありがと……」


 ソフィーは元気がない。

 クリームパンをモシャモシャと無言で食べている。


 俺とソフィーは移動販売車に寄りかかって座り、ボーッと教会の敷地の中にある森を見ていた。


 それにしても納得がいかないのは属性魔法である。

 俺とソフィーは生活魔法クリーンを連発出来るほど魔力があるのに、教えてくれる人がいないので属性魔法は使えない。


 ソフィーは属性魔法を覚える方法がないことにガッカリして、いつもの太陽のような笑顔がない。

 大好きなクリームパンにもかかわらずだ!


 ソフィーに元気がないと、正直、俺も辛い。

 俺自身の付与魔法なんて、どうでもいい。

 俺のことより、ソフィーの二属性の魔法――雷と氷が覚えられないことの方が辛い。


「リョージ……」


 ソフィーが悲しそうな声で俺を呼んだ。

 ああ……、どうしたらいいのだろう……。

 俺はソフィーの悲しみを受け止める気持ちで、精一杯穏やかな声で返事をした。


「うん? なんだい?」


「ソフィーは、魔法の才能がないのかな?」


「そんなことはないよ! ソフィーは珍しい属性魔法に適性があるんだ! 生活魔法だって沢山使えたじゃないか! きっとソフィーは天才だよ!」


「そっか……ありがとう……。ソフィーはね……。孤児院に住んでるでしょ? お金がなくて食べる物がなくて……。シスターも、みんなも大変なんだ……。だから……魔法が使えたら……お金持ちになって、みんなが楽しく暮らせるかなって……」


 俺は精一杯励ましたが、ソフィーの憂いは晴れない。

 涙を堪えてクリームパンを食べている。

 子供なのに孤児院のことを考え、なんとかしようと思っていたのか……。

 ソフィーが商売に詳しいのも、孤児院の状況を改善しよう、お金を稼ごうとした結果なのかもしれない。


 子供のいない俺は知らなかった。

 子供って案外周りを見ているものなんだな。


 何とか出来ないだろうか……。

 俺は魔法の入門書を開いた。

 入門書には、属性魔法の習得方法は記載されていない。


 だが、俺は一つの文章に引っかかりを覚えた。


『魔法を行使する際は、結果をしっかりイメージすること』


 魔法のキモはイメージではないだろう?

 魔法を行使したイメージ、結果のイメージをしっかり持てば、属性魔法が使えるようになるのでは?


 少なくとも生活魔法を覚える時は、ライターをイメージしたら生活魔法ファイアが使えた。

 ソフィーは俺の真似をしたら、生活魔法を使えるようになった。

 目の前に魔法を行使した状態があった、見本があったからイメージがしやすかったのでは?


 ならば、氷魔法、雷魔法も、ソフィーが結果をイメージ出来れば使えるようになるのではないだろうか?


 ソフィーに氷と雷のイメージを持たせる……そうだ!


 俺は一案を思いついた。

 移動販売車には冷凍ストッカーがある。

 冷凍食品やアイスクリーム、ロックアイスを取り扱っているのだ。

 冷凍ストッカーで冷たさを体感させ、ロックアイスを触らせれば氷のイメージがつかめるのでは?

 可能なら水が凍ることを理解すればバッチリではないだろうか?


「ソフィー。俺は魔法のことはわからないけど、氷のことならわかるよ」


「えっ!?」


 ソフィーが驚きと期待が入り交じった目で俺を見る。

 俺はニッコリと笑う。


「じゃあ、クリームパンを食べてしまおう! そしたら氷のお話をするよ!」


「わかった! はむっ! はむっ!」


 ソフィーに元気が出て来た!

 俺はクリームパンを食べ終わったソフィーを移動販売車に案内した。

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